トムプロジェクト

2024/04/26
【第1885回】

東京の街は異国の人で溢れかえっています...世界一の乗降客を誇る新宿の街も相変わらず多民族の人たちでラッシュ状態です。新宿で最もディープな場所である西口の「思い出横丁」歌舞伎町の「新宿ゴールデン街」なんかはカメラを手にして、戦後闇市そのままを残した風景を我先にと撮りまくっています。勿論、お店の中も外人だらけ、埃にまみれた焼き鳥をおいしそうに食べていました。何せ円安ですから、この時ばかりと...ニューヨークではラーメン¥3000するんですから、彼らにとっては食の天国に来たようなもんです。新宿に店舗を構えるあの天然とんこつラーメン「一蘭」の前には長蛇の列。おいらはあの値段と食感がどうしても納得できず駄目ですな。「一風堂」然り、博多で生まれ育った者としては、ラーメンブームの便乗した商売のやり方に大いに不満でございます。博多に帰って食べるラーメンは「膳」に決めています。豪快でありながらも滑らかな風味、麺は小麦の美味しさを活かしたオリジナル、タレ、チャーシューは自家製。そのうえゴマはかけ放題、にんにくも丸ごと潰し放題、それでなんと¥320!物価高で悲鳴をあげている昨今、ラーメンの神様が降臨した思いです。やればできるじゃないですか...2050年には日本の人口なんと3300万人減少するそうです。その先はと考えると、この国、もしかすると異国の人たちに雇われる形態になっているかもしれません。目先のことばかり考えないで将来を見据えた商いしないととんでもないことになっちゃうかもしれませんね。

新宿南口駅前の通路は、ストリートミュージシャンで溢れかえっています。何故か外国人旅行客は立ち止まりません。そういえば、外国ではごく自然な風景ですから...

明日からGW、どこに行っても人の波。近場でのんびりするに限ります。

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明日を夢見て

2024/04/24
【第1884回】

やれ桜だ、それに便乗しての酒宴。なにかと春のこの時期は喧噪の日々である。そんななか、今日みたいにしとしとと雨降る日が訪れると心和いでしまいます。そんな日は、家に閉じこもり好きな曲を流し読書三昧なんてのがピッタリでございます。

トルド・グフタフセン、ノルウェー生まれのピアニストで、瞬時に落ち着きと満足感をもたらす効果があります。沈黙から北欧の風景を連想させる音の連続は、何もありそうもない別の空間に連れて行かれそうな時間を生み出し、読書の程よい味付けをしてくれます。

日本にもファンが多いピアニスト、キース・ジャレットにも通じるものがあるのだが、やはり生まれ育った北欧の音色を強烈に感じます。彼のタッチ、鋭い旋律センス、そして彼の惜しみない美学は、ともにプレーしている仲間にもしっかりと共有されており、ベースとドラムの刻む時間が彼の世界を一段とスケールアップさせています。

それにしても最近はアマゾン、スポティファイなんかで良質な音楽を聞いちゃうと、ついついCDを買おうかなんて良からぬ欲望が頭をもたげます。もうこの歳になると断捨離を考えなきゃいけないのに困ったもんでございます。モノを増やすな!出来るだけ捨てろ!と常日頃こんなお題目を唱えながらも、やはり手元のジャケットからCDを取り出し音を呼び込む儀式があってこそのマイソングだと頑なな心情が邪魔しちゃいます...でも、やはりほどほどにしないと後始末が大変ですから。

明日から猛暑の始まりとか、どんな未来が待ち受けていることやら全く予測不能でございます。

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どこに巣を作ろうかな?

2024/04/22
【第1883回】

先週の土曜日、中野テアトルBONBONで「明日になれば」を観劇。トムでもお馴染みの、ふたくちつよしさんの作品です。桐朋学園で同級生だった俳優、磯部勉さんの家族のためにと心温まる芝居に仕上がっていました。劇中でも磯部さん夫婦、そして一人娘さんがそのまま家族役で出演しているのですから、そのまま実生活を覗き見している感じがしました。

ふたくち作品らしく、劇中お茶を差し出すタイミングが実に微妙且つ適格、こんなところなんぞは映画界の名匠小津安二郎の世界を彷彿とさせてくれます。

芝居は前半から笑いの連続、ギャグで笑いを取るのではなく、役者同士の台詞のやり取り芝居の内容での笑いなので心地よい。芝居での笑いの質はとても大切であり、作品のクオリティーにおおいに関係してきます。笑いほど難しいジャンルはないと思います。品のないギャグ連発の芝居を観せられた苦い経験も多々あります。喜劇を演じられる役者はリアルな芝居もものの見事にこなしてくれます。今は亡き名喜劇役者伴淳三郎さんが内田吐夢監督の映画「飢餓海峡」で演じた刑事のシリアスな役は今でも記憶に残っています。笑いの中に潜む人の悲しさ苦悩を、実人生の中で獲得したに違いありません。主演の三国連太郎さんの名演技も彼の波乱万丈の生き方がそのまま白いスクリーンに映し出されているようでした。

厚生労働省は、新型コロナウイルスのワクチン約2億4000万回分を廃棄、金額にすると約6653億円。アベノマスクといいこの政府のやることだからなんとも納得できないのでは。未だ水が使えない能登半島の人達...もう4か月というのにほんまにあきまへんな。

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シャクナゲ

2024/04/19
【第1882回】

新国立劇場小劇場で「デカローグ」観劇。この作品は1988年にポーランドで放映された映像作品が基になっています。デカローグとは、旧約聖書に登場するモーゼの十戒を意味するそうです。今回の芝居に登場する人物は、この十戒を守るべき道徳ではなく、これを破ってしまう人間たちの葛藤を描いた物語でした。世界のどこにでもある団地に住む人達の、何気ない誤解や誘惑で悲劇を生み出すのだが、その背後には人としての弱さや過ちをしっかりと受け止める愛情もバランス良く描かれています。

今回観劇した作品は全10編で成り立っており、おいらが観たのは1と3、残りの8編を7月15日まで上演することができるのも新国立劇場だからだと思います。

この新国立劇場が併せて創設したのが演劇研修所。今年で第20期生を迎えるそうだが、3年間の研修を経てこの世界で生きていくのも至難の業である。トムにも修了生を今年の新人2人を加えて5人在籍。トムの芝居にも出演してもらい一日も早く役者で生計を立てられるように後押しはしていますが...いつも新国立劇場で芝居を観劇するたびに思うことは、研修所で3年間しっかりと鍛えた後に、なぜ修了生たちを大きな役に抜擢して公演をしないのか?勿論、興行的な面からも厳しい面があるのは理解できるのだが、ここは国が本腰を入れて創設した俳優養成所なんですから、何とか実現して欲しいと思います。

又もや、中東で物騒な小競り合いが勃発。石油の8割近くを中東からの輸入に依存してきた日本にとっては死活問題。そして四国、大分での地震、地球の未来が本当に危うい!こんな時こそ、地に足が着いた生き方をしましょう皆の衆。

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新緑のメタセコイア

2024/04/17
【第1881回】

プロ野球開幕したばかりなのにライオンズはや終戦...昨日のロッテ戦に負けて6連敗、最下位に転落してしまいました。延長戦11回まで戦ってライオンズ僅か2安打。これじゃ勝てません、いや先発投手が可哀想でなりません。必死こいて投げても味方が点取らなきゃ空しいものでございます。誰が悪いのか?誰の責任なのか?ハッキリ言って監督、コーチの責任でしょうね。先週のソフトバンク戦の試合前の光景を見て驚きました。ライオンズに対し、後ろ足で砂をかけるようにして出て行った山川選手とニコニコ顔で話をしている監督や、ハグしている選手を観客の前で見せつけられてガックシ...案の定、そのあとの試合で2打席連続満塁ホームランを打たれ無様な敗戦。週末多くのファンが集まったホームゲームでソフトバンクに1勝もできない有様。悔しいと思わんかい!お客は高い銭と時間をかけて遠い所沢まで来ているのに...球場を後にするファンの気持ち少しは分かって欲しいですな。

ハッキリ言って、松井監督、平石ヘッドコーチのPLコンビ、もう勘弁してくださいと言いたくなります。それに昨年から打てない打者を指導している嶋、高山打撃コーチ、自ら退陣して欲しい。そこまで大胆に刷新しないと、このままライオンズは長期間まちがいなく暗黒の時代が続くと思います。だって、テレビで試合観ていてもこんなにワクワクしないことは珍しいくらいです。昨日のロッテ戦でも、ライオンズ炭谷捕手がファールフライを取りそこねたのを見てニヤニヤ笑ってる監督、なんと緊張感のない人だろうと思ってしまいました。勝負師としては失格もんです!

と言いながら、これからもライオンズの試合は見ると思います。こればかりは少年の頃からの野球に対する熱い思いが、おいらの身体にメラメラと燃え続けているからでしょうね。

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もうちょっと楽しんでネ

2024/04/15
【第1880回】

先週の週末、高円寺にあるタブラオ・エスペランサに出かける。長年の友人であるグラシアス小林のフラメンコを堪能してきました。彼とはかれこれ45年の付き合いになります。おいらが単独でスペインに飛んで行って初めて会った日本人でもありました。おいらも気負うことなく大道芸やったりしながらスペインの空気になれようとした時でもあり、彼のアドバイスでずいぶん助けられもしました。マドリッド・マジョール広場で大道芸やったときには当時3歳であった息子、海来(みらい)君に投げ銭集めをさせてしまい迷惑もかけましたね。二人してシナリオ書いたり、キャンプに行ったりと楽しいスペイン生活を過ごすこともできたのも小林ファミリーが居たおかげかな。

彼が日本に戻ってからも交流は続きました。波乱万丈の人生を経て、最後はフラメンコに戻りスタジオを持ちながら彼独自のフラメンコ道を追求してきました...自分はどこまで行ってもスペイン人には成れないんだから、自分の生き方を通しての踊りをしたい...この日も、舞台に凛々しく立つ姿は彼の生きてきた75年が見事に凝縮されていました。表現とは己の生きざまを曝け出す場でもありウソをつくことも出来ません。普段、一緒に酒飲んでるときは難しい芸術論なんかは交わさない分、舞台上のグラシアス小林はサムライのようでもありました。そしてフラメンコには欠かせない、野卑の中にも色気と品格。この日の踊りはまさしくMaravilloso(素晴らしい!)に尽きます。

フラメンコという激しい踊りに、今尚チャレンジ精神で挑むグラシアス小林に拍手を送りたい。

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オレ!

