トムプロジェクト

2024/09/06
【第1937回】

プロデューサーは、本番中、毎日劇場に行き日々変化する芝居を観ることも大切な仕事のひとつです。役者さんも自分の体調も含めて、毎回同じことの繰り返しでは新鮮な演技はできないと思います。昨日よりも今日、そして明日につなげる芝居をしていたいという強い気持ちで舞台に立ってます。その微妙な演技の機微を楽しみ、終演後に役者さんにアドバイスできればと思っています。芝居には正解はありませんので、あくまでプロデューサー、そして一観客としての意見です。アドバイスを良しとしない演者がいても当然です。おいらも舞台に立った経験者、己が演じてることが観客に上手く伝わっているのか?そんな不安の中で役者は戦々恐々たる心境で芝居に取り組んでいます。そんな時、少しのアドバイスで救われ、新たな発見に導かれたこともありました。

そしてもう一つ、観客の反応をしっかりと受け止めることも大切な仕事です。本番前、本番中、終演後、芝居の中身次第でお客さんの表情は一変します。気に入ったときの顔、お気に召さなかった時の表情、これがなかなか面白くて長年この仕事やってるのかもしれませんね。

それにしても俳優座劇場がある六本木の街、随分と様変わりしました。昔は防衛庁があり繁華街には六本木族なるものが街を闊歩してました。新宿なんかと違って大企業のボンボンなんかが派手な遊びをしていました。そんななかカルチャーのシンボル的な存在が俳優座劇場でした。新劇の老舗である劇団俳優座の拠点でもあり、この劇団から東野英治朗、仲代達矢、平幹二朗、市原悦子、栗原小巻などなどそうそうたる役者を輩出しました。

今の六本木にはいくつもの高層ビルが居並び、この街での遊び方も大きな変貌を遂げています。俳優座劇場の閉館も時代の流れには逆らうことが出来なかったんですね。

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文化遺産

2024/09/04
【第1936回】

心配してた雨風にも免れ一昨日無事「かへり花」初日を迎えることが出来ました。いつものことながらお客様が入っての反応が気になります。芝居は最終的にお客様が優劣を決めるものです。勿論、肌に合わない作品だとNOを突き付けてきます。まあ、6,7割の人達が喜んでくれれば成功と言えるのではないでしょうか...特に今回の作品は従来のトム・プロジェクトのラインアップのなかでも異色の出し物だっただけに、今までトムの舞台を観慣れた人達にとっては戸惑う人もいるでしょう。一方、新鮮に感じ取ってくれる人の意見も励みになります。演劇そのものがフィクションの世界ですから、無限に広がる時空間の中で想像力を駆使して楽しんでいただければプロデューサーとしては嬉しい限りです。

初日は、勿論キャストの皆さんも緊張するのは当然です。少し硬かったかな?二日目の昨日は、観客の手ごたえも少しずつ感じ取ることが出来、随分リラックスしながらの芝居でなかなかの出来だったと思います。

終演後はトークショーということで、作家、演出家、プロデューサーで今回の作品についての話をしました。そして、やはり歴史ある俳優座劇場が来年の4月で閉じてしまうことに、この劇場に深い縁と思い入れがある日向さん、小笠原さんが悔しい思いを語っていました。

300人キャパの劇場は創造団体にとっては夢の空間です。しかし、劇場主からしたらすべてが経済至上主義に邁進してる現況を鑑み断念せざるを得なかったのではと思います。

いずれにしても、演劇はいつの世も厳しい状況下の下で日々闘っています。演劇が消滅するときは地球の滅亡...ちょいとオーバーかな?いや、なかなかしつこく粘り強く楽しみながらしこしことやってるのが芝居屋さんですから大丈夫ですよ!

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夢の空間

2024/09/02
【第1935回】

若い頃のおいらのように、あっちにふらふらこっちにふらふら、気にいった所ではゆっくり滞在しながらも通り過ぎつつある気まぐれ台風も何とか最後の旅を終えそうな週明けとなりました。そしてこちらも、週末は台風並みの目まぐるしい時間を過ごしました。金曜日は「かへり花」の最終稽古。5人の登場人物が織りなす奇妙な人間ドラマは、まるで弦楽五重奏曲を味わっているようでした。何度観ても不思議な芝居でありながら、生きていることへの素晴らしを感じさせてくれそうな舞台になりそうです。昨日は俳優座劇場で照明も入っての舞台稽古、いよいよ今日が初日でございます。

