トムプロジェクト

2015/12/14
【第762回】

「鴨居玲 死を見つめる男」を読了...独自の絵画を確立した画家を支えた、日動画廊の長谷川千恵子さんが書いた本である。今年が没後30年、1985年9月7日に自殺、享年57歳。彼の絵を見てスペインの画家ゴヤを連想した。勿論、生きた環境、時代は違えども、その根底に流れている精神構造は同じものを感じた。41歳で安井賞を受賞、いくら描いても満足できず世界あちこちにアトリエを求めていった放浪の画家でもある。繊細でなにごとにも夢中になる破滅型の人生ではあったが、お茶目な面も多々あり、周囲の人間を煙に巻く遊び心をも持ち合わせていた。彼の重厚かつ深く沈んだ絵を見ていると、彼の内部に潜むとてつもない闇を感じてしまう。一つの作品を完成しても次なる闇に向かってしまう絵描きの業。どんなにも酒を飲み尽くし、楽しい時を過ごしても孤独と苦悩が押し寄せる。他人の心に潜む暗部が気になって仕方が無かったのであろう...アートを追求していくと、その作品が己の化身となり、表現したモノを批評しだし、もう一人の自分が出現するという厄介な事態に陥ってしまう。まさしく芸術という魔性に取り憑かれた画家である。だからこそ、人を惹き付けるのである。己の心身を削るように描き続けた作品が、見る者の感性を揺さぶるのは至極当然のことであろう...そんな彼が唯一心を許し解放できたのがスペイン・バルデペーニャスでの日々であった。おいらにはよく分かる、あの燦々と輝く太陽と、日々祝祭のごとく人生を謳歌している人達の輪の中に居ると、全てのことが許され、己に巣くう闇がなんと可愛げで愛しいモノであったかを気づかさせてくれる。

この物欲文化に覆い尽くされ悲鳴をあげてる世界の諸君、是非スペインアンダルシアのひなびた田舎に行って、もう一度ニンゲンのあるべき姿を学んで欲しい!ほんとですよ...

762-1.jpg

「ピエロ」1983年作

762-2.jpg

「肖像」1985年作

<<次の記事 前の記事>>