トムプロジェクト

過去の作品 演劇

子供騙し(初演)_チラシ.jpg

子供騙し


【作・演出】水谷龍二
【出演】緒形拳 篠井英介 冨樫真

2002年9月11日~9月19日【初演】本多劇場
2005年1月8日~1月16日【再演】紀伊國屋ホール

 

年老いた男が微妙でホノカナ恋心を抱いた
南三陸のひなびた床屋で起こる可笑しくも切ない騙し合い


【あらすじ】
舞台は南三陸沿いにある古ぼけた理髪店。
夜の7時過ぎ、営業を終えた店内で、従業員の佳子が店主の倉田の髭を当たっている。
佳子がこの店で働くようになって一月半、倉田にとって彼女の存在が密かな喜びとなりつつあった。
佳子と二人きりで過ごすひとときに、胸がいっぱいの様子だが、店の外は濃い霧が立ち込め、
何かが起こりそうな予感...。
するとそこに、店の扉を開け一人の男が入ってきた。
霧が晴れるまで休ませてほしいと言うが、どうも様子がおかしい。
普通の勤め人ではなさそうだ。やがて霧が晴れ、男は出て行くが、なぜか怯えている佳子。
戻ってきた男が語ったのは、意外な事実だった...。

― 劇評 ―
『子供騙し』を観劇後、後ろのアベックのものらしい感想が聞こえてきた。「最初はどうなのかと思ったけど、だんだん面白くなってきて。ねぇ?」と女の声が連れに同意を求めている。同感!と私が振り返って答えてあげたいところだった。
冒頭の20分ほどが寡黙で、間の多い会話がかわされ、見ようによっては芝居がかぼそくて、これはどういう毛色の、いかなる方向に進む芝居なのか、と観客は迷い始めるのである。それだけにその後の展開の妙よ!
南三陸のひなびた町の床屋が舞台。調髪する椅子に初老の男(緒形拳)がかけ、若い女(冨樫真)に当たらせている。
どうやら店主は独り身、この女性の存在がひそかな喜びになっているらしい。華やぐような大きな喜びではない。
人生の経験を積み、多くを望まない賢明さを体得しているような、穏やかな男の身ぶりの意味を、観客は芝居が進むにつれ反芻することになる。
演じる緒形拳の、諦念ではなく、慎ましいが充分に初々しいといった趣が何ともいえない濃い味わいを持つ。
そこへ、レインコートの男(篠井英介)が闖入してきた。
彼は探偵で、失踪したこの女性を追って東京からやってきたのだ。事態は二転三転、午後八時を過ぎるとオンナになってしまう探偵の変化がもう一つの見どころだ。
探偵が"オンナ"になるや過激で強引さを増していくというのが愉快である。長い台詞はマレで、あっても、センテンスは短く切り取られ、余白を味わう劇になっている。余白を埋めるのは、むろん、役者の"身体"であり、観客の蓄積である。

浦崎浩實(演劇雑誌テアトロ 2002年11月号より抜粋)