2024/04/12
【第1879回】

昨日、今年アカデミー賞作品賞や監督賞など7部門を受賞した「オッペンハイマー」を鑑賞。第二次世界大戦当時、ヒトラー率いるナチス・ドイツは原発の開発を進めており、それを恐れたアメリカのルーズベルト大統領は、原爆開発に着手しマンハッタン計画を設立。その化学部門リーダーとして開発チームを主導し、のちに原爆の父として呼ばれたオッペンハイマーのお話でした。世界では昨年7月に公開され大ヒットしたのに、被爆国の日本での公開は、さすがに慎重に検討したうえアカデミー賞受賞ということもあって3月29日上映に踏み切りました。

いや3時間の尺の中を、3つの時間軸が行ったり来たり、それを追うだけで動体視力が相当疲れてきます。この映画自体はアメリカ人の視点で描かれており、折に触れた会話としては出てきますが、広島、長崎での原爆投下のシーンは全く出てこない。被災国日本人の心情としては複雑極まりない。しかし原爆投下がなければ、この国は焦土と化し戦勝国の占領地になり今の日本国ではない気もしてくる...でも、広島、長崎で被爆した当事者の方々は果たしてどんな気持ちで対することが出来るのか?いまだ無くならないどころか、核の脅威は以前にも増している現状を考えると、巨悪の根源としてのオッペンハイマーに違いない。

この映画が長時間何とか緊張を強いられながらも耐えられるのは、監督の理念、俳優の演技に拠るところが大きいと思う。特に主役を務めた舞台俳優出身キリアン・マーフィーの繊細な演技は秀逸。

よりによって、アメリカ訪問中の日本の失速寸前トップが、又してもアメリカのおじいちゃんに武器を買わされ、軍縮どころか軍拡に突き進む姿がなんともおかしくもあり悲しくなる現実でもございます。

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早くも新緑

2024/04/10
【第1878回】

昨日の雨と強風で満開の桜もヒラヒラと舞い散っていました。いつの世も、サクラは春の季節と相まって人の感情を異常に掻き立てソワソワさせます。中でも京都の人出は半端じゃありません。外国からの観光客、そして日本全国から集まっての騒乱状態。京都市民は迷惑千万でしょうが、観光で生活している人たちも居るので仕方がないところもありますね。おいらが大好きな、東山の麓を流れる琵琶湖疏水分線のうち、若王子橋から白川通りの浄土寺橋に至る疏水両岸の小道「哲学の道」も「騒がしい道」に変貌していました。やはり、こんな時期を避けて行きたいなと思っていても、そんな時期もなかなか見つけにくい京都になってしまったのかな...

それにしても、又しても国会議員、そして知事の横暴な立ち振る舞いがニュースになっていますね。吉幾三さんの動画サイトニュースから拡散していった北海道選出の自民党議員、航空機内ばかりではなく道庁の職員にも偉そうな態度で接していたそうな...来年の大阪万博開催に疑問を投げかけたコメンテーターに、万博出入り禁止を言い放った大阪知事。そういえば、どちらも横柄なツラしてますな。なんか勘違いしているというか自分の立場を理解していないですね...議員も市長も公僕であることを忘れ、特権階級丸出しのダメな人だと思います。税金、物価ばかり上がって冗談じゃありません...裏金も未だ不明、一刻も早く国会議員削減に踏み切って欲しいものです!

もう少し、春の微妙な季節感を楽しみたいのですが、明後日あたりから気温上昇で一気に夏の装いになるみたい...なんとも身体が付いていけなくなった地球環境になっちまいましたね。

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散る桜 残る桜も 散る桜

2024/04/08
【第1877回】

昨日、新宿歌舞伎町に昨年オープンしたシアターミラノ座で「ハザカイキ」を観劇。作・演出の三浦大輔の作品は久しぶりに拝見。この作家との出逢いは衝撃でした。17年前くらいかな、新宿シアタートップスで当時主宰していたポツドール公演「愛の渦」。台詞なしはいいとしても、男優は全員下半身丸出しで女優とSEXシーンのオンパレード。観客の誰かが通報すれば一発でわいせつ罪に問われ公演中止。この大胆な演劇公演でありながら、退屈させないどころか文学の匂いを醸し出す演出力に脱帽した次第。その後、映画の世界にも進出し演劇・映画界の鬼才と呼ばれるようになりました。

さて今回の芝居、芸能界、マスコミを舞台に時代に振り回されながらもがき続ける群像劇。終局は謝罪の連続、人が人に謝り、人が人を赦すことの物語。タイトルの意味が、ドラマの進行とともに理解できました。昭和の古い価値観とこれからの新しい価値観が交代しつつある、まだ中途半端な「端境期」だという事を言いたかったわけですね。

元関ジャニのメンバーが主役ということもあり、会場は相変わらずの旧ジャニーズの女性ファンで満席。そんな雰囲気の中でただ一人堂々たる演技をしていたのが風間杜夫さん。いや、表情、声、佇まいが他を圧倒してましたね。若い俳優さんは勉強になったことだと思います。この芝居のラストに作家の主張が凝縮されてました...26人のエキストラが場内から出現してのヒロインの記者会見、そして雨を降らしての抒情的なシーン。終わりよければすべて良し!魅せることを理解しての演出でございました。

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今日のサクラ

2024/04/05
【第1876回】

やっと出ましたホームラン!日本のみならず、世界の野球ファンが待ちに待った大谷さん。

精神的なプレッシャーは相当あったに違いない。ベンチに居るときの表情も何故か寂しそう、いつもは一平さんと一緒にニコニコしていたシーンが懐かしい。人生、魔が差すときは誰しもあるし、一刻も早く全てをさらけ出し残りの人生を再スタートして欲しいものですね一平さん。

そして裏金問題の処分、裁く方も裁かれる方も共に茶番ですね。肝心な裏金の実態はなんら解明されず一体全体なにを基準にして処分したのかさっぱり分からない。国民のほとんどの人が呆れているのに、感覚がずれている人にはなんら響いていないに違いない。なんとかちんたらちんたら動き回っている内閣総理大臣、ここは身を棄てるくらいの気持で解散に踏み切れば少しは見直しますがね...所詮、自民党猿山での権力闘争。国民なんかに顔を向けて発言してないのは相変わらず。自民若手もだらしないに尽きる。

昨日、知人が入院している病院にお見舞いに行きました。おいら78年の人生で入院したのは3度あります。最初の入院は21歳の時、劇団養成所の卒業公演終演後に急性盲腸炎で救急車に運ばれ即手術、そして入院。破裂寸前、間一髪で救われました。2度目は35歳の時、インドの旅から帰国後に急遽保健所の方が訪れ、そのまま車に乗せられ板橋の伝染病病院へ、検査の結果赤痢、2週間なんの痛みの症状もないのに強制的に入院させられました。検査した医者が驚いていました。悪質な赤痢菌が3種見つかったのに、このけろっとした健康体はなんじゃろかいなと...そして直近は61歳の時、右膝が痛くなり手術した方が良いと言われ入院。これも大したことないのに何故かしら?思えば、この医者ギラギラした目ん玉で切りたくて仕方ないという風貌についつい便乗してしまいました。

てなわけで、病院とはあまり縁なく過ごしてきました。改めて健康であることに感謝でございます。

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今日の神田川

2024/04/03
【第1875回】

おいらが芝居の世界に入るきっかけになった俳優さんが先月亡くなった。坂本長利さん、94歳の人生でした。おいらが20歳の時、大学に入学したものの例の学生運動が激しく大学も閉鎖状態。何か面白いものないかな?なんて気持ちでふらりと覗いたのが、代々木にあった代々木小劇場。山本安英さんを中心に活動していた「ぶどうの会」解散後に結成した小劇場運動の先駆け集団でした。ここで観た宮本研作「ザ・パイロット」観劇後、こんな面白い世界があったのかと大いに刺激を受けました。その後、この集団に所属していた坂本さんが演じたひとり芝居「土佐源氏」にもビックリ。民俗学者宮本常一の「忘れられた日本人」に登場する元馬喰(牛馬売買人)の一代記をロウソクの灯りだけで演じる坂本さんの姿に役者魂を感じた。最後の台詞「男という男は、わしにもようわからん。けんど男が皆、おなごを粗末にするからじゃろ。わしはな、人は随分だましはしたが、牛だけはウソつけんかった。おなごも同じで、かまいはしたが、だましはしなかった。」盲目の乞食が語る純粋な心の風景を見事に演じる俳優とはいったい何者か...しかも2,3メートルの至近距離で。

その後、坂本さんと同郷(島根県出雲市)の友達と同席し語り合ったことがある。坂本さんのゆったりした語り口と、おいらの酔いも加わって居眠りしてしまう失態を犯してしまう。

目が覚めた時に、にっこりと笑顔で返した坂本さんの佇まいが今でも忘れられない。

1967年~2023年まで海外も含めて1223ステージを重ねた「土佐源氏」。まさしく芸能の原点を感じさせる見事なひとり芝居でございました。        

                                     合掌

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七分咲き

2024/04/01
【第1874回】

2024年いよいよプロ野球開幕...いつもはワクワク感で一杯なんですが、ウクライナ、ガザなどの紛争、能登半島地震、そして政界の裏金問題、大リーグ大谷選手の通訳の不祥事なんかでスッキリしない感じでのスタート。せめてものスポーツの世界でモヤモヤを雲散霧消したいところなんですが、なんだかこの状況ではとシックリきませんな。

今年の我が心のライオンズ、なんとか楽天との試合2勝1敗でスタートすることが出来ました。投手力は両リーグ通じてナンバーワンと言われていますが、問題の打撃陣、相変わらず若手の伸び悩みというか、このシーンでどんなバッティングをすればいいのか?ということが理解されてないと思います。コーチがボンクラなのか選手そのものに能力がないのか、ここ数年同じ状況が又しても見せつけられるのが残念です。特に際立ったのが今年4年目の若林外野手、オープン3試合すべて選抜メンバーに選ばれながら13打数ノーヒット、数字はたまたまかもしれないが内容が良くない。少しは考えて打席に立てよ!とがっかりするバッティング、監督もそろそろ他の選手に替えるのかなと思いきやそのまま打席に送り出す始末。今年も松井監督続投ですが、おいらとしてはこの監督、選手時代はスタープレーヤーとしては認めるのだが指導者としては決断力のない監督だと思います。

一方、ライオンズに後ろ足で砂かけて出て行ったホークスの山川選手の動向が気になりますね。早速1号ホームンを放った後、いつものどすこいポーズ。少しは反省してるんですかね...人気商売の選手はやはりお手本になってなんぼの世界だと思います。数字残せば文句ないでしょう!なんて気持ちでプレーしていたらとんでもない人生になっちゃいますよ...

