初演: 1999年5月27日〜31日 
紀伊國屋ホール
出演者: 蟹江敬三、西山水木、千葉哲也

1997年度の演劇界は鐘下辰男の年であった。「PW PRISONER OF WAR」「温室の前」「仮釈放」「どん底」の演出で、第五回読売演劇大賞の大賞・最優秀演出家賞を受賞。「仮釈放」が同賞で優秀作品賞を受賞。また第三十二回紀伊國屋演劇賞個人賞を文学座に書き下ろした「寒花」他で受賞。

演劇企画集団THE・ガジラを創立して十年、鐘下辰男が描く日本人像の輪郭がようやく見えかけたといったところである。日本人いや、人間のアイディンティティを究極のところまで掘り下げて描きつづけてきた彼の作業が、軽佻浮薄な世相にようやく風穴をあけてくれた思いがする。人間個人の内部に肉薄していく姿勢には、かつての日本人が持っていた骨太な精神を持ちつづけている稀有なる存在であることに驚きを感じる。しかも、弱冠三十四歳の若さである。

今回の新作の主演を勤める俳優は、個性派俳優の蟹江敬三。七十年代小劇場ブームの幕開け時代に蜷川幸雄、清水邦夫、石橋蓮司とともに今もって語り継がれる伝説の舞台を飾った名優である。その後の映画、TVでの活躍は目を見張るものがある。平成十年度にトム・プロジェクトの作品で見せた一人芝居「風船おじさん」の愛嬌ある演技は記憶に新しいところである。

共演者には千葉哲也、西山水木。ともに第五回読売演劇大賞優秀演技賞を受賞した二人である。千葉哲也は、鐘下辰男とともにTHE・ガジラを支えてきた主演俳優で、鐘下の文脈を体現できる実力派俳優の一人である。青年座を振り出しに数多くの舞台に出演し観客を魅了してきた女優、西山水木。今最も油が乗った女優で、美しい容貌に秘めた情念の役作りには定評のあるところだ。

今回のあらすじは、平凡な生活者に扮する蟹江敬三がふとしたことから殺人を犯すところから始まる。外部との交流を遮断されひとりであることを強制されたときから,生きることの意味、家庭,そして社会を考え始める。

蟹江敬三という個性派俳優を擁して展開する鐘下ワールド。二十世紀最後の年に日本を震撼させてくれるに違いない。

作・演出 鐘下辰男
美術 島 次郎
照明 中川隆一
音響 井上正弘(オフィス新音)
舞台監督 武川喜俊
宣伝美術 鈴木志歩
       (ディアンドジョイン)
プロデューサー 岡田潔
協力 エスアンドエー企画、
アンクルベイビー、
岸本グループ、
オフィスコットーネ



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