トムプロジェクト

2021/12/27
【第1566回】

トム・プロジェクトは今日が仕事納めです。今年もコロナで戦々恐々の日々でした。その中、なんと7本の芝居を上演できたこと本当に驚いています。制作、キャスト、スタッフがひとつになって、こんな時だからこそ芝居を届けることによって世の中を少しでも前に進めようと言う気持の現れだったと思っています。いつ中止になるか、それは制作会社の危機でもありました。1994年に芝居を創り続けて27年、確かにいくつかの危機はありましたが、このコロナには本当に参りました。昨年から2年間、日常の生活から含めて目に見えないウイルスを相手に心身ともに疲労困憊、そのことが全ての分野に連鎖していく様はまさしく戦時中に等しい日々ではなかったかと...でも、考えてみればこのウイルスも人類が引き起こしたものであり、いまだ争いを繰り返し、環境を破壊し、果てしない欲望に突き進む地球住民に対する抗議でもあると思います。

さて、来年こそは平穏無事な年になるかどうかは今の時点ではなんとも言いようがないのは確かです。でも、生きてるから活かされているからこそ叡智を振り絞って前に進めねばなりません。愚痴ってる暇なんてございません、命ある限り生きとし生けるもの全てに感謝の気持ちをこめて、来年も健全なる心身で素敵な芝居をお届けしたいと思っています。

2022年の仕事はじめは1月4日です。ほんとに今年もありがとうございました。寒さも本格的になりましたので気を付けて年末年始をお過ごしください。

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師走の南新宿

2021/12/23
【第1565回】

やはり小劇場の手作り感はたまりません...昨日、すみだパークシアター倉で温泉ドラゴン第16回公演「続・五稜郭残党伝」を観てきました。芝居が始まる前にシライケイタ座長が昨年の劇団創立10周年記念公演がコロナ禍の中、中止になり、劇団の存亡の危機に見舞われた件を話されていました。トムも含め創造団体の誰もが感じたことだと思います。でも、観客を含め応援してくれる人達が居たからこそなんとか上演できたことへの感謝の言葉を述べられていました。温泉ドラゴンは座長を含め男4人の集団です。今回の芝居も女優1人以外、18人の男優が繰り広げる群像劇です。シライさんの軽快且つ重厚な演出で2時間5分あっという間に駆け抜ける展開でございました。今回の芝居も、理想の国家を求める男達の果てしないロマンと、現実を受け止めながら少しでも前に進もうという男の葛藤を丁寧に描いていました。ラストはともに理想の共和国を夢見た同志が闘うシーン、二人の俳優の息遣いがビシビシ伝わり見事なものでございました。繊細に舞い散る雪の中、二人の男の心情が錯綜し、殺陣だけで役者の思いを伝えてくれる貴重なシーンでありました。これも小劇場だからこそ味わえる贅沢感ではないかと...おいらの世代であれば、高倉健、鶴田浩二なんかが出演した「昭和残侠伝」「日本侠客伝」のラスト近くの殺陣シーンを彷彿させる美しさでございました。

なにわともあれ、いつの世も理想と現実の落差は埋められず、散っていった人たちの熱き思いは報われることなく忘却の彼方へ...でも、そんな人たちが居たからこそ今があるってことを演劇、映画、小説などで改めて知らされることに感謝。

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手作りのクリスマス

2021/12/20
【第1564回】

シアターコクーンにて唐十郎作、金守珍演出「泥人魚」観てきました。おいらは初演を18年前に唐組のテントで観ているのでどのように変わっているのか楽しみでした。なんと言っても宮沢りえさんの出演は大きな力になっています。大変失礼なんですが...決して芝居が上手だとは思わないのですが、あの美しさ、そしてオーラは半端じゃございません。そうなんだよね、上手くて鼻につく役者よりも思わず見とれて釘付けにしてしまう役者が千両役者、銭が取れる役者ってことですね。舞台上で生身の一挙手一投足を間近で観たい!これが観客の正直な気持ちです。風間杜夫さんは初演時に唐十郎さんが演じた役をやっています。72歳と思えぬ躍動感で舞台をきりりと締めていました。それにしても立て続けに舞台に立ち続ける杜夫ちゃんのエネルギーには圧倒されます。今回の芝居は水槽に潜るシーンもあり荒行にも挑戦しているんだなと改めて感心した次第でございます。この難解な芝居をエンターテイメントな舞台に仕上げた演出家・金守珍さんも蜷川幸雄さん亡き後の舞台は俺に任せろ!なんて意気込みを感じました。