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週末満開かな...

2024/03/29
【第1873回】

昨日、下北沢ザ・スズナリで水谷龍二作・演出「お目出たい人」観劇。この芝居、今は亡きコメディアンたこ八郎さんのお通夜の時、皆笑顔で酒を酌み交わした光景を想い出して芝居にしたそうです。おいらも生前、新宿ゴールデン街でたこちゃんと何度か酒を酌み交わしたことがあります。ボクシング元日本フライ級王者から喜劇俳優由利徹の弟子になり、数々の伝説を作った怪優でもありました。右耳の三分の一が欠けていて「犬と喧嘩して噛み千切られた...」なんて言ってましたけど、実は居酒屋で客と喧嘩して噛み千切られたそうです。

いつも愛されキャラで酒場での人気者でした。そのたこちゃんも最後は水死の事故にあいました。海水浴場に行く寸前までゴールデン街で泥酔、海の家に着いても焼酎飲み続け海に帰っていったそうです。今から実に39年前の出来事でした。

今回の芝居をプロデュースした川手淳平君。以前、トムの新人公演にも出演したこともある役者なんですが、今回で3本目のプロデュース。プロデュース稼業を30年やってきたおいらも、彼の芝居に対する情熱、愛情、大したもんだと思いますよ。何といってもお金の問題、限られた入場者の中で如何に赤字を出さないか...借金抱えたらそれこそ一家離散なんてこともありえるんですから...そんなリスクを背負いながら役者である川手君がどうしてもやりたいという覚悟で臨んだ今回の芝居。プロデューサーとしても勿論、役者としてもなかなかのもんでしたよ。力の抜け具合、自分の立ち位置、素敵な役者ぶりでした。

人生、何事も夢中になれることがすべてです...どんなにお金、地位があっても燃焼できる対象を持ちえない人は寂しい時間の垂れ流しに違いないと思います。

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春の、ファンファーレ

2024/03/27
【第1872回】

冴えないこの国の唯一の希望の星であった大谷さん。連日メディアで推理合戦が報道されています。ほくそ笑んでいるのは裏金問題で困り果てていた悪相議員の方々でしょうね。それにしても先日、次期選挙に出ないと言うことで記者会見したあのおっさん、この国の幹事長を何年も勤めて居たのですから、驚き桃の木山椒の木でございます。質問した記者にふてくされた表情で答える姿がなんと醜いことか...同じ日本人としてとっても恥ずかしい。集金力が優れているだけで党の要職に就けること自体がおかしな話です。

所で大谷さんの記者会見。ほんとに怒りの感情を抑えての発言でしたね。長年、信頼し合って兄貴的な存在の一平さんに対する思いは確かに簡単な言葉で表現出来ないでしょう。スポーツの世界でほぼ頂点を上り詰めたら何かがあってもおかしくないと思います。好事魔多しって言葉がありますよね、調子がいいとき幸運が巡った時に、何故か水を差すサタンが登場するんですね...そりゃ人生ですから山あり谷あり、底に行ったときにどれだけ踏ん張り這い上がってこれるのかが勝負です。おいらも世界あちらこちら見させてもらいましたが、西欧人はどうしても有色人種に対しての優越感、もっと言えば差別意識はありますね。大谷選手に対しても快く思っていない人たちが居てもおかしくないと思います。こんな時こそ、良き伴侶になった方と二人三脚で乗り越えて欲しいと思います。

今日は春らしい陽気ですね。近くのサクラが一足早く挨拶してました。金曜日からは日本のプロ野球もいよいよ開幕、すべての人にとって喜ばしい心ときめく春であって欲しいのですがね...

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一足先に

2024/03/25
【第1871回】

先週、南青山にあるBAROOMにて上演された、村井國夫さんと沼尾みゆきさんによる歌と朗読による芝居を観てきました。題材は「「星の王子さま」、作者のアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリが、むかし子どもだったひとりのおとな、親友のレオン・ヴェルトにささげた物語です。1943年にニューヨークで出版されて以来、世界のあらゆる国の人達に読み継がれた名作です。おとなは、だれも、はじめは子どもだった。(しかし、そのことを忘れずにいるおとなは、いくらもいない。)という冒頭の一文から始まり数々の哲学的な言葉も含め、近代文明に毒された人類に語られる言葉が今なお突き刺さってきます。

とても簡単なことだ。ものごとはね、心で見なくてはよく見えない。いちばんたいせつなことは、目に見えない...こんな言葉を発しながら自然界の生き物を登場させながら意味深に語り掛けてくる構成が実に巧みで幻想的である。

村井、沼尾さんの息の合った歌声と朗読で心地よいひとときでありました。今年80歳になる村井さん本当に精力的に活動されています。老いなんて関係ないのかな...まだまだマグマのように吹き上がる感情の方が勝っているに違いない。これから、今年なんと3本の新作の芝居を抱えているのですからくれぐれもお体を大切にしてくださいね!

昨日の大相撲春場所千秋楽、新入幕での優勝は1914年以来110年ぶりという快挙を成し遂げた尊富士の優勝インタビューがなかなか。「記録より記憶に残る土俵を務めたい。」青森県五所川原出身の24歳の青年、なかなかいいこと言うじゃありませんか。共に健闘した石川県出身23歳の大の里と共に新しい相撲の世界を作り上げて欲しいと思いました。

そして、大谷さん...明日自ら会見に臨むそうです。まさしく人生万事塞翁が馬、一寸先は闇、何が起こるかわからないカオスの世界でございます。

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もうじきだネ

2024/03/21
【第1870回】

一昨日、東京スカイツリー近くにある「すみだパークシアター倉」で、劇団温泉ドラゴン第18回公演「キラー・ジョー」を観劇。アメリカ、テキサス州のダラス郊外のトレーラーハウスに住む一家の話。数千ドルの借金返済のために実母の殺害計画を、表の顔は警官だが裏の顔は殺し屋であるジョーに依頼し一家はとんでもない方向に崩壊してしまいます。いやはや、すさまじい芝居でした。公園のチラシに【トリガーアラート】本作は次の表現含みます。暴力描写 性暴力描写 セクハラ描写 流血描写 火薬による銃の発砲...さすがに子供さんは観客席には存在していませんでした。舞台上でこれほど生々しい行為があると、観る人によっては嫌悪感を抱く人も居るかもしれませんね。そんな予見を感じながら何故上演に至ったのか...主宰者は、演劇において舞台上が世界のすべてだとするなら、この一家の崩壊は世界の崩壊のメタファーです。資本主義、新自由主義を追求した果ての、つまり一部の人間が富を独占した結果としての世界の崩壊です...と述べています。

表現はある意味無限です。その無限の中から何を切り取り作品にするかが勝負です。当たり障りのないものを創って観客が退屈するよりも、より一歩、いや近未来に向けてのメッセージを届けようとするアーティストが待機しているのも事実です。より魅力的、刺激的な作品で生ぬるい我がニッポン豆腐列島に一撃を!

ここ数日、世の中は大谷選手の話題で満載。そんな折に今日とんでもないニュースが飛び込んできました。7年間通訳として共にしてきた水原一平さんが違法賭博に手を染めたという理由で解雇報道。いや、本当に人生何があるか何が起こるか分かりませんね...ついさっきまで幸せそうな状況が一転して不幸せに、まさしくどこかで観たことがあるドラマのように...

