トムプロジェクト

2016/10/31
【第884回】

先週末、久しぶりに留守晃さんの歌を銀座の老舗シャンソニエ「蛙たち」で聴いてきました。
トメちゃん、歌を創りだして40年になる...トメちゃんいわく己の魂が言葉、メロディを紡ぎ出しているそうな...この日も若々しい姿で登場しました。さすが20年前、『ミス・サイゴン』日本初演のトゥイ役を務め、その後も『レ・ミゼラブル』のアンジョルラス役などで大活躍した俳優さんです。しゃべくりは上手いし、表情も豊かです。特徴ある声もしびれます。いろんな体験と人間観察から生み出した言葉には、味わい深いドラマがぎっしりと詰まっています。絵も上手いし(トム・プロジェクトの作品「風間杜夫一人芝居」のチラシ・ポスター、「だいだいの空」の劇中の絵も提供いただきました)本当にアートのために生まれた男だと思います。おいらはトメちゃんにもっと強気に積極的にいかないと!と言ったことがあるのだが、シャイなトメちゃん、あまり欲もなく淡々と好きな歌を創り気が向いたときにライブに顔を出し、気が向くままに絵筆をとり遊び心を自由に操りながら楽しんで居るような感じがするのだが...いやいや真のアーチストは創作の過程、苦悩は見せないもんでございます。トメちゃんの繰り出す言霊と音は半端じゃございません...おいらがトメちゃんの創った歌の中で一番好きな「休日」この日もうるるんと来ちゃいました。一人の男が生きてきた軌跡が、この歌の中に見事な作品として結実しています...まさしく表現とは、その人の生き方そのもんですな。

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留守晃自作のチラシ

2016/10/28
【第883回】

昨日、劇団チョコレートケーキの「治天ノ君」再演初日を観劇...3年前の公演では多くの賞を受賞し一気にブレイクした。なんたって謎に包まれた大正天皇を題材にする発想が吃驚仰天でございます。天皇を扱った作品は、この世ではタブー視された歴史がある。天皇を神と敬い、少しでも天皇に対する侮辱行為があれば、直ちにテロに走る輩が現存するからである。この話を、劇団から企画として聞かされたとき、おいらは大丈夫かいな?と心配した記憶がある...ところがどっこいである。劇作家の古川健が見事な人間ドラマとして書き上げたのである。そして気鋭、日澤雄介の統一感ある演出力で緊張感溢れる2時間20分の芝居に仕立て上げた。3人の劇団員以外の役者も皆素晴らしい。40歳前後の人達が、この時代、この世界を分析、調理し舞台劇として提出した勇気と努力に乾杯!
今回は、国内8都市、ロシア3都市、27ステージの旅公演を経てのシアタートラムでの公演。満杯の観客の中で、堂々とした立ち振る舞いでの役者陣を観ながら、場数と賞賛で人は自信を持ち大きく成長していくんだなと改めて思いました。
芝居が始まる前に、三軒茶屋にあるディープゾーンを散策。おいらは何故かこんなところを覗くのが好きなんですね...何故かって?そりゃ人の匂いがするからでござんすよ。昨日行った劇場も近代的な建物の中にあり、街はことごとく近代という名のもとに昔の人の生きた証を消滅させようとしています。無味無臭の空間から逃れ、古い建物が建ち並ぶ小路を歩くと心もほっこりしてきます。こんなところで今夜も熱燗でぐいっとやりたいものですな!

