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この不透明な時代に、今尚、戦争の文字が日常から消えることはない。日本にとっても永遠の課題でもある。戦争が引き起こした悲劇をテーマに、あるゆる表現を通じて反戦の運動が繰り返されてきた。演劇も然り。「ダモイ〜収容所(ラーゲリ)から来た遺書〜」は、1989年に辺見じゅん著「収容所(ラーゲリ)から来た遺書」を基に書かれた。第21回大宅壮一ノンフィクション賞、第11回講談社ノンフィクション賞を受賞したこの作品は、第二次大戦後、シベリアに抑留された男たちの物語である。敗戦から12年目に遺族が手にした4通の遺書。ソ連軍に捕われ、極寒と飢餓と重労働のシベリア抑留中に死んだ山本幡男氏のその遺書は、彼を慕う仲間たちの驚くべき方法により厳しいソ連監視網をかいくぐったものだった。悪名高き強制収容に屈しなかった男たちの、したたかな知性と人間性を発掘した辺見じゅんさん珠玉の書。声高に戦争の罪などを問うわけでもなく、ただ真摯に生きる人間の姿を淡々と描くこの書の中に、これからの生きるヒントがいくつも隠されている。
 この作品を作・演出する、ふたくちつよしは、1974年桐朋学園大学演劇専攻科を卒業後、自ら劇団を結成し、これまでに16本の作品を作・演出してきた。大学時代の同期に、次々に話題作を作り出している話題の劇作家永井愛がいる。永井愛しかり、この年代の作家がじっくりと時間をかけて熟成した言葉は、このハイテクの時代に、より有効な劇的効果を与えてくれる。人間の暖かさ、物質文化に対するアンチテーゼ等、芝居の持っている温もりを感じさせてくれる。辺見じゅんさんの原作をアレンジするに相応しい作家である。人間の営みを凝視し続けてきたふたくちつよしが贈る、人間再生の物語。
平田 満 プロフィール

愛知県出身。82年、映画「蒲田行進曲」(深作欣二監督)で、日本アカデミー賞最優秀主演男優賞他、数々の映画賞を受賞。その後もテレビ、映画、舞台と幅広く活躍。最近の主な舞台には「居残り佐平次」(02)「心と意志」(03)「火焔太鼓」(05)「竜馬の妻とその夫と愛人」(05)など。01年「こんにちは、母さん」「ART」で、読売演劇大賞最優秀男優賞受賞。
新納敏正 プロフィール

鹿児島県出身。舞台を中心に幅広く活躍中。主な舞台は「掃除屋」「アシバー 沖縄遊侠伝」(水谷龍二作・演出)、明治座「燃えよ剣」(ラサール石井演出)、新橋演舞場「丹下左膳」、明治座「火焔太鼓」他。最新のテレビ出演に「女刑事みずき」「相棒W」「9係」などがある。
荒谷清水プロフィール

大阪府出身。84年、南河内万歳一座入団。以後「夏休み」「夏ざんしょ−夏残暑−」「みんなの歌」等で主演する、同劇団の看板俳優。又、SCOT「リア王」(鈴木忠志演出)、KARA COMPLEX「調教師」(唐十郎 作、内藤裕敬 演出)等、外部出演も多数。昨年より劇団を休団し、東京に拠点を移して活動している。
初演:2005年


7月22日〜24日  亀戸カメリアホール吉祥寺シアター
8月4日〜5日   四谷区民センター
8月13日〜15日  吉祥寺シアター
出演者: 平田満、阿南健治、新納敏正
再演: 2006年 7月25日〜30日  シアターX               
出演者: 平田満、新納敏正、荒谷清水
■ふたくちつよし作演出の『ダモイ〜収容所から来た遺書』は、終始薄暗く沈んだ現実が描かれる。出口の見えないシベリア捕虜収容所内の三人の男の忍耐と生きる物語だ。辺見じゅんの原作を三人の人物に絞った脚本は緊密な空間を生んで昨夏初演され、観客を感動させた。今回の再演では昨年の二人の役者(平田満、新納敏正)に新手の一人(荒谷清水)が加わって練り直され、さらに俳優の個性がじわりと生きた。戦犯として理不尽の刑を課せられ極寒地の過酷な条件下に政治に翻弄され続けた人びと。その心を支えたものは何か。極限状況の人の内面が単純ではあり得ない面をドラマは際立たせ、自己欺瞞でもあり得ながら葛藤を俳句などでカバーして繋いだ関係性が、光であったことを示す。平田や荒谷も絶妙な人間味を表現、心の揺れが見えにくかったが主題が問うてくるものは重い。
(テアトロ 2006年10月号 斎藤偕子)
■60 数万人の日本軍将兵や民間人が捕らえられ、死者はその 1 割に及んだシベリア抑留という不当な人間狩り。日本人としては決して忘れてはならない事実である。・・・(中略)・・・舞台に登場するのは山本氏と 2 人の男。主人公は大きな心と豊かな想像力で苛酷な環境を乗り越えようとする。脱落しかける仲間には「アンコロモチを食べたいと思わないか」と現実的な夢を見させて励ます。いつかダモイ(帰国)の日がくればきっと食べられるというわけだ。生き続けようという強さ。生きる力をなくしてしまう弱さ。シベリアを渡る冷たい風をホオに受けながら、この風が 海を渡って日本のふるさとの木々を揺らすと語る場面には思わずこみあげてくるものを隠せない。 4 通の遺書は厳しいソ連の監視網をかいくぐってやがて日本に届く。それは仲間たちが一言一句たがえずに覚えた暗記という方法。戦争の愚と生きることの大切さを声高でなく訴える。平田の心にしみ込むセリフ術が秀逸だ。
( 2005 年 7 月 26 日 スポーツニッポン 木村隆)
■人生は偶然で始まる。戦争は必然で始まる。必然は人生を弄ぶ。 『ダモイ』は、第二次世界大戦末期のソ連(当時)によるシベリア抑留が舞台となっている。安息できない日常が描かれると共に、日本人捕虜のひとりである山本幡男の人間像に迫る。ダモイ(帰国)をあきらめない山本のひたむきな姿に周りが感化されていく様子が、人間愛を彷彿させて、美しい。  ところが、運命は容赦しない。ダモイを熱望していた山本に、突如、病が襲いかかる。末期がんであることがわかって、帰国が叶わなくなる。抑留さえなければ、家族との再会は果たせた。戦争という必然が人生の最期にまで追い打ちをかけた。  結局、家族との再会は「遺書」という形で実現する。文書は門外不出であったために、山本を慕う捕虜が文面を暗唱して、家族のもとに「届ける」。偶然が重なって劇的な人生の最後となるが、想い起こせば、戦争という必然が招いた結果であることも見逃せない。 山本を演じた平田満をはじめ、捕虜役の阿南健治と新納敏正の、人情味と人間味に溢れる演技が、舞台の世界を美事に体現していて、胸に沁みた。
( 2005 年 8 月 12 日 週刊金曜日 山関英人)
 
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