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寒桜とスカイツリー

2024/03/18
【第1869回】

大相撲三月場所も昨日で中日を迎えました。一時はモンゴル勢の勢いで純日本産の力士は見る影もない有様でしたが、ここのところ新鋭、大の里に新大関、琴ノ若の台頭で再び盛り上がりを取り戻しつつあります。おいらの年代は野球と同じく相撲も人気のスポーツでした。若乃花、栃錦、吉葉山なんて人気の力士が勢ぞろい。なかでもおいらは吉葉山のファンでした。よか男のうえに心優しい関取でした。のちに大横綱になった大鵬はまだやせっぽちで幕下あたりだったと思いますが、新聞配達の帰り道、宿を構えていた万行寺での早朝稽古を見学した時、既にこの力士は大物になる雰囲気を備えていました。激しい稽古で知られる二所一門の稽古、それはそれは激しいものでした。そんな稽古を見ながらキヨシ少年は、おいらはまだまだ甘いと思いながら気合を入れなおした次第です。

今、多くの優勝を積み重ね引退した白鵬親方の処遇を巡って相撲協会が揺れています。考えてみれば、ここ数年の相撲人気を支えてきたのはモンゴル力士の活躍があってからだと思っています。彼らが居なければとっくに潰れていたかもしれません。確かにモンゴル力士の品性は感心しないことも多々ありました。引退した元横綱、朝青龍なんて力士はひとり汚れ役を買って出たダーティーヒーロー。でも強かった!異国の地で一旗揚げる根性はただものではなかった気がする。日本の力士がなんとひ弱に見えたことか...日本も豊かになり、相撲の世界に入る若者が減少したのも理解はできますが、入門したからには頂点目指す気概は持って欲しいと思って観ています。スポーツ観戦で一番つまらないのは、気持ちが見えないプレー、現役生活そんなに長くはないのだからファンの皆さんの記憶に残るプレーを残して欲しいと思います。

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開花を待つ神田川

2024/03/15
【第1868回】

昨日の参院政倫審での世耕弘成議員の堂々たる態度にある意味感心した次第である。あそこまで堂々と演じきれれば千両役者である。誰が見てもそのからくりを知っていながら知らないと言い切る面の顔の厚さはただものではない。ほとんどの国民が説明されてないと声をあげているにも関わらず誰一人として一切明らかにしようとしない議員集団がこの国の権力を握ってることに只々呆れるばかりである。せめてもの若手の議員が立ち上がって異を唱える行動を起こせばまだしも、なんともへんちくりんパーティを開催し失笑を誘う有様である。誰もが我慢を重ねたコロナの時期、物価上昇でやり繰り生活を強いられた中、この厚顔無恥集団がコソコソと裏金作りに邁進していたかと思うと怒りを覚える。

一方、株価は上がり春闘での賃金アップ、なんだか景気の良い話に聞こえるのだが、この国の多数を占める中小企業の人達、年金生活者にとっては相変わらず苦境の日々が強いられているのが現状だ。世界幸福度ランキングも先進国の中では最下位。よく失われた30年なんて言葉を耳にしますが、このままだとこの先、失われっなっぱしの日本の未来が見えてきそうです。

「桜が一週間で散るのは、われら日本人が飽きっぽいからだ」なんて言われないようにますますの監視ともに、選挙には政治家の質をあげる投票をしましょう。

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弥生の月と星

2024/03/13
【第1867回】

昨日は春の嵐で一日荒れ模様の天気でしたが、今日は一転春らしい日和になりました。東京の桜開花宣言予想が3月19日と発表していました。年毎に早くなってきてますね。これも地球温暖化のせいでしょう。一年の中で、春の予感ほどウキウキするものはないでしょう。

人間生きてていつもこのワクワク感があれば人生楽しいに決まっています。その楽しみは待っていても訪れるものではありません。始終クンクンと嗅ぎつけ感じるチカラを保持してないとダメなんですね。

漫画家の東海林さだおさん、86歳になっても好奇心旺盛、生きることを楽しんでいます。

東海林さんの「おでん」に対する彼なりの見方が面白すぎて笑っちゃいます。

世界的和食ブームで、先陣を切ったのは寿司で次はおでんでは?でも、おでんはあまりにも身なりが貧しい。ほとんどが色は茶色、田舎っぽく、形もむさくるしい。たとえばチクワ、茶色いボロのようなものを全身にまとっている。おまけに体のまん中に穴が開いている。穴もボロも繕ってから人前に出るのが礼儀ではないのか。だが、聞くところによると、この穴はおでんのツユがよく染みこむようにチクワ自ら開けたのだという。チクワは我が身をなげうってまでおでんになりたかったのだ。だが、その一途は、はたして世界の人々に通じる一途なのだろうか。西洋合理主義から考えれば、商品の穴は欠陥である。だが、こういう考え方もある。チクワの穴の中には何も存在しない。無である。無は禅の教えにつながる。禅の教えを具現化したものがチクワということになる。ビートルズのジョン・レノンは禅に傾倒していた。ジョン・レノンは理論上チクワを食べていたことになる。そういうことになれば、世界中の人々はアッというまにチクワのファンになりおでんのファンになっていき、世界中におでんブームが巻き起こる...てな訳です。

どうです!この飛躍、こじつけ、いや想像する遊び心...いつどんな時にもこうやって生きてりゃ言うことありまっせん!さあ、今日から実践してみてはいかが皆の衆。

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春の公園

2024/03/11
【第1866回】

東日本大震災から13年。未だに避難者が2万6000人、そして、人が死んでしまうレベルの放射線を放つ溶け落ちた核燃料「デブリ」の取り出しは数グラムでさえ、13年たった今もできていません。そんな状況の中、岸田政権は原発の再稼働どころか新原発の建設まで打ち出しているのですから狂気の沙汰としか言いようがありません。聞くところによると、日本の原発の停止はアメリカの都合によってできないそうです。すべてがアメリカのお伺いを立てられないと事が進まない敗戦国の宿命、そして日米軍事同盟の縛りがそうさせています。今年元日に発生した能登半島地震然り、このままいけば地震大国日本は自ずから消滅してしまうに違いありません。何とかアメリカを粘り強く説得できる政権が誕生することを願うばかりです。

未だに故郷に戻ることが出来ない帰還困難区域の人たちの諦めに似た表情、我が子を津波に流された海を眺めながら「死ぬまで諦めきれない...」とつぶやく年老いた母親、この日が来るたびにあの惨状が甦ってくる人たちの悲しみを、残された人たちがどう受け止めるか?腐りきった現政権は勿論、この現状を少しでも前に動かす人材、システムが機能しないことに怒りと悲しみを覚えます。

昨日、村井國夫、音無美紀子ご夫婦による、歌と朗読で紡ぐ愛の物語「恋文」に行ってきました。その中で、お二人の知人である方の手紙に思わず涙しました。東日本大震災当日、津波に遭遇しながら奥様が必死に手を差し伸べながらも力尽き流され、一カ月後に見つかったご主人。そのご主人にあてた「恋文」、音無さんのところに送られ直筆で書かれた巻紙を朗読する音無さん、その「恋文」に沿う歌を唄う村井さん。両夫婦の思いが一つになる感動的な瞬間でした。

原発のない、そして戦争がない世界...どうすれば良いのか!今生きているニンゲンが思考し行動しなければいけないことを肝に銘じなければならない3月11日です。

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「恋文」町田まほろ座にて

2024/03/08
【第1865回】

先月亡くなった小澤征爾の芸術と銘打ったCD16枚組の壮大且つ繊細なる音すべて聴き終えました。改めて、小澤征爾なる人物の生きざまが、命を懸けてタクトを振る姿が目に浮かぶ。魂をスパークさせる指揮が、決して西洋の借り物でなく音楽そのものに国境が無いということを実践した人でもありました。25歳の時、インド洋の真ん中で貨物船のテッペンに登って、水平線をジロジロ見回した時、なるほど地球は随分でかくて、丸いものだと思ったそうだ。敗戦を経て世界に対峙しようとした心意気を感じる。N響とのトラブルにもめげず「僕はただ音楽をやりたい!」と世界に打って出た行動力も半端ではない。

どの世界においても冒険心からスタートした人ほど、とてつもないものを生み出している。

夢は追うものではなく、しがみつくもの。地位や名誉に翻弄されることなく、己の忠実なる魂にしがみつき行動する姿こそが新しい価値観を生み出すのではないか。

小澤さんはこんなことも言っていた。楽器から流れ出す音は人間の声と同じである。だからこそ、あれほど人目もはばからず情熱をもって演奏者に伝えるスタイルを維持し続けたに違いない。

お隣の韓国、中国、そして我が日本、もうそろそろ立身出世の妄想にピリオドを打ちませんか?いい学校に進学、一流企業に就職したからといって幸せな人生とは言えません。そんなことにお金と時間を投資するんだったら、己の心に真摯に向き合うことに投資し決断、行動し、自分の道を切り開いていく生き方の方が魅力のある人生だと確信します...一度きりの人生ですから!

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今朝の杉並区

2024/03/06
【第1864回】

昨日、新宿西口地下イベント広場でこんなものを見つけました...懐かしいですね。おいらが子供の頃は、こんな看板に憧れて映画への夢を育んだ気がします。手書きの看板の前に佇み、観たいのはやまやまなんですがお金が無く、入場するおっさんの傍に寄り添いあたかも親子のようになりすまし無料鑑賞をしたこともありました。

この看板を描いた人は、今は亡き久保板観さんです。中学一年生の頃から映画看板の絵の練習にのめりこみ、昭和32年、中学卒業後に東京青梅市にある映画館「青梅大映」で看板絵師の仕事をスタート。年間365枚以上の映画看板を描く生活をしたそうだ。その後、テレビの出現により映画産業も斜陽の憂き目にあい仕事がなくなり、商業看板業に転職。平成3年から地元商店街町おこしに馳せ参じ、平成6年からは青梅の商店街に昭和の映画看板が飾られるようになった。久保さんは平成30年脳梗塞により逝去、享年77歳。

そんな久保さんが精魂傾けて描いた看板を前にして、暇さえあれば映画館に通った日々が甦ってきます。高校時代は福岡市高校映画連盟を創設し毎日のように会長という権限を縦横無尽に利用、いや活用し、中洲の映画館に入り浸りでございました。そして、お嬢さん学校も巻き込み映画談義で楽しい時間を過ごさせて頂きました。決して映画を利用したのではございませんことよ、とことんおいらは映画が好きだった!映画にかかわる仕事がしたいという思いで東京行きを決めた次第です。

それにしても、何事においても利便性が問われる現世、このローテクな職人芸、そして生き方、貴重ですし大切にしたいですね。

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昭和の名画

2024/03/04
【第1863回】

先週の土曜日、座・高円寺にて、糸あやつり人形一糸座による「崩壊 白鯨ヲ追ウ夢」を観劇。この一座の前身は結城座です。江戸時代から継承された糸あやつり芸を初めてみたのは50年前です。50人ほどの小さな小屋で人形を操る結城孫三郎の見事な芸にすっかり魅了された記憶があります。今回の一糸座は結城座から独立して20年になるそうです。「劇団桟敷童子」の東憲司氏による、あの有名なハーマン・メルヴィルによって書かれた長編小説「白鯨」を下敷きに書かれた作品でした。「白鯨」と言えば思い出すのが1956年に上映されたグレコリー・ペック主演による映画。片足の船長を演じたグレコリー・ペックの真に迫る演技が今でも鮮明に記憶に残っています。おいらが若い頃在籍していた演劇群「走狗」でも上演しました。勿論、アングラ芝居ですから原作からは、はるかに逸脱してはいたのですがハチャメチャ奇想天外な展開でテントに集まったお客はそれなりに楽しんでいました。博多公演では室見川河畔にテントを建て、ラストには今は亡き美術家・島次郎が作ったブリキの鯨が百道の海で遊泳する姿が懐かしく想い出されます。