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三軒茶屋ディープゾーン

2016/10/26
【第882回】

台湾が2025年までに原発を0にする声明を出した...なのに、この日本は政府、民進党含め動きが鈍い。東日本、熊本に続き鳥取でも大きな地震が発生したにも拘わらず、原発廃止の討議さえ行われていない。こんな不思議なことがあるのが摩訶不思議...テレビ、新聞などでもあまり目立った露出がないし、国民側からの大きな働きかけがないという情けなさ。もう一度、東日本大震災なみの惨状を見せつけられないと心も身体も反応しないくらい鈍感になっちまったのかな...昔、過激な論客が言ってたな、この国は全てをぶっ壊さない限り気づかない不感症民族だ!そうなんです、危機意識がかなり低いなんて言ってるうちに日本沈没なんてことになっちゃうかもね。
そんな呑気な人達を覚醒させる意味でも、次回作「挽歌」は大切な作品になります。現在、錦糸町の稽古場で6人の精鋭が稽古中。なかでも昨年2月に古川健作、日澤雄介コンビで創ったトム・プロジェクトの作品「スィートホーム」で第50回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞した高橋長英さんが演じるホームレス歌人に注目。原発が引きおこした事実の重みに演劇がどこまで拮抗できるか...
水俣に続いて、またしてもトム・プロジェクトは問題作にチャレンジしています。誰しもが避ける難題に、敢えて戦いを挑むことこそ今を活きるニンゲンの在るべき姿じゃございません。

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秋景色

2016/10/24
【第881回】

週末も多忙な日が続きました...土曜日には今回「静かな海へ」に出演して頂いた永島敏行さんの還暦と芸能生活40周年を祝う会に出席してきました。南青山の素敵な空間でとってもあたたかい会でした。会場で流された高倉健、若山富三郎さんなんかと共演している映像を観ながら、永島さんの若い頃の無骨で純粋な表情が印象的でした。おいらが印象に残っているのは映画「サード」「遠雷」かな...「遠雷」を監督した根岸吉太郎さんの祝辞が素敵でした。この映画での土着性を、その後表現者として生活者として両立継続している彼に乾杯!と述べてました
日曜日は、首都圏演劇鑑賞団体第31回定期総会に浦和まで行って参りました。演劇をこよなく愛し、演劇鑑賞運動を通じて、平和で文化的な社会を...そうなんです。おいらはこの方々に素敵な作品を提供しなければならんのです。「静かな海へ」は、その期待に答えることが出来たんじゃないかな。10月22日(土)朝日新聞の一面の名物コラム「天声人語」に芝居のことが掲載されてるんじゃありませんか!ここの記事は朝日新聞の顔みたいなものです。芝居関係の記事が掲載されることはまずありません。その一部紹介しますね。

...その細川医師をモデルにした創作劇「静かな海へMINAMATA」を東京都内で見た。主人公の医師は手足のしびれや言語障害などの症状に苦しむ患者たちを診て、究明に乗り出す。工場排水を連日与えたネコに同じ症状が現れ、衝撃を受ける▼「ネコの実験を本格化させたい」と申し出るが、チッソ幹部から「わが社の見解に合わない」と拒絶される。真相を明かせないまま、60代で引退した▼娘や若い環境学者に説得されて心が揺れる。第2の水俣病を新潟の現地で目の当たりにして、患者側に寄り添う決意をする。戦時中からずっとお世話になったチッソへの恩義と、医師としての良心のはざまで苦悩する姿には胸を打たれた...

今日が横浜での最後の公演。これで終わりではなく、再演してまだ見ぬ観客にお届けしたいな!呼んでくれれば地の果てまでも行きまっせ...といっても、アザラシちゃんシロクマちゃんじゃわからんし、あくまでも人様がいらっしゃるところですよ。

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秋の公園

2016/10/21
【第880回】

昨日で「静かな海へ~MINAMATA~」東京公演無事千秋楽を迎えることが出来ました。
この水俣をなんとか作品として舞台化できたこと本当に嬉しいです...誰かがやるだろうではなく、生きてる人が、こうやって世の中に指し示す責任があると思います。そして、今回も観てくださった人から一通の葉書が届きました。葉書にびっしりと書き込まれた文面には、この舞台が、しっかりと観客の心の襞まで届いた感がして、ひとり安堵の胸をなで下ろした次第でございます。以下、葉書の文面です。