それにしても師走というのに悲しいニュースが報道されています。大阪の火災、未来ある女優の事故、アメリカの竜巻、この時代本当になにが起こるか、なにがあるか、まったくもって予測不可能な時代です。ウイルス然り、そして不安定な社会で人の心は病んで当たり前、でもなんとか生きねばなりません...その困難な状況の中、演劇も生きるためへの手助けになれればと思っています。

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今年最後の満月(12月19日)
コールドムーン

2021/12/17
【第1563回】

いくつになっても絵本は人生の伴侶だ...最近も堀川理万子さんの「海のアトリエ」を読んでほっこりいたしました。女の子が、海辺のアトリエに住む絵描きさんと過ごした一週間を絵本にしてあります。絵のタッチと言い、短い文章の中にとてつもない豊かな時空間が流れています。こんな時間を過ごした子供はきっと素敵な大人になっているだろうな...塾なんか行ってる現代の子供たちがかわいそうに思えちゃいます。ただ海を眺め、潮風に吹かれ、移りゆく時間に身をさらすだけでいいんです。なにもしなくてただいるだけでいいんだよと教えてくれる。

世界に名立たる絵本も数あれど、リアルタイムに描き続けている日本の絵本作家もなかなかのもんですよ。「みなまたの木」を画いた三枝三七子さんの最新作「さいごの朝ごはん」もいいですよ。日本社会の負の部分を優しい絵筆で描いています。難しい表現ではないので学校の教科書として是非採用して欲しいなと思っちゃいます。そろそろ日本の学びも一から出直さんとえらいことになっちゃいます。

「仁義なき戦い 菅原文太伝」松田美智子著も一気に読み終えました。よくまあこれだけ調べて書いたもんだと、そのエネルギーに感心しちゃいました。おいらも文太さんの映画ほとんど見てるんだけど、その裏話としては実に面白いというより、映画の世界、それもよりによってヤクザ映画とくりゃごちゃごちゃになりますがな。孤独と虚無を、躰全体で物語ることが出来る稀有なる俳優といえば文太さん。スクリーンを飛び出し、亡き中村哲さんを応援する文太さんも格好良かったな...

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焼き芋の季節

2021/12/15
【第1562回】

昨日は真冬並みの寒さでしたが今日は一転の好天気、やはりぽかぽか太陽はいつの世も偉大です。今年最後の稽古が始まりました。2019年に上演した「芸人と兵隊」の再演です。太平洋戦争当時、戦禍にある兵士に笑いを届ける一座の物語です。初演時と大きく変わっているのが今のコロナ感染状況のなかでの公演。世界に蔓延したコロナウイルスは、ある意味では戦争に等しい環境かもしれません。その逼迫した閉塞状況の中、よりクオリティーの高い芝居を届けることの意味は、今年公演した7本の芝居の公演地でのお客様の喜びは大変意義深いものがあると思います。「こんな大変な時によく来てくれましたね...」「家に閉じこもり発散できないもやもやが吹き飛びました...」観る側と演ずる側が同じ思いでコロナを忘れ感情を巡らすなんて、とっても素敵なことじゃありませんか。この当たり前のことも、こんな厳しい状況があって改めて感じ入った次第でございます。