あやつり人形を操作する人形がまるで生きているかのように見えるのは、あやつる人の技術ではなく、身体から糸を通じてどれだけ魂を吹き込められるかにかかっていることを再確認しました。今回の芝居でも、血筋を引く江戸伝内さんの繊細な糸の捌きが人形・船長エイハブの一挙手一投足に哀歓と激しい闘争心が痛いほど感じられました。その活き活きした人形にいかに対峙していくか?生身の俳優陣の奮闘ぶりも見応えがありました

演劇はあらゆる可能性を秘めています。今回のラストにも舞台に置かれたごみにしか見えない物体が、一瞬にして空飛ぶ鯨として泳ぐ姿を眺めながら、人の想像するチカラと創造する楽しみがなんと素敵なことであるかを再認識させられながら劇場を後にしました。

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もうすぐだね

2024/03/01
【第1862回】

今日から弥生です。下旬には桜も満開、春の到来で身も心も軽快になってくるんでしょうね。

昨日で、「モンテンルパ」全公演、無事に終えることが出来ました。本番間近にコロナ、インフルエンザの猛威に襲われ、あわや公演中止なんてことになりかねない状況を、見事はねのけての今回の舞台。芝居の神さんは又してもトムを守ってくれました。スタッフ、キャスト皆さんの頑張りに只々感謝です。そして、呼んでいただいた演劇鑑賞会の方々の温かい心遣いがあってこその公演でした。心待ちにしてくださった皆様に満足していただける芝居の仕上がりであったことを、日々の報告で知らされる度に内心ホットした次第です。

一方、この国の政治、ほんまにふざけた状況に直面しています。昨日、今日と2日間にわたり開かれた衆院政治倫理審査会、首相はじめ安倍派の幹部、皆知らぬ存ぜぬの一点張り。ふざけるんじゃないよ!と言いたい。ここまで国民をなめ切った姿に開いた口が塞がらない。誰一人として脱税の意識もなく、会計責任者に責任を押し付ける白々しい顔を見るにつけテレビ中継も見る気がしなくなりました。早く解散して、選挙で自民党をこき下ろしたいところだが、喉元過ぎれば熱さを忘れるのが常の日本国民性を思えば悲観的になっちゃいます。そんなもやもやを吹き飛ばすかのような大谷選手の結婚ニュース。ここまで完璧に知られない彼の思考、行動、改めて感心してしまいます。すべてが万能、こんな人物が野球界だけにとどまってしまうのもなんとももったいない。

土の中からひょっこりと花開く野の花。おいらの顔も思わず緩んでしまいます。

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クロッカス

2024/02/28
【第1861回】

昨日、高崎演劇鑑賞会で久しぶりに「モンテンルパ」を観てきました。高崎は群馬県では規模的には一番大きな町である。日本一のだるまの産地でもあり芸術活動も活発である。駅前では早速ストリートミュージシャンがいい音鳴らしておりました。

そんな街で活動を続けてきた高崎演劇鑑賞会もコロナの影響で、ここ数年大変苦しい時期がありましたが、演劇の灯を消してはならないとの思いから少しずつ盛り返し元気な姿でトムの芝居を迎えてくれました。

今月7日、東北演劇鑑賞会でスタートした「モンテンルパ」もいよいよラストが近づいてきました。久しぶりに会った役者5人衆、さぞかしお疲れモードかな?と思いきや元気もりもりでございました。芝居もさすがに回を重ね安定した舞台を魅せてくれました。いわき演劇鑑賞会では終演後、スタンディングオベーションで大盛り上がり、役者さんたちも大感激。トム・プロジェクトのキャッチコピーでもある

「舞台の素晴らしさは 新鮮な感動であり発見です!観る側と創る側が夢のある舞台を創りたい!」に相応しい現場を創出していることに感謝と勇気をもらえます。

残り今日と明日の2ステージ、無事に千秋楽を迎えることを願うばかりです。

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梅林

2024/02/26
【第1860回】

31年振りにビクトル・エリセに逢えました...おいらにとってエリセ監督の「ミツバチのささやき」「エル・スール」は映画史の中でいつまでも記憶に残る作品でした。今回のスペイン映画「瞳をとじて」なんと31年振りの長編映画です。3時間近くの作品、人によっては冗長なシーンが多く居眠りしちゃいそうなんて方もいるんでしょうね。よくよく観てみんしゃい、このデジタル化が進みテンポを要求される時代に、ここまでじっくりと登場人物の表情を、粘り強く映し出し内面に迫る姿勢に、こちらまで見続け記憶してしまう映像のチカラ、説得力に驚嘆。この映画は、登場人物の監督が制作中に疾走した俳優を探すというシンプルなストーリーなのだが、その過程で出会う人物像がすべて過去と現在そして未来を想定させるシーンの連続である。エリセ監督の映像はいつもながら静謐な色合いを醸し出す。要するに浮いていないのである。どこまでもより深く内面に沈着していく説得力がある。観る側もスクリーンに落とし込められてしまう映像の魔術師だといっても過言ではない。得てして、作品を創る際には面白くするためにテクニックを多用し興ざめしてしまう映画が多々ある。

この監督にはこのあざとさが一切感じられない。ただひたすらに、淡々と生きていく間に無くした心のよりどころとなる何かを拾い集め、その断片一つひとつに思いを馳せ思い出す、あの日、あの時の肌で感じた体温と高揚感。31年振りに創ることが出来た監督自身の現在の心境を綴った今回の作品は、映画は永遠不滅、どんな過去をも一瞬にして蘇らせる心の琴線であることを再認識させてくれました。

邪魔しない音楽も素敵でした。映画「リオ・ブラボー」の挿入歌、ライフルと愛馬のまさかの替え歌、監督のチャーミングな一面を感じました。そして、「ミツバチのささやき」に5歳でデビューしたアナ・トレントが50年振りに再びアナ役を演じていました。彼女が記憶を亡くした父親と対峙し「Soy anna(私はアナよ)」と呼び掛けて目を閉じる...

おいらの記憶が映画を支え、映画がおいらの記憶を支える。なんとも至福な時間でございました。

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瞳をとじて

2024/02/21
【第1859回】

昨日は、トラッシュマスターズ第39回公演「掟」を下北沢駅前劇場で観てきました。ある地方都市の市長選挙を巡る顛末を描いた作品です。日本のどこかで今でも、保守的な人たちと変革しようとする人たちとの闘いは日々繰り広げられているに違いありません。国会で問題になっている裏金なんてものは、地方都市ほど日常化し未だに改められることがなく、未だに続く自民党政権の温床になっていると思われます。

今回の芝居で一番驚いたのは、なんと新劇劇団のベテラン俳優の方々が4人も出演されていること...随分昔の話になりますが、おいらが芝居を始めたころはアングラ演劇が台頭し、その新しい動きに共鳴し、新劇劇団のなかからも反新劇運動がおこりいくつものグループが誕生しました。新劇の体質が持つアカデミック的なものにNOを突きつけた俳優、演出家、作家が古典ではなく今を描く作品を上演し喝采を浴びました。状況劇場、黒テント、早稲田小劇場、天井桟敷などなど、おいらも演劇群走狗なるものに所属し7年間テント担いで全国を駆け巡りました。今まさに大衆と同じ地平に立ち生の肉体を曝け出し吠えていたんでしょうね。

新劇で長い間培われたベテラン俳優さんと若い人たちの競演は見応えがありました。中津留章仁の作品をリスペクトしながら、3時間近くの芝居を成立させようとする姿は、演劇を超えた人間の深い繋がりの感じさせてくれました。どこの世界も年齢は関係ありません。

ミュエル・ウルマンの青春に関するこんな詩があるじゃないですか。
  青春とは人生のある期間ではなく心の持ち方を云う。
  薔薇の面差し、紅の唇、しなやかな手足ではなく、
  たくましい意志、ゆたかな想像力、燃える情熱をさす。
  青春とは人生の深い泉の清新さをいう。

おいらももうすぐ78歳、そりゃ体の衰えは日々感じますよ...でも、こうやって今日も目が覚めたら生きてるんだもん...よっしゃ!今日も楽しんでやろうなんて気持ちになっちゃいますね。

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トムの支店ではございませんよ

2024/02/19
【第1858回】

おいらは、やはり詐欺師だった...先週、妻の誕生祝い(古希)で、とあるイタリアレストランに行くことになりました。初めての場所で、スマホ片手に目的地に向かうが、なかなかわからずお店に電話をしました。おいらの声がデカすぎたのか前行く二人のオッサンがおいらを振り返っていました。それにしても二人して振り返ることでもないとは思いましたが...先ずは間違えて一本目の道に迷い込み、ここではないと思い一つ先の道路に出ました。左右確認すると右手にイタリア国旗がはためいており、「この店に間違いない!」と歩き出し店のドアを開けようとした瞬間、おいらの後ろを歩いていた妻が二人のオッサンになにやら問いかけられているので、何しているのだろう?なんとこの二人のオッサン刑事だったんです。妻の話によると、先程のおいらの店探しの電話が、怪しいと感じ追跡したらしい。おいらがオレオレ詐欺の一味で、妻は騙されそうになった被害者女性と思いマークされたというわけだ...おいらが店のドアに立つ姿を指さしながら「夫です...」と答えたところ、二人の刑事はズッコケてしまいました。それにしてもこの二人、どうみても刑事には見えません、職人さんと見ましたね。その辺の服装、佇まい、見事というしかありません。まさしく演技賞もんです...妻に職務質問する前にきちんと警察手帳を見せたんですから間違いはありません。照れくさそうに立ち去る二人のデカ、疑ってスミマセンなんて顔していました。

