あれは確か85年の春頃、そこは新宿あたりの飲み屋の二階で……あなたたちが三入だけで芝居をやろうという話の中に、なぜ僕がいたのか……「あんたやりなさいよ」あのときの三人の有無を言わさぬユニゾンに、それまで芝居など一行も書いたことのない僕はただ莚然と立ちすくみ……今でもよく、夢に見ては、うなされます。さて、どんな芝居をやるか。ちょうど公開中だったの「ル・バル」という映画で、三人はあっけらかんと「こういうのやりたい」。なんとわがままで、無責任な……ほんとそういう人たちなのです。そして何も決まらぬままの、写真撮影。
「なんかインパグトあった方がいいからさ、喪服でも着てみよっか」これが似合ったんですよねえ。で、衣装が先に決まって、芝居の中身はそれに合わせて強引に。そしてオープニングの音楽に「ル・バル」のテーマを使うことで、かろうじて三婆のご機嫌をとり……そうそう、僕らみんな「三婆の芝居」なんて、呼んでたんですよね。考えたら三人とも、まだピチピチの三十代だったのに……でも、まあ、あのジァン・ジァンの初日から十五年。
まさかこんなに続くとは思ってなかったからなあ。ともあれ、「歳なんて関係なく、頑張って生きてる女性たちが、元気になる芝居やりたいね」あの日、新宿の飲み屋で三入が言ってたそんな芝居を、こうなったらまさしく、真の『三婆』になるまで、ずっと観せてもらわないと。あの日の「あんたやりなさいよ」の一言で、僕はこんな仕事を続けるはめになってしまったんですから。
脚本.演出家 長谷川康夫(フリーライター)

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