土曜日は風間杜夫ひとり芝居「カラオケマン ミッション・インポッシブル~牛山明、バンコクに死す~」の稽古初日でした。1997年から創り始めた風間杜夫ひとり芝居、今年で27年、いやはや良くやりましたね!杜夫ちゃんも今年で75歳、後期高齢者の仲間入り。

いやいや、稽古初日からの本読み気合い十分はち切れんばかりのパワーでした。たったひとりで1時間15分ばかり喋って歌って、そして今回はトムクルーズばりのアクション。なんだかプロデューサーとしても大丈夫かな?と心配しちゃいますけど、そこは天下無敵の役者魂の持ち主ですから、必ずやお客様に喜んでいただけるものを提供してくれるでしょう。

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台風一過

2024/08/30
【第1934回】

琥珀色のコーヒーを嗜むひとときはまさしく至福の時間だ。若い頃から今に至るまで変わることはない。3畳一間、家賃3000円だった貧乏時代から一丁前にイギリス製の手動式のミルを買い込みドリップコーヒーを楽しんでいました。あの豆を挽く手応えと、フィルターに収まった挽いたばかりの粉に時間をかけて湯を落とす微妙な間がたまりません。まだ見ぬ異国の地から運ばれたコーヒー豆がゴールを迎える瞬間でもあります。カップになみなみと注がれ湯気と共に醸し出す匂い、精神安定剤としての役割も申し分ありません。

最近は焙煎機も購入し、コーヒ愛は募る一方です。キリマンジャロ、コロンビア、モカ、などなどいろんな生豆を購入してるんですが、最近のお気に入りはエチオピアイルガチェフです。華やかな香りと明るい酸味と甘味のバランスがたまりません。でも、焙煎具合とミルでの挽く具合で微妙な味が出てしまいますが、そこがまたアナログ手法の楽しみの一つです。既成のありきたりのモノではなく、その時の己の体調、感情も含めてのコーヒーという生きモノに対峙する真剣勝負(ちょいとオーバーかな?)いや、アフリカ、中南米の人達が丹精込めて収穫した宝物にはそれぐらいの気持ちがあって当然でしょう。

昨日も、4種類の生豆を焙煎し即頂きました。焙煎後の部屋はまさしく「コーヒールンバ」の音色が聞こえてまいりました。

 

♪昔アラブの偉いお坊さんが
恋を忘れた あわれな男に
しびれるような香りいっぱいの
こはく色した飲みものを教えてあげました
やがて心うきうき
とっても不思議このムード
たちまち男は若い娘に恋をした♪

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我が家の焙煎機

2024/08/28
【第1933回】

おいらの会社でのデスクには毎年、書家である井上龍一郎さん制作の机上カレンダーが置かれています。ここ最近は、1989年よりアフガニスタンにて山岳部医療過疎地でハンセン病や結核など貧困層に多い疾患の診療を開始。 2000年からは旱魃が厳しくなったアフガニスタンで用水路の建設に力を注ぎながらも2019年に銃撃され亡くなった中村哲さんの言葉を龍一郎さんの書でデザインされたものが主になっています。

今月のカレンダーには「戦いというのは資源や領土の奪い合いから起こります。だから人と人との和解だけでは戦争はなくならないだろう。人と自然が和解し共存する世界にならない限り戦いはなくならない。」と書かれていました。

この言葉の持つ意味を、この奇跡の惑星である地球に住む一人一人がしっかりと認識し行動に移せばまさしく理想郷としての地球が完成することでしょうね。

この理想郷を成就することを阻んでいるのが時の権力者です。日本のみならず、世界のどの国にも間違いなく権力者はいつの世にも存在しました。この世に生を受け誰しもが抱く欲望の強さ方向性、そのバロメーターの加減によって突出した権力者が誕生してきました。

これらの権力者が、地球を支えている自然に感謝し共生する理念で社会を動かせばとは思いますが...そうはいかないのが権力という名にしがみつき溺れていく権力者の実態です。

おいらはいつも、空のキャンバスに描く雲の表情、道端に何気に咲く野花、樹々を飛び交う野鳥や虫の群れ、勿論、街中、車内ですれ違う多種多様な人たちとの出会いも含めてトキメキの感情を大切にしながら過ごしています。だから争いは嫌いですよ...

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蝶もコガネムシも鳴いてます?

