「一生懸命忘れようとしたけど、忘れられんかったどうしても…」 平然と過ぎる日常、ある夏の日、一つの家族に波紋が広がる。
思い悩みながらもささやかな幸せを求めて生きていこうとする 心の模様が浮かび上がる、ヒューマンドラマ。
出演/仁科亜季子・小林美江
     青木勇二・田島ひさし 他


ふたくちつよしが、今一番こだわっているのが家族である。現代社会に蔓延している病の源流をさかのぼっていけば、家族のあり方に突き当たる。夫婦の冷め切った関係、親子の断絶等々。社会,組織のもっとも基本形である家族・家庭が崩壊していけば…おのずから問題が生ずるのは自明の理である。人の体温の重要性を、演劇のチカラを借りてアピールできないものか?人間の営みを凝視し続けてきたふたくちつよしが人間社会の再生を信じて放つ、
『夏きたりなば』劇評
「夏きたりなば」は通俗劇だ。身も蓋もない言い方だが、事実だから仕方がない。深い社会性も新たな発見もあるわけではない。強いて言えば高齢化社会と家庭崩壊の問題が投影されているといえなくもない。が、作・演出のふたくちつよしにはそんな意図はなかっただろう。【中略】 通俗劇とはいえ、見る者の心をこれだけ素直に人間的な信頼感で満たしてくれる作者の腕前には確かなものがある。ふたくちつよしの“技あり”だ。  
2003年テアトロ11月号 江原吉博
《あらすじ》
山本家のある夏の日の週末。主婦、紀子が朝食の後片付けや掃除に余念がない。今日は未だ独身の妹の博美が「大事な人」を連れて来る日なのだ。しかし、何時とも変わらない休日の朝を迎えたこの家の主人正夫や一人娘の早苗はマイペースで紀子をいらだたせる。 そんな中、博美が一人でやって来る。いぶかしむ紀子に博美は、実は今日連れて来る人は自分が在宅ケアーで廻っている一人暮らしの老人なのだと打ち明ける。その人に、家族の暖かな雰囲気味合わせたいというのだ。 反対する紀子を、博美と早苗、そして正夫も加わって説得し、何故かその老人を正夫の父親に仕立て上げ、家族の一員として迎えようとの計画で盛り上がる。
そして、いよいよその老人がやって来たのだが・・・。
ふと何気ない日常の中に訪れた老人とそれを取り巻く人々を通して、家族の絆、家族の有り様が綻びながらも、やがてそれぞれの新しい明日が・・・。
  作・演出/ふたくちつよし  
1978年、劇団トリックスターを設立。『ユートピアの洞』『風待公園』『雪に唱えば』等7本の戯曲を発表。97年劇団風力写真機を創立。翌98年1月、旗揚げ公演『山茶花さいた』を上演。更に自らの劇団での活動の他に、劇作家としての注目度も年を追うごとに高くなり、近年では『家族な人々』(劇団俳優座LABO公演/作)、『辰巳琢郎ひとり芝居 乗りおくれた夜明けに』『夕空晴れて』(以上トム・プロジェクト/作・演出)、
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