それにしても今年7本も公演できたことが奇跡です。ここ最近少しは酒を飲めるようになりましたが芝居屋さんからお酒奪っちゃったら意気消沈すること間違いありません。お酒はカンフル剤であり、座組の融和剤であり、酒の場で思わぬ発想が持ち上がり停滞した流れが一気に解消しいい芝居に仕上がったなんて話はよくあることでございます。といいながら、ちょいと軽く呑みに行ってコロナに感染しちゃったらと考えると慎重にならざるを得ません。オミクロンなんてものも出現し、まだまだ安心できる段階ではないのだが、なんとか2022年1月19日~3月1日までの公演、無事に乗り切りたいものでございます。

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まだまだ魅せてます

2021/12/13
【第1561回】

週末の井の頭公園、吉祥寺に活気が戻ってきました。新しいウイルスが出現したのだが感染者数も少ないとあって老若男女問わず多くの人が解放感に浸っていました。井の頭公園には出店も再開しいつものような風景が戻ってきました。この日の目玉は、この寒さをもろともせず身を挺してのパフォーマンスをしていたアーチスト。円盤投げ、金のしゃちほこ、風神雷神の図、考える人、ヴィーナスの誕生などなどのポーズを次々に演ずる姿に思わずカンパしちゃいました。お礼に腰巻きちょいと開けオリーブの葉っぱを御開帳してくれました。多分、舞踏家ではなかろか?金のしゃちほこなんぞは両手で身体を支えてのエビぞり状態、これは相当厳しい態勢、苦しい顔せず淡々とした佇まいにアーチストの心意気を感じた次第。

吉祥寺の街の人気がわかる気がします。お洒落な部分とレトロな街並みが程よく調和して、普段着の気分で街ぶらりができるってことかな。しかし、中には人気に便乗して質を落とす老舗の店にはがっかりしちゃいます。JAZZ好きなおいらがこよなく愛する名店である「ファンキー」は1960年に野口伊織さんがオープンして数々の伝説を打ち立ててきたのにオーナーが亡くなって20年、さぞかし嘆いているのではと思うくらいのショボい商い。見るからにわかるくらいの料理の量、値段は同じで半分の量はそりゃないぜといいたいくらいでございました。心意気ってもんは大切なんです。ワインにいかした音楽、そして美味なる料理があっての三位一体。このバランス取れた店がどれだけあるかが街の価値を高めてくれるんでございます。お客さんをいい気分にさせてこその名店、勿論芝居も然り。

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活気が戻ってきた井の頭公園

2021/12/09
【第1560回】

やっぱり太陽の日差しに勝るものはない。昨日が冷たい雨降る一日だっただけにその感慨もひとしおである。昨日の雨で紅葉の葉も随分と落ちたのだが、過ぎゆく年の瀬を惜しむかのようにキラキラと日を浴びた残り葉がなんとも愛おしい。こうやって日々変化する樹々を眺めていると、樹々に羽休めしている鳥も含めて、なんだかこちらが見つめられてる感覚に陥る時がある。樹々は何も喋らないし、鳥も見て見ぬ振りかもしれないけど、何かに見られている感覚は、こちらが見るという能動的な感覚より敏感に感じてしまう。その場にいる時間が長ければ長いほど、時には人との関係性を超えるくらいの想像力をも喚起させてくれる贅沢な時間かもしれない。見ることは見えないものとの限りない対話であり探りあいではなかろうか...お金がかかるわけでもなし、眼をそして全身全霊を目の前に晒しさえすれば新しいものが立ち上がってくるという訳さ...

最近、テレビで「ポツンと一軒家」なるものを観ています。大自然に囲まれ自給自足に近い生活をしている人たちの表情が実によい。そりゃそうだ、田畑を耕し、樹木を愛で薪をくべ五右衛門風呂で汗を流すなんて、日々にストレスが溜まるわけがない。面倒くさい人間関係で命をすり減らしている都会の人たちにとってはなんとも羨ましい光景ではなかろうか...