ここで改めて、おいらはやはり詐欺師風情が拭いきれないなのかと...悲しみべきか、はたまた喜ぶべきか...でも、芝居なんてもの所詮、詐欺師の所業でございます。観に来ていただいたお客さんをいい意味で裏切り、騙すかを常日頃、思考し行動しているんですからね。

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如月の空

2024/02/15
【第1857回】

人が生きていく中で、人との出会いでその後の人生が左右されるのは当然だと思います。そして次に大切なのは、どんな本を読み、どんな映画・芝居・絵画を鑑賞し、どんな音楽を聴いてきたか?これらのことで、ほぼその人の人間形成が形創られ、豊かな人生のある程度のバロメーターになるのではないかと思っています。古典から今はやりの旬のものから何を選択するか?これも難しい判断であると同時に、やはり個々の感性が鍵となってきます。

音楽のジャンルも確かに幅広い。おいらは基本的にジャズが好きなんだが、これに拘ってるわけではない。若い頃から名曲喫茶に入り浸り(新宿にあった、らんぶる)世界のクラッシックを堪能しました。プログレッシブ・ロックの先駆者としても知られるピンクフロイドにもよく聴きました。勿論、自らギターを手にしてフォークにも熱中した20代もありました。じっくり歌詞を味わうことが出来る歌謡曲もいいですね♪旅心を唄う小林旭もなかなかよかもんです。

最近、よく聴くのがフランスのチェリスト、ゴーティエ・カプソン。今年42歳になる彼のチェロはなかなか心地よい。チェロと言えばスペイン人のカザルス、当時、独裁政権の反対しフランスに亡命しながらも、カタルーニャ人としての誇りを失わず、心を込めて格調高く演奏したカタルーニャ民謡「鳥の歌」はいつ聴いても胸に迫るものがあります。そしてもう一人、マイスキー。彼の演奏するバッハの無伴奏チェロ組曲を聴いていると、表現力豊かなバッハの世界を思う存分に描いていてエモーショナルな気分にさせてくれます。

要はチェロという楽器が「人間の声に一番近い音域」と言われているので、私たちの耳に心地よく響くのですね。

No Music No Life♪

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今宵もチェロを

2024/02/13
【第1856回】

先週の週末、久しぶりに吉祥寺井の頭公園に行ってきました。それにしても吉祥寺の街の賑わいは相変わらずです。この街の人気度、なるほどと言う点がいくつもあります。老若男女問わず楽しめるスポットが程よく点在しています。先ずは井の頭公園、池でのボート遊び、公園内のあちこちで繰り広げられる大道芸人のサービス、手作り作品が並ぶ出店、そして幼児に人気のブランコなどなど。勿論、若いカップルが愛を囁くベンチも随所に配備されています。四季折々を楽しむことが出来る樹木の種類の多さも魅力的です。

そして街中、昔ながらの戦後闇市バラック飲み屋街があると思えば、若者向きのお洒落な飲食店も変化は速いが次々とオープン。そして古着屋、安価でポップな品物があちらこちらにぶら下がっています。そして何よりも安心なのは、新宿の歌舞伎町とか渋谷、池袋に行けば必ず目にするデンジャラスゾーンがほとんどないということかな。おいらなんか、昔からクンクンと匂いを嗅ぎながら未知なる危険な地域に潜入するのが面白いと感じる人間にとっては、無味無臭な街かもしれませんね。

この日も、井の頭公園では多くの大道芸人が芸を披露していました。なかでも全身を赤銅色にコーディネートしたパントマイム芸人、前に置いた箱にお金を投げ込むと動き出しシャボン玉を飛ばしてくれました。大空に舞い上がるシャボン玉がはじけた瞬間...ウクライナ、ガザ地区で非業の死を余儀なくされている市民がオーバーラップしました。

平和は向こうから勝手に来るものではありません。平和呆けしているといつの間にか日本も徴兵制度復活なんて未来が待ち受けているかも知れません。そんなこと考えながら、この日は1万5千步歩いていました...勿論、徴兵に備えてではありませんぞ。

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平和な一日

2024/02/09
【第1855回】

昨日は久しぶりに北千住に行ってきました。もう少し足を延ばせば千葉県松戸市、そんな場所にあるシアター1010(センジュ)。この立派な劇場で「大誘拐」なる芝居を観てきました。勿論、風間杜夫、柴田理恵さんが出演しているからの観劇です。共演者は白石加代子、中山優馬。御年82歳になる白石さんの怪優ぶりは相変わらずでした。早稲田小劇場で鍛えられた声、肉体表現は世界でも十分通用すると思います。この芝居での風間、柴田さんのやり取りが観客を和ませる程よいスパイスになっていました。二人に共通しているのは遊び心です。しんどい芝居の進行のなか、ちょっとした遊びが観客の緊張をほぐして新たな緊張を呼び起こしてくれます。遊びらしく見せかけながらも、ドラマの中で成立させるのがプロの役者です。

終演後、ディープな居酒屋などが立ち並ぶ、「飲み屋横丁」を散策。この北千住も再開発が進み街の様子も一変したのですが、ここだけは戦後闇市を引き継いだ飲み屋街です。ネズミがウロチョロしているのを垣間見るだけでディープ合格。壁一面に芝居、音楽、美術のチラシを貼り、一日一組しか客を入れないと蘊蓄を語る飲み屋の親父が居ると思えば、一見の客お断りの餃子を食べさせるおかみさんの店。この横丁、変わりもんがいて歩いているだけでもおもろいところです。そんななか静かな佇まいでオープンしていた「DEVIL CURRY」に入店。店内は、カウンター席のみ、繁華街にある隠れ家のような雰囲気のお店でした。JAZZが流れる中、出てきたチキンカレー絶品でした。久々に美味なるカレーを食した喜びに浸ることが出来ました。ウロチョロ、キョロキョロ、クンクン、さすが戌年のおいら、いい店見つけることが出来ましたとさ。

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大誘拐

2024/02/07
【第1854回】

日本映画史上、傑作の一つである黒澤明監督の「七人の侍」を観ました。これまで何回も観た作品です。やはり素晴らしい!先ずはすべてがリアルだということ。衣装、メイク、かつら、小道具、セット、一分のスキがないくらい見事だ。1954年公開の映画としては、ここまで創ることが出来たのも黒澤明に対する信頼と期待の表れであろうかと思います。当時の通常作品の7倍に匹敵する2億1千万の製作費と1年を要して完成させた成果が随所に感じられます。そしてカメラワークによる実在感、黒澤映画の特徴的な撮影技法マルチカム撮影法を初めて導入している。マルチカム撮影法は1つのシーンを複数のカメラで同時撮影するという技法。その他目まぐるしく変化するシーンを8台のカメラを駆使しアングルの豊かさと臨場感を醸し出している。

この映画のテンポとリズムを生み出しているのが早坂文雄の音楽。主題曲の侍のテーマが特に素晴らしい。この曲が流れるたびに、戦国時代末期に仕事にあぶれ盗賊化した野武士軍団の襲撃に対抗する七人の侍と百姓たちに、おいらもエールを送りたくなってくる。映画を観終わってあとも、このテーマ曲を自然と口ずさみ己を奮い立たせてくれるってんだから映画音楽としての名曲であることは間違いない、

きらりと光る俳優陣の個性が堪らない。貫禄と武士の矜持を持つ志村喬、野放図さと愛嬌の三船敏郎をはじめとして、加藤大介、稲葉義男、宮口精二、千秋実、木村功の七人の侍。

百姓の藤原鎌足、土屋嘉男、左卜全、なかでも左卜全は最高でございます。意気地がなく間が抜けた役を与えたら彼にかなう役者はいないと思う。「生きる」のお通夜のシーンも絶品でございました。昔はホンマに良か役者がごろごろ居たんだなと、改めていい時代にいい映画を見せて頂いたことに感謝。

東京都心の雪騒ぎも一段落して今日は青空が広がる立春から二日目の日です。

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残り雪

2024/02/05
【第1853回】

2月2日から昨日まで、亀戸カメリアホールで上演した「モンテンルパ」無事に終えることが出来ました。今回の公演、稽古中にいろんなアクシデントがあり公演中止もありの状況の中、スタッフ、キャストの皆さんの奮闘で乗り越えることが出来ました。本当に生モノは恐いです。まさしくなにが起きるか分からないシナリオがないドラマですね。

3日間の公演全て拝見したのですが、日毎に芝居そのものが成長を遂げていました。緊張感を強いられる環境がそうさせたのかも知れません...演劇の最も難しいのは、ただやみくもに稽古をやれば良いというもではありません。やり過ぎて慣れてしまうのも良くないし、稽古不足はその稽古量の少なさがそのまま本番の舞台上にさらけ出されてしまいます。その辺りの按配をうまく調整しながら初日に照準を合わせていく難しさは、何度経験しても計算できるモノではありません。役者の精神、肉体、思考、プロデューサとしては役者を信じるしかありません...そんなことまでも熟考しながらのキャスティング。

2月7日からは、山形県鶴岡市民劇場からスタートし29日まで東北ブロック、関越ブロックの演劇鑑賞会の人たちに18ステージ観劇していただく予定です。冬の最も寒い中、この芝居で温かい気持ちになっていただければと思っています。

亀戸で70年商売している「亀戸餃子本店」に行ってまいりました。餃子と飲み物しかありません。ビールを頼むとすかさず餃子が出てきます。一皿5個食べ終わりそうになったら、すかさず絶妙なタイミングでおばちゃんが餃子再注文の催促。断ることが出来ない微妙な雰囲気なんですね...周りを見ているとビールと一皿¥300の餃子を2皿から3皿食べての会計。残された空き皿で素早く計算、まるで回転餃子といったところかな。一組の滞在時間ほぼ15分から20分。このシンプルな営業スタイル、商いの原点を見せられた感じがいたしました。