拝啓 「静かな海へ」は重く悲しい話ですが同時に逞しい話であると思います。正しいと思うことも独りでは世間に通用させるのは至難の業です。卑怯と自分を責めながらも、長い年月をかけやはり正しく世に問うべき事象を訴えかけた心の逞しさです。胸に抱いた正義感は少しばかりの格好付けではなく、本物の力となって世の中を動かします。ある意味期待されることを主旨としない、無欲の行動が、人の心を熱くします。大変なことが起きていると子供心にも不安を覚えた水俣病の実態。何故か知らされているようで、全体を掴みきれていなかったその真実が、この演劇を通して目の前に拡げられた感があります。思いを同じくした出演者と作りあげた作品とパンフレットにも記されていますが、正面からこの時代の巨悪に向き合ったひとつの答えが、この芝居に結実しています。日頃世の中のやっかい事には腹を立てながらも見て見ぬふりをすることが多い自分自身の行動に喝を入れられたひとときでした。立派な演劇という行動に拍手。また次回。 敬具

このO氏の言葉を肝に銘じ、次回作「挽歌」は東日本大震災がテーマの芝居です。もっと楽しい面白い芝居創ってや!そんなお声も聞いておりますがな...でもでも世の中は安閑としている場合じゃございませんことよ。微力ながらも、弱者の立場になった視点からなにかを発信し続けないと、この社会ほんまにフニャフニャ、コンニャク、沈没列島になっちまいますがな...喝!

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葉書原文

2016/10/19
【第879回】

新宿西口小田急百貨店前の有名ブランド掲示板の前で今日も「アフリカの貧しい子供達のために...」いつものアフリカのお兄さんが、たどたどしい日本語を操りながら募金活動をしています。いつも思うのだが、善意で募金箱に入れられたお金が、本当に貧しい子供達に届いているのだろうか?こればかりは誰にも分かりませんがな...うがった見方をすると、この若者も新宿を仕切っている暴力団関係者がバイト感覚で雇い資金集めをしているかもしれません。以前、同じく募金活動しているアフリカ人らしき娘さんが、いかにもやくざ風の男とお茶してるところをみたことがあるので、もしや?なんて推測をしちゃいました。
この場所から少し離れたところに、犬を数匹並べ「捨てられたわんちゃんのために...」こちらもほぼ毎日募金活動に励んでおります。わんちゃんも少々お疲れ気味で、こちらも見方を変えれば虐待ではないかと思うことがあります。わんちゃんに可愛さを要求する様を見るにつけ何だかいかがわしさがプンプン臭って参ります。
いずれにしても、CHANELのお洒落なレディの前に立つ黒人男性、片やCartierのリッチな黒猫の前に並べられた犬、その横にはTIFFNYの燦然と輝くダイヤモンド、なんだか現代社会の不条理を指し示す構図じゃありませんかなもし...

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新宿西口小田急百貨店前にて

2016/10/17
【第878回】

水俣山脈の頂は...「静かな海~MINAMATA~」先週の金曜日に初日を迎え、昨日で3ステージを終えました。水俣病発症から今年で60年、今尚、新聞、テレビ、雑誌などで水俣の言葉を目にするのだが、実際の処、この水俣病のことをどれだけの人が理解しているのだろうか?そして、今後どのような推移を辿っていくのだろうか...この難問題を解き明かすには相当の辛苦が伴うのは当然である。なんとかスタッフ・キャストの総力戦で立ち向かって、ようやく初日にこぎ着けた次第である。
しかも、演劇という至難の手法を労しての作業なので一筋縄ではいかないのである。と言っても、観に来て頂く人達にいい訳は通用しない。この3日間、プロデューサーの観た感想はと言えば、今回の芝居のラストに医者の妻が発する台詞「まずひとつ...。まだ全てが終わった訳じゃないんだから...。」この言葉に尽きるかな...
新潟の知事選、原発再稼働慎重派の勝利に終わった。この原発も水俣病と連動している...
地域に生活している人達の苦悩、環境、でも過ちは繰り返してはいけないのではないだろうか...この狭い国ニッポンの存亡を考えるならば原発再稼働はあり得ないし、利益のために病人、死人を出してはいけないはずなのに、何故かこの国の思考は貧している。
ついさっき、おいらの事務所のビルに珍しく国会議員がやってきた。おいらと一緒にエレベーターに乗り議員と秘書らしきものが4階で降りるので、おいらが入り口を譲り、ドアーのオープンボタンを押しているのに一言も発することなく傲慢な表情で立ち去った。スーツには議員バッジが燦然と輝いておりました。なんぼのもんじゃい...こんな程度のおつむの人達が国を司ってるんですから、しょんなかですばい!