でも、いざやるとなるとそうは簡単なものでもない。大自然の脅威、限られた食材、人恋しくなる孤独との闘いなどなど...要は、この番組も貴方は今本当に幸せなんですか?と視聴者に投げかけてるんでしょうね。

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まだまだ楽しんで下さいな

2021/12/07
【第1559回】

明日は太平洋戦争に突入した真珠湾攻撃から80年目にあたります。おいらも丁度、牧久作「特務機関長許斐氏利―風淅瀝として流水寒し」を読了。大東亜戦争の陰に隠れて今まで表に現れなかった歴史の謎を丹念に解きほぐした著者の力作。この時代の話は若い人は皆知らないに違いない、というより誰も教えてこなかった闇の話。満州国に向けての野望、裏取引、片やこの戦争に勝ち目がないと反対する理性的な軍人、政治家などなど登場人物が個性豊かで面白い。昔読んだ檀一雄の「夕日と拳銃」の主人公のモデルである実在の日本人馬賊、伊達 順之助の件は懐かしかった。この時代の島国日本は己の器以上の妄想に駆られとんでもない間違いを起してしまったと思う。夢とロマンと冒険も一歩間違えてしまえば取り返しがつかないことどころか、多くの悲劇が生まれるということだ。真珠湾攻撃で亡くなった若き兵士も軍神として崇められ戦争推進派の広告塔として利用される始末。

今の世界情勢も決して油断できるものではない。コロナも恐ろしいけど、より怖いのは世界全体がポピュリズムの拡大により世界の民主主義国・地域が87カ国であるのに対し、非民主主義国は92カ国となり、18年ぶりに非民主主義国が多数派になったという事実。独裁者が権力を握り反対するものを抹殺していく構図が世界の主流になる時代が来ないとも限らない。おいらなんかはあと少しの人生なのだが未来永劫自由で平和な世界を希求する者として、悪魔が支配する世の中は御免こうむりたいと切に思う。そのためにも過去の歴史に学びしっかりとした思考に基づいた行動を起こすべきだと思う。その手掛かりとして様々なジャンルの本を読むことを是非お勧めしたいのでございます。

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まだまだ燃えてます

2021/12/02
【第1558回】

昨日、劇団桟敷童子「飛ぶ太陽」すみだパークシアター倉で観劇してきました。先月の半ばまで上演していたトムの「にんげん日記」が終わったと思ったら自分の劇団の公演。東憲司さん獅子奮迅の活躍ぶりはいいのだが身体を心配しちゃいます。とても50歳を超えたとは思えない永遠の東少年、この少年が思い描いた世界が1999年から22年間創作されてきました。おいらも同じ福岡県人として共感するもの多々ありトムの公演も9本、作・演出を依頼しました。この劇団の公演を観るたびに演劇の原点を忘れるな!と舞台上から熱いメッセージが伝わってきます。今回も終戦から三カ月、福岡で起きた爆発事故を題材にした人間ドラマ、劇団員全員で創り上げた装置、衣装と共に歴史の闇の葬られた民衆の声が役者の身体を通してびんびん伝わってきます。

その熱も冷めやらぬうちにと、ついにスカイツリーに行ってきました。稽古場も錦糸町にあるのでスカイツリーはいつも目の前に存在しているのだが一度も行ったことがありませんでした。これじゃツリーちゃんにも申し訳ないと思い訪ねてまいりました。いやいや、一大観光スポットでございます。2012年2月に完成した634m世界一のタワーに相応しい建物でございました。この日は雨上がりで視界もよく富士山近くに落ちる太陽の一部始終を堪能させていただきました。つい先ほどまで観ていた芝居も太陽、なんだか二度太陽を拝見した一日となりました。

中村吉右衛門さんが亡くなりました。吉右衛門さんとは人気番組「鬼平犯科帳」1993年2月24日放送. 第4シリーズ第10話「密偵」(いぬ)で共演しました。監督をしていた貞永方久さんに呼ばれ京都太秦で貴重な時間を過ごしました。ラストは吉右衛門さんとおいら(縄抜けの源七)とでの一騎打ち、吉右衛門さんに見事に切られ撮影終了。終了後、吉右衛門さんから「お疲れ様」と声を掛けられ手を差し伸べてくれました。どんな人にも普通に接する姿が印象に残っています。

合掌

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スカイツリー初見参