トムプロジェクト

過去の作品 演劇

夏.jpg四季シリーズ『夏』


【作・演出】山崎哲
【出演】松尾伴内 グレート義太夫

1999年10月16日~10月19日
紀伊國屋サザンシアター


横山やすしさんとある週刊誌で一度だけ対談したことがある。その年やすしさんは正座して両手をついて「先生、よろしゅうお願いします」お私ごときに初対面の挨拶をした。腰を抜かすほど驚いて私が居を改めようとした瞬間、やっさんはもう料理を置いて廊下へ出た仲居さんに小さな、刃のような声を放っていた。
「ワレ、(障子を)閉めんかい!」と、私はその額に青筋が浮いたのを見逃さなかった。

対談も尋常とは思えなかった。「ほな、そろそろ(対談)を始めましょうか」と言うやいなや、やっさんは時速三〇〇キロはあろうかと思われるような速度で喋りはじめたのだ。あの独特な関西弁で、しかも「子どもが荒れとるが親が悪いんや。ワシは(親として)間違うとらん。ワシの子どもは立派に育ちましたでえ」などと。

数か月後、皮肉にも息子が傷害事件を起こしてやすしさんは謹慎することとなったが、そんなことはどうでもいい。
対談を芸(漫才)として披露してくれた天才横山やすしに私はひたすら感謝した。畏敬の念を抱いた。

思えば生前本人が語っていたように、横山やすしの人生は「×(ペケ)だった。すべてに、徹底して「×」だった。
でも私はそんなやすしさんが大好きだった。「×」を宿業として受け入れた愛すべきやっさんに、この舞台を捧げたい。