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共生

2016/10/13
【第877回】

明日から「静かな海へ~MINAMATA~」上演します。今回も、改めて水俣に関する本、資料、映像再見、再読しました。その中で印象的だったのが、漁師でありながら自ら穫った魚を食べ水俣病患者になった男性の話です。勿論、訴訟を起こしチッソ工場の玄関前に一人で座り込み抗議しているうちに「俺は被害者ではなく、俺もチッソ側の人間ではないのか...」人間だけが賠償金よこせと騒ぎ立てているのだが、海中の魚、のたうち廻る猫、その他生きとし生けるものすべてが、人間社会に便利なものを生み出すための犠牲になっているのではないか...人間の途方もない驕りに気づいた漁師は、早速、利便性が高いプラスチックの船を破棄し木造船を造り再び漁生活を再開しました。

そうなんです。おいらは何度も口にしているのだが、まさしく地球の癌細胞がニンゲンなんです。平気で森林を伐採し、排気ガスをまき散らし、静かな海を汚し、欲望のままに生き物を殺戮し、ああこりゃこりゃなんてだらしないない生き方をしている動物なんです。もう、ええ加減、発展、便利お休みにしたらええんと違います...

今日の朝のテレビでカヌーの選手が言っとりました。カヌーの競技場は東京じゃないと困る...何抜かしとるんじゃ!金塗れ、業者と役人・政治家の金儲けのために建設する新競技場なんて誰も喜んでおりまっせん。2020年のオリンピックは復興のための大会じゃなかったのかな?宮城県での開催異議なしでござんす。おいらは、今もオリンピック中止論者でございます。東日本、熊本の震災の後始末、復興もままならないのにオリンピックどころじゃないでしょう...いつの世も権力者は、世間の目をお祭りごとに向けさせ、都合の悪いことには蓋をするのが常套手段でござんすよ。皆の衆、しっかりせんとえらいことになっちまいますがな...

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暮れなずむ東京駅

2016/10/11
【第876回】

2011年から三菱地所と協力して実施されている「丸の内 行幸マルシェ×青空市場」に先週金曜日、東京駅前・行幸地下通路(行幸地下ギャラリー前)で「静かな海へ」の宣伝イベントやってきました。青空市場は、市場(いちば)本来の姿である生産する人々と買う人々が都市で直接交流し、新たな食文化の創造と食に関する情報の受発信ができる場所として設定されたものです。この青空市場の主催者が、今回出演する永島敏行さんであることから今回のトークショーが実現しました。今回のキャスティングも、永島さんが俳優を続けるかたわら、秋田十文字町で1993年以来20年間米作りを続けることを知り、自然・環境に強い関心を持っている一人ということで決めました。今回の芝居は、やはり表現者としての一面と社会に対する姿勢を重要視しました。表現にはその人の生き方がそのまま出ますからね...水俣にどう向き合うか?芝居が成功するか否かに大きく関わるポイントだと思います。

この日のトークショーは、全国の野菜、海産物を買いに来たお客さんに呼びかけ演出家、5人の出演者の息のあったトークで盛り上がりました。ちゃっかりチケットも販売しちゃいました。

今日が最終稽古、2時からの通し稽古が楽しみです。

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青空市場トークショー

2016/10/07
【第875回】

この兄さん、えっこらやっこらチャリンコでスピーカー積み込んで新宿南口に出稼ぎに来ておりました...おいらが以前にも書いたルミネの刺激的なコピーをバックに、スコットランド民謡をヴァイオリン片手に奏でておりました。頭の被り物とのミスマッチがよござんすね。この通りはバスタ新宿(地上バスターミナル)が出来、道幅も拡大され大変な人通りです。これと併設して新宿駅直結の複合施設、ニュウマンもオープンし新しい新宿の顔になっています。この建物に入っているレストラン・カフェ皆お洒落で粋ですぞ。なんだか異国情緒を満喫でき得した気分になります...こんな場所でのお兄さんのスコットランド民謡いかがなものかな?おいらもスペインで大道芸をやった経験上、投げ銭がどれだけ放浪の旅の手助けになったかを重々知ってるもんで、兄さんにチャリンと投げ銭置いてきました。