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ここにも梅が

2024/02/02
【第1852回】

戦後すぐ東京都台東区柳橋の隅田川沿いに建てられた、旧市丸邸を2001年にルーサイトギャラリーとしてオープンした古民家での朗読会を観てきました。個性的な俳優、鳥山昌克さんが数年前から企画している出し物です。今回は唐十郎「雨のふくらはぎ」泉鏡花「絵本の春」の朗読劇。二人の女優さんに囲まれて楽しそうに演じていました。唐さんの作品になるとまさしく水を得た魚、そりゃそうでしょう、20年間、唐組で唐ワールド漬けの日々だったんですから...唐作品に度々登場する鶯谷周辺の夕焼け、下谷万年町のいかがわしくも耽美な世界。これだけは身近に体験した人と心中する覚悟がないと身につけることができません。

役者にとっての存在感は大切な要因です。それをどこで獲得できるのか?勿論、まず第一は日々の生き方、何を視、何を感じ、己の中でいかように発酵させていくか。そして次に誰と出会い共同作業していくか。優れた作家、演出家と出会い、共に芝居を創ることが出来ることは千載一隅のチャンスだと思います。あとは己の努力あるのみ。

鳥山昌克さんと唐さんとの出会いも偶然ではなく必然ではなかったかと思います。これからも唐十郎の魅力を伝えていってほしい役者さんだと思いました。

それにしても、朗読中に目にする背景が素晴らしい。隅田川を行きかう屋形船、総武線を走る電車の音、高速道路の車の列、リアルタイムのなかで粛々と進行する幻想の世界は、とても贅沢なひとときでした。

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如月

2024/01/31
【第1851回】

あの似合わない黒いハットを被ったおっさん、又しても物議をかもす発言をいたしました。ほんまに情けない、こんな人をいつまでも選ぶ福岡の選挙民もこれまた情けない。この国を代表する女性外務大臣の名前は間違えるし、あまり美しくないと容貌にいちゃもん付ける人間が副総理なんて世界に対しても恥ずかしい限りだ...こんなことを言われた外務大臣も「失礼な発言です!」とお灸をすえればいいのに、聞き流す対応。なんだか女性初の首相なんて声を気にしての忖度なのかとも思ってしまいます。

連日の裏金問題の当事者の言葉もすべて虚しく聞こえてきます。一番の正直者は、議員辞職を願い出た長崎選出のオッサンかもしれませんな...悪徳5人衆なんぞは国会開幕初日、皆そろってニコニコしておりました。せめてもの芝居でもいいから「申し訳ありません!」なんて神妙な顔でもすればいいのに、あの厚顔無恥なるツラを見せられると開いた口が塞がりません。

日本の国の政治家に申したい!あなたたちは言葉に対して失礼じゃないかと思います。要するに相手(国民)の差し迫った言葉を機能として聴いているだけ。己の腹の底に染みわたる覚悟で聴いていないということだ。そしてお金のこととなると欲の皮が突っ張り、これだけは正直になるという体たらく。政治屋稼業の言葉だけが利便的にはびこっている世紀末的状況でございます。

言葉は暴力には無力でもあっても、ひとりひとりの生きるうえでの杖であったり、飢えたときの代用品になったり、身を守るシェルターにも成りうる人間のみに与えられた宝物でございます。そんな言葉をないがしろにする人達に国を任せるわけにはいきません...

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善福寺川緑地公園

2024/01/29
【第1850回】

先週の土曜日、久しぶりに刺激的な映画を堪能しました。「女王陛下のお気に入り」のヨルゴス・ランティモス監督の最新作「哀れなるものたち」。観終わった率直な感想は、若い頃よく観たゴダール、フェリーニ作品を彷彿とさせるアバンギャルドの匂いがする問題作。何が問題かというと過激な性描写に目がいき、一見エログロに見せておきながら登場人物が語る言葉の背景には現代社会に潜む社会、化学、偏見、差別、政治、制度に辛辣なメッセージが込められていること。しかも説明的ではなくユーモアを交えてのやり取りにエンタメ性を感じさせてくれること。それにしても一番驚いたことは、2016年の傑作ミュージカル「ラ・ラ・ランド」で女優志望の主人公を演じ、ベネチア国際映画祭の最優秀女優賞や、アカデミー主演女優賞など数多くの賞を受賞したエマ・ストーンの体当たり演技。これがホンマの女優魂!日本の女優さんが観たら、なんでここまでやるの?と腰を抜かしそうな過激、過剰なシーンの連発。しかも、内面の演技もしっかりしてるんだから文句のつけようがない。アップで写し出される表情には一人の女性としての揺るぎない信念と持続する強い意志を感じる。

撮影、美術、衣装、ヘアメークどれをとっても新しいものを創る野心に満ち溢れた作品であることは紛れもない事実。エンドロールの流れる不思議な図柄と音楽、これにもまいりました。エンドロール賞をあげたいくらいの終わり方。映画にとって締めのエンドロールはとっても大切なシーンだと思います。すべてを終え、観客は余韻に浸っているなか如何に幕を閉じるか...終わりよければすべて良し!って言葉がありますよね。

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問題作

2024/01/26
【第1849回】

昨日は神保町のジャズ喫茶「オリンパス」と、明治大学図書館で一冊のノンフィクション小説を読破しました。美味しい赤いチキンカレーとコーヒー、そして4000枚のレコードの中から選曲されたレコードの心地良いノリで150ページを読み終え、残りの170ページは明治大学図書館の静寂な空間で...やはり、言葉の持つ滋味、深淵の魅力は心身を虜にしちゃいます。

それにしても、改めてノンフィクション作家の凄さを感じさせる読み応えでした。何年間もの間、対象となる土地、人物に密着し体当たりで本質に迫るには相当のエネルギーを必要とします。その人の過去、現在を含め洗いざらい聞き出すんですから、それなりの人間関係を構築しないと無理な話。

おいらも芝居を創るうえでいろんなジャンルのノンフィクション小説を読んできました。中でも、九州大分県中津で多くの書を書き続けた松下竜一さんには大いなる共感を覚え、「松下竜一 その仕事全30巻」を買い込み、中津に飛び、上演許可を頂いた思い出があります。そこはノンフィクション作家と同じくらいの情熱、エネルギーを有しないと、良質な芝居なんかは創れません。

それで昨日読了した小説は?こればかりはまだまだ今の段階では秘密でございます。すべてが明らかになった時までのお楽しみ...こうやって又、新たなことにチャレンジしていくことで己を奮い立たせる日々でございます。

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冬のメタセコイア

2024/01/24
【第1848回】

今日はこの冬一番の冷え込み。故郷博多もどうやら雪が舞うらしい。それにしても能登半島の人たちにとっては厳しい日々が続いている。そんな中、新宿の街かどで若い有志が被災者に向けての募金活動を行っていた。こんな風景を目にすると、この国もまだまだ希望が持てますばい。その傍では、路上シンガーからのスターを目指す若者も居る。一度きりの人生なんだから信じたものに賭け、悔い無き人生を送れば良いのだが、この国のつまらんシステムに未だ拘り一流大学、大企業なんてコースを選択しちゃうのがほとんどかな?大好きなことに夢中になり手に職を付けて、もの創りに励む人達の目はいつもキラキラしています。おいらはこんな人種が大好きです。

永井荷風の全集を読んでいます。この作家の定まることのない生き方とマッチした文章が実に面白い。それも学問に裏付けされた書物だから説得力がある。銀座のカフェ、遊郭、ストリップ劇場をこよなく愛し、その視線はいつも弱者に注がれていた。

1952年には「温雅な詩情と高邁な文明批評と透徹した現実観照の三面が備わる多くの優れた創作を出した他江戸文学の研究、外国文学の移植に業績を上げ、わが国近代文学史上に独自の巨歩を印した」との理由で文化勲章を受章する。最後は孤独死、そして彼の遺言として遺骨は吉原の遊女の投込み寺に葬られたいと記していたらしい。

裏金疑惑の安倍派の議員たちの神経にはほとほと呆れてしまう。「安倍さんに申し訳ない...」

あほんだら!謝る相手が違うやろ...こんなセリフをいとも簡単に吐いちゃうこの人たちに政治を任した選挙民も大いに反省せにゃいかんですばい。

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冬の暮

2024/01/22
【第1847回】

黒澤明監督の傑作「生きる」を、ノーベル賞作家カズオ・イシグロの脚本によりイギリスでリメイクしたヒューマンドラマ「生きる LIVINNG」鑑賞。率直な感想、やはり黒澤作品の方が圧倒的な中身の濃さで軍配が上がるかな。やはり主人公が公園を作るためにいかに命懸けで奔走したかを回想する葬式の場面が、この映画の核心のような気がします。この時代に居た役人を含めた人間像が見事な演出、演技によって主人公を際立させる手法が永遠の名作にしています。中村伸郎、藤原鎌足、千秋実などなど名脇役の丁々発止のやり取りが実に人間的だ。とりわけ印象に残るのが左卜全の面白おかしい存在感。「七人の侍」の時もピカ一だったのだが、こんな役者が居なくなったのも日本映画が今一つパッとしない一因かもしれない。

リメイクした英国映画も健闘しているというか、やはり西欧の洒脱な物語である。日本人の持つ泥臭さと対照的にイギリス紳士の佇まいを前面に押し出している。Mr.ウィリアムズを演じるビル・ナイの端正で押し付けがましくない存在感が、日本版と違うテイストを生み出している。そして、なんといっても印象に残るシーンであるブランコに乗って口ずさむ歌。日本版は志村喬の、♪いのち短し 恋せよ乙女 あかき唇 褪せぬ間に 熱き血潮の 冷えぬ間に 明日の月日は ないものを♪「ゴンドラの歌」これが絶品でした。

英国版は、スコットランド民謡の「The Rowan Tree」=「ナナカマドの木」、この歌には、今際を覚悟することで、自身の故郷や親族などに想いを馳せているという意味があるそうだ。歌詞、メロディともに乾いた感がしました。

最後に、主人公が場末の歓楽街で嬉々として遊び解放するシーンがあるのだが、日本版ではあの怪優、伊藤雄之助がアクの強い演技の連続でスクリーンを釘付けにする面白さがあったのだが、英国版はなんともあっさりした俳優さんのお陰で無味無臭のシーンになったのが残念でございました。

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昨日、見かけた早咲き梅

2024/01/19
【第1846回】

能登半島地震の今後の行方が混沌としています...二次避難を呼びかけても避難者の一割の希望者だったとか。故郷への強い拘り、ひどいのは大学生が被災した家に入り込み高級蜜柑を盗んだのを知り、我が家を守らないとの思いで劣悪な環境でありながらも留まるケース。それにしても、こんな状況でもあっても悪い奴は居るんですね。こんな奴らは普通の窃盗罪の3倍、4倍の刑を科してもらいたいもんですね。最高学府で何を学んでいることやら...