2024/08/26
【第1932回】

連日猛暑が続く8月も今週で終わりとなります。日本の野球界、パリーグはソフトバンクの優勝ほぼ確定。あとはクライマックスに残る戦いが日ハム、ロッテ、楽天で繰り広げられています、我が心のライオンズは早や蚊帳の外、今シーズンの最下位が決定!何せ打てません。昨日も新人の武内投手が奮闘しているのに打撃陣は2安打、これじゃ勝てません。それにしてもライオンズのコーチ陣どんな仕事しているんでしょうね?時たまベンチの様子が映るのですが、皆さん熱中症におかされた夢遊病者のような表情でした。これじゃ選手も好き勝手にバットをブンブン振り回し凡打の山を築いてしまいますね。少しは頭使えよ!とTVを前にしていつもながら萎えてしまいます。

そんなわけで今年はメジャーリーグ、ドジャースの大谷選手の活躍ぶりを楽しみに残り少ないシーズンを楽しんでいます。それにしても凄すぎます、この時期でホームラン41本、40盗塁、そして何より素晴らしいのは己の才能に溺れることなく礼節を重んじ堂々とプレーする姿。これじゃ敵味方問わず文句のつけようがありません。こんな選手がこの島国から出現しようとは、野球小僧としては嬉しい限りです。

大谷選手みたいな政治家が出現すれば、もう少しこの国もましにはなるんですがね...総裁選の出馬予定の皆さんなんともぱっとしませんね。先ずは裏金問題でしょう、誰一人として争点にしない点でアウトですが、メディアが騒ぐ人気投票レースをまるで娯楽番組と楽しみ結局は自民政治が続くに違いありません。それに加担しているのが野党のだらしなさ、昔の名前で出ていますみたいな人達で行う立憲民主党の党首選挙ガックシです。

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今日の空

2024/08/23
【第1931回】

一昨日、TBS放送の国を背負った『SASUKE』初の団体戦...世界から完全制覇者たちが聖地・緑山に集結した番組を視聴。この番組は1997年から放送されていますがほとんど見てるかな。なにが面白いかって?普段、地道な仕事に就いている人たちが、高い壁を登ったり、3センチの突起物に指をかけ移動したり、逆流する水中を泳いだりとか...考えてみればこんなことできたからって何の役に立つの?と思うのだが、そんな役に立たないことに日々血の滲むような鍛錬を重ねている姿に感動するんですね。

この世の中すべからく、いまだ立身出世を求める輩が多数を占める中、無用なことに挑戦するこの人たちの存在は貴重だと思います。無駄なことの中に、本当は人生を豊かに生きていけるヒントがたくさんあるのに、ついつい効率が良いか悪いかで判断しがちになるのがほとんどですね...

この日、日本チームのエースでもある森本裕介(通称サスケ君)は、いつものように団体戦優勝決定戦でアメリカチームを下し優勝に導きました。普段はソフトエンジニアの仕事をしながらも、この難攻不落の競技をいとも簡単にクリアしていく姿に勇気をもらえます。32歳のどこにでもいるようなお兄さんの笑顔がまたいいんです...SASUKEに対して熱を入れる一方で、入社直後の研修中は大会を欠場するなど公私は徹底分離しており、仕事中はSASUKEのサの字も考えていないと言い切るところがたまりません。

まだまだ暑い日々が続いていますが、たまには焦らずのんびり、無用なこと無駄なことに時間を費やす週末にしてみませんか?

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涼んでいます

2024/08/21
【第1930回】

昨日、「かへり花」の初めての通し稽古を観てきました。日向十三さんの不思議な世界を老若男女5人の俳優が、自由自在に舞台の設定になっているちびっ子広場で遊んでおりました。改めて、この芝居アナーキー満載の芝居だと思いました。現世あらゆるところで制度にがんじがらめにあっている中、心身を思い切り開放してしまえばどれだけ楽しく生きていけるか?そのせめぎ合いの後にくる世界は如何様なものなのか?時空間が自在に流れる中、それぞれの人生を抱えた観客の皆様が、思い切り想像の羽根を拡げ自分なりの着地点を見出してくれればいいなと思いました。それにしても、大和田獏さん、藤吉久美子さん、有森也実さん、まるで童心にかえったみたいに広場を所狭しと立ち振る舞っていました。長野優華さんの初々しさ、中嶋ベンちゃんの人生の哀歓を感じる芝居もなかなかのものです。

考えてみれば、今までに見たことがない事象に遭遇したときの驚き、感動はその後の人生を変え得るチカラを持っています。そんな可能性を持った「かえり花」是非是非、ご覧になってくださいな...