道幅も広くなり、多くのストリートミュージシャンが自己ピーアールのために集まっているのだが、中にはなんじゃこりゃ?みたいな人も居てまさしく玉石混淆。時折、若いお巡りさんが始末書書かせて退去を促す光景を目にするのだが、全く姿を消すこともないので、これは一応仕事上やってますポーズなんで一安心しております。街の大道芸人が居なくなったときは恐ろしい社会の前触れかもしれません...街は劇場、いろんなドラマが転がってるはずです。その旗振り役が大道芸人。温かい目で見てやってくださいな...

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音楽に頼りすぎると...いいんじゃない!

2016/10/05
【第874回】

錦糸町の駅前でおかしなことやってる兄さんがおりました...8時間連続で「あ」の一音を発声しながら声音を調整しているとのこと。おいらがカメラ構えると嬉しそうにVサインをしてくれました。でも、こんなことやって誰が喜ぶんでしょうかね?その証拠に誰も集まりませんがな。声も小さいしスーツ姿で、おいらなんかどこかの宗教活動かなと思いました。

新宿にもよく見かけるんだが、男子はスーツ姿で頭髪もスッキリ、いかにも裕福で育ちの良い女子って感じで宗教の誘いをやっとります。おいらなんか、この清廉潔白を演じてる姿がまず胡散臭いと思いますね。何かやましい魂胆があるからして、この服装に作り笑い。道行く迷える子羊ちゃんたちが言葉巧みな誘いに乗っかって洗脳されんこと願うのみ。でも、あの立ち姿を見せられたら、ついつい悩み事聞いて貰おうなんてことになっちゃうんですな。

人の弱みにつけ込んで、しこたまお金をお布施として上納し、挙げ句の果ては心も金縛りに遭い、人のため世のためと称して街頭宣伝誘惑班に駆り出される始末です...なんて負のイメージで書いたんですが、こうやって巨大な宗教集団が厳然と全世界に存在してるんだから救われ幸せに感じてる人がいることも間違いなき事実ですな。

まあ、いずれにしてもおいらは無宗教であり、森羅万象すべからく感謝の気持ちで日々過ごすことが宗教だと思っとりますから気が楽ですわ。

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アー無常

2016/10/03
【第873回】

借景でこの芝居は観客の心待ちを鷲づかみしている...そんな芝居「楽屋」を観てきました。台東区柳橋に、嘗てある芸者さんが住んでいた自宅をギャラリーにした古い一軒家の二階。階段を上がると芝居を上演する一室があった。日本家屋の窓の引き戸が開けられ、向こうに見えるのが隅田川、この川を行き交う遊覧船、その上には高速道路を走る車、上手の方には総武線を上下交互に駆け抜けるJRの黄色の車両。そして、この季節強烈な匂いを漂わせる金木犀の花がこちらに語りかけてきそうな存在感...芝居が始まる前からこの風景を魅せられちゃお手上げでございます。窓際にしつらえられた長い化粧台が、眼前に広がるリアルな風景との、彼岸と此岸という対をなしている設定から芝居は始まるのである。嘗て、この楽屋に出入りしていた亡霊女優が現実の風景を前にして(観客には背を向けている)メークをしている冒頭は、この見事な借景があって心待ちした観客のボルテージは一気に上がるって訳なのさ...時空間の魔術師、唐十郎を師とする鳥山昌克演出の見事な仕掛けを堪能させて頂き、浅草橋駅付近で引っ掛けた一本百円の焼き鳥と、ハイボールが何故か愛おしく感じました。

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会場入口