大阪万博を中止して、これから掛かる費用をそっくり被災地の復旧に充ててもらいたいもんでございます。人口の島での万博終了後、はっきりとした設計図もないまま当初の予算をはるかにオーバーした予算で強行しようとする国、大阪府のやり方に半分の人が反対してるんですから。過去の例をみても、オリンピック然り、政治屋と企業の闇の談合でこれらの催事が実施され数々の不祥事が後日談として暴露されてます。この低空飛行が続く日本、先ずは被災地に投資するのが筋だと思いますが...

「モンテンルパ」の稽古場に行ってきました。出演者5人と演出家の息もぴったり。実に活気あふれる稽古場風景でした。世の中がなんとも不穏である今こそ、芝居で元気にできればと思っています。あと二週間、体調には十分気を付けて無事初日をむかえてもらいたい!

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詐欺ではありませんよ...

2024/01/17
【第1845回】

昨日、「初春大歌舞伎」を歌舞伎座で観てきました。久しぶりの歌舞伎十分に堪能してきました。「當辰年歌舞伎賑」の賑やかしい踊りと、変化にとんだ長唄、三味線、鼓、笛の響きで幕開け。25分の休憩を挟んで「荒川十太夫」。赤穂義士四十七士のひとり堀部安兵衛が切腹する際に介添え役を務めた荒川十太夫を主役に据え、義を通そうとしたがゆえに苦悩を抱え葛藤する十太夫の役を尾上松緑が見事に演じていました。決して二枚目と言えないのですがハートがビシバシと伝わる歌舞伎役者。松平隠岐守定直役の坂東亀蔵の透き通る台詞と歯切れの良い演技もこれからの成長が楽しみです。

最後は35分の休憩(商業演劇はこの間、食事してもらったり、買い物を勧めたりでの時間でもあります。)後、「狐狸狐狸ばなし」この作品は2004年にトムでも上演しました。ケラリーノサンドロヴィッチ演出で板尾創路、篠井英介、六角精児、ラサール石井の出演での異色の芝居に仕上げた記憶があります。この芝居は通算220編余りの戯曲を書き上げた北條秀司氏の喜劇での最高傑作だと言われてきました。タイトルが示すように登場人物が織りなす狐と狸の化かし合いが目まぐるしく展開されます。その中に人間の欲、哀感がおかしみを取り混ぜながらの抱腹絶倒喜劇。松本幸四郎、尾上右近が安定した演技をする中、幸四郎の息子である市川染五郎が目を見張る芝居をしていました。将来の歌舞伎界を背負って立つ逸材であることは間違いありません。

終演は15時、歌舞伎のゆったりした時間がとても心地よかった。確かに¥18000の入場は高いと思いますが、まあこの規模で、この内容であれば納得できるかな...

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新春の歌舞伎座

2024/01/15
【第1844回】

能登半島地震の連日の報道の中、自民党のパーティ裏金疑惑、検察が一議員の逮捕で幕引きをしようという情報が流れてきました...本当にふざけるなと言いたい!まじめに働いている庶民には徹底的に厳しく税の要求をしておきながら、脱税に匹敵する犯罪行為を犯しながら国会議員というだけでこの甘い処置。この国は本当に腐りきっている...国の権力が一つの機関に集中すると濫用されるおそれがあるため、三つの権力が互いに抑制し、均衡を保つことによって権力の濫用を防ぎ、国民の権利と自由を保障しようとする考え方で立法・行政・司法の三権主義があるのにこの有様。お互いが監視するどころか忖度するばかり...今からでも遅くありません。昨日の台湾での選挙での投票率71%、日本の投票率はいつも50%前後、半数の有権者が棄権している状態に危機感を持ちましょう!と言っても腰をあげようとしない体たらく状態。勿論、原因は政治不信であることははっきりしているわけだが、諦めちゃ悪徳政治屋の思う壺でございます。

そして、辺野古新基地での埋め立て強行。沖縄の人が何度も嫌だと意思表示してるのに何ら応えようとしない政府。おいら前から言ってるのだが、沖縄にある基地、日本の各地が負担するのが平等だと思います。先の大戦であれだけ沖縄に犠牲を強いながら、またしても台湾有事の際の盾にしようとするこの国の狡さに呆れてしまいます。この国がアメリカの属国であるのは理解できますが、いまだ沖縄だけにアメリカ軍基地の押しつけは勘弁してくださいな。昨日も、TV新日本風土記での沖縄のきれいな海と空に囲まれながらゆったりと時を楽しんでいる人たちを見るにつけ、この安穏な日々が永遠に続きますようにと思いました。

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睦月の空

2024/01/12
【第1843回】

この季節、すっかり葉を落とし毅然とした姿で屹立している樹木を眺めているとシベリアの収容所に8年間を過ごし、日本への帰国を果たせず病死した山本幡男さんの詩をいつも思いだします。


アムール遠く濁るところ
黑雲 空をとざして險惡
朔風は枯野をかけめぐり
萬鳥 巣にかへつて肅然

雄々しくも孤獨なるかな 裸木
堅忍の大志 瘦軀にあふれ
梢は勇ましくも 千手を伸ばし
いと遙かなる虚空を撫する


夕映 雲を破つて朱く
黄昏 將に曠野を覆はんとする
風も 寂寥に脅えて 吠ゆるを
雄々しきかな 裸木 沈默に聳え立つ

 

極まるところ 空の茜 緑と化し
日輪はいま連脈の頂きに沒したり
萬象すべて 闇に沈む韃靼の野に
あゝ 裸木ひとり 大空を撫する

 

理不尽な境遇のなか、極寒のシベリアの収容所で故郷、家族に思いを馳せながら書き綴った言葉に山本幡男さんの強靭な意思を感じる。
年頭の能登半島地震、羽田の航空事故然り、この時代、何が起こっても不思議ではない。そんな時には逆境の中で生を信じ、改めて命の尊さを感じながら過ごした人たちのことを忘れずに日々を過ごしたいと思っています。

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裸木

2024/01/09
【第1842回】

連日の能登半島地震の現地の生々しい報告を見るたびに心痛みます。コロナも落ち着き、久しぶりの一家での正月で10人の家族を亡くした男性の「何も悪いことしてないのに...なんでこんな目に合わなきゃならないのか!」涙して語る慟哭言葉が胸に迫ってきます。

13年前に輪島の朝市でふらり覗いた市中屋本店。格子窓の素敵な外観で、代々100年以上続く老舗店です。輪島塗というとなかなか敷居が高いと言われていますが、一歩店内に足を踏み入れるとなんとも懐かしい匂いと家庭的な雰囲気に魅せられついつい話し込んでしまいました。店内に展示されていたお重が気に入り半年掛かりで創っていただきました。塗っては乾かしの繰り返しでとても手間暇がかかる作業だとのことでした。

正月のおせち料理は、このお重に詰め込み新年を迎えるのが我が家の習いでした。

そんな思い出を持つ市中屋さんのご家族、親類と思われる名前が今回の地震での安否不明者のなかにありました。毎年、年賀状が来ているのですが焼失した朝市通りのお店には連絡しようがありません。今はただ無事であって欲しいと願うのみです。

焼けただれた家並みを前にして若き漆器職人が「命は助けてもらったので、残されたものがなんとか伝統を引き継ぐしかありません...」この言葉を信じるしかありません。東日本大地震然り、命ある限り残された人々がマイナスからプラスへと歩を進めてきました。

昨日、黒澤明監督「生きる」久しぶりに観ました。生きることの根源をシンプルに描いた傑作です。志村喬の鬼気迫る演技、他の共演者のキャラクターの活かし方、さすが黒澤明監督。

命ある限り、生きてさえいればなんとかなります...被災地の皆さんが一日も早く日常を取り戻し、必ずや自然の魅力に溢れた能登半島を再生してくれると思っています。

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市中屋さんのお重箱

2024/01/04
【第1841回】

明けましておめでとうございます。

 

いよいよ今年も始まり、今年こそは平穏な年であれという願いを元旦から、能登半島地震で砕かれた思いです。2日には羽田での航空事故。何とも波乱の幕開けとなりました。

ウクライナの侵攻、ガザ地区での戦闘も止むことがありません。

何としても、この不穏な流れを食い止めなきゃ未来はないと...今年も又、ひとりひとりがこの危機感をしっかりと意識して生きていかなければと強く感じています。

トム・プロジェクトも今日から「モンテンルパ」の稽古が始まります。2021年のコロナの恐怖に晒されながら、なんとか千秋楽を迎えることが出来た日のことを鮮明に覚えています。

再演である今回も、平和な日常がいかに大切であるかをこの作品を通じて伝えることが出来ればと思っています。

今年も、トムは芝居を通じて世界のいかなる人も皆平等に平穏な日々が訪れることを信じてやり抜いていきますので、皆さま何卒よろしくお願いいたします。

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謹賀新年