ところでアナキストと言えば、何だか危険な思想の持ち主だと思っている人もいるかと思いますが、実は社会全体が対等な関係の中で、相手になんの見返りを求めないで、日々協力していく。そして、この協力こそが、私たちの社会の富の源泉であり、人びとを幸福にする基盤となっている、これが本来のアナーキズム、アナーキストだと思いますよ。

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夏の雲

2024/08/19
【第1929回】

週明け、今日も相変わらず暑い。外歩きキョロキョロ、ウロウロ大好き人間なのだが、この猛暑、そして後期高齢者となれば少しは躊躇してしまいます。となれば、クーラーを友にして搔き集めた様々なジャンルの音を嗜みながら読者三昧の日々となりますね。

昨日も九段理恵さんの「東京都同情塔」を読了。文学もここまで来たかという感じ。あらゆるクリエーターが戦々恐々としているAIをも駆使して書き上げた作品。

コロナ禍の東京オリンピック開催からヒトの生命について、国立競技場と相対するホモミゼラビリス(同情される人達)を収容する東京同情塔の建設に向けた建築家にフォーカスをあて、街と建築を軸に、あらゆる方向から価値観を揺さぶるやり取りの緊迫感とその中に伺える未来への希望を描きたかったのかな...それにしても、この言葉の選択、展開、ある意味読者を選んだ作品かもしれません。いや、既成の文学に対する挑戦...いずれにしてもカルチャーは何でもありの世界です。

でも、やはり従来の文学を読み返すと、その時代の風景、人間の所作、揺れ動く感情の機微がとても愛おしく感じられます。古典から近代、現代、生きてるうちになんでんかんでん貪りつくすように楽しんでこその人生ですたい。

勿論、野球好きなおいらにとっても夏の甲子園、メジャーリーグの試合もちらほらと観ています。一昨日の早実と大社の一戦は見応えがありました。延長タイブレークでの両軍の作戦、そしてあとは選手の微妙な心の動き、まさしく筋書きのないドラマに酔いしれてしまいます。

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猛暑の中のサフランモドキ
花言葉~新しい始まり~

2024/08/16
【第1928回】

オリンピックも閉幕し、お盆休みも終わり、さてという今日、関東に台風直撃。昨日は終戦記念日、オリンピックがあったせいか何となく戦争に関する情報が少なかった気がします。9月に自民党総裁選に不出馬を表明した総理が「これからは一兵卒として...」こんな時に使う言葉かな?と最後の最後までセンスを疑ってしまいます。

昨日の新聞にこんな記事が掲載されていました。名優で知られた森繁久彌さんが日本の敗色濃厚になった頃、旧満州の新京放送局に勤務した時の話です。関東軍の命令で特攻隊員の遺言を残す仕事を任されました。ポロポロと涙を落としながら、60人ほどの若者たちの勇壮な言葉を録音しました。そのなかにひとり、おそらく永久に忘れられない隊員がマイクに向かって、重い口を開いて「お父さん。いまぼくはなぜだか、お父さんと一緒にドジョウをとりに行ったときの思い出でだけで頭がいっぱいなんです。何年生だったかな。おぼえてますか。弟と3人でした。鉢山の裏の川でした。20年も生きてきて、いま最後に、こんな、ドジョウのことしか頭に浮かんでこないなんて...」ポツンと言葉がとぎれてから、若者は言った。「なんだかものすごく怖いんです」。ハット胸を刺されるような響きがその声にこもっていたそうだ。「僕は卑怯かもしれません...ね...お父さんだけに僕の気持ちを解かってもらいたいん...だ」

あの戦争で本心から「天皇陛下万歳!」なんて気持ちで死んでいった若者はいないと思います。死の間際まで家族、恋人のことを案じながら散っていったに違いありません。いまだに政治家が「お国のために...」なんて発する言葉に違和感を感じます。女も男も子供も、敵も味方も、なぜ死ななければならなかったのか。それは避けることが出来なかったのか。誰のせいか。何のためか。戦場に散っていった多くの人達は、今尚、戦争が継続されている世界の現状に嘆き悲しんでるどころか、死の恐怖に魂をおののかせている気がしてならない。

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台風にもめげずミーンミンミン

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