トムプロジェクト

2023/09/28
【第1805回】

昨日、「沼の中の淑女たち」の初日を無事に迎えることが出来ました。今回の芝居の稽古中、出演者の岡本麗さんの体調不良により急遽降板せざるを得なくなりました。残すところ本番まで2週間と迫ったときにとっさの判断で感ピューターを起動させるのもプロデューサーの仕事です。演出家、プロダクションと連絡を取り合い、一日で代役、阿知波悟美さんに出演していただくことになりました。今回のことも、相手のスケジュール次第では代役決定に至るまでにそれなりの時間を要するのにドンピシャで決まったことは、この芝居是非やってちょうだいな!という芝居の神さんの采配だと思ってます。勿論、来ていただくお客様の熱い思いも後押ししてくれたんだと思っています。

昨日の初日、お見事でした。芝居の初っ端からラストまで観客席は笑いの渦、終演後においらを見つけて「ここ最近いろんな芝居を観てるんですが、こんなに笑えたのは久しぶりです...」なんて大満足な表情で劇場を後にして行きました。

日本ではなかなか成功しないシチュエーションコメディ、ドタバタではなくエスプリの効いた喜劇の書き手がなかなか生まれない土壌なんででしょうね。少しは遊び心を持った生活環境に変えねば難しい課題でもあると思います。

それにしても、この難局を乗り越え見事な初日を迎えたキャスト、スタッフの皆さんには本当に頭が下がる思いです。

地方公演を含め11月2日までの長丁場、この世の中ホンマに何が起こるかわかりません...油断禁物、もう一度気持ちを引き締め今日も劇場を笑いの沼にハマらせまっせ!

1805.jpg

初日

2023/09/25
【第1804回】

先週の週末、新橋演舞場で「ふるあめりかに袖はぬらさじ」を観てきました。有吉佐和子による戯曲は当時話題になり、1972年に文学座が戌井市郎の演出、杉村春子の主演で初演した舞台を観た記憶があります。筋書きとしては尊王攘夷派と開国派がしのぎを削る幕末を舞台に、神奈川・横浜の遊郭を舞台にした物語が展開します。

大竹しのぶさん、ここのところ杉村春子さんが演じた名作に挑戦してますね。杉村春子と言えば新劇を代表する大女優。決して美人とは言えないけれど演技力、人間としての存在は他を圧倒するものがありました。昔の新劇俳優には社会の中で、役者である前に一人の人間としての矜持を大切にしながら舞台に臨んでいたような気がします。考えてみれば、自分の意見を言えない人間が舞台にあがり人前で演じるなんてもってのほかですね。その点、西欧、アメリカの俳優は政治的な立場も鮮明にして俳優業を続けています。まだまだ日本ではそこまで浸透してないのが何だかもどかしい気がします。今回の芸能界を仕切ってる会社の問題も然り、日本の芸能界の歪さを象徴しています。

今回の芝居、勿論、風間杜夫さんが出演していたので観に行ったんですよ。大竹さんが主演の時は必ず共演しています。大竹さんが杜夫ちゃんと一緒に舞台に立つことによって安心できてる雰囲気がプンプン匂ってくる舞台でございました。

ここ数日、一気に秋めいてきました。空を見上げると一目でわかる雲の表情、あの猛暑の日々を過ごした日々を考えると、なんだか嬉しくなっちゃいました。

1804.jpg

秋の空

2023/09/22
【第1803回】

福井県越前市いまだて芸術館に行ってきました。10月9日に公演する「沼の中の淑女たち」に関連したプレセミナー・ワークショップをやってきたのでございます。先ずはおいらが「今、なぜ演劇が必要なのか」というテーマで1時間15分ほど喋ってきました。この会館では、過去トム・プロジェクトの作品を7本上演してきたので話の通りがスムーズに展開しました。演劇は映像と違って、舞台上のすべての演者の芝居が均等に観ることが出来るので、観客それぞれが自分の感性、好みでフォーカスできることの話の件ではとても興味深く聞いておられました。来場者の一人の女性が「演劇を見た後のいつまでも消えない幸せ感、温かい感覚が何とも言えません。」と芝居に対する率直な意見を嬉々として話しておられたのが印象的でした。

次に、俳優中嶋ベンさんと来場者による寸劇。地元でアマチュア演劇をやっている方の芝居はなかなかのものでした。

実はこの日、おいらがスペインを旅しているときにバレンシアで知り合った増田頼保、智雪夫妻と40年ぶりの再会を果たしました。ご夫妻二人、今立でアーチストとして活躍されていました。今立現代美術紙展の実行委員長をやったり、アートに彩られた風力発電機を創ったり、地元独自の文化を発信し続けていました。40年前バレンシアの彼らの家に泊まらせていただいたときは、おいら見果てぬ夢話を延々と話していたそうだ...その後、これまでにどこまで実現できたことやら?

人口の少ない日本の地方都市で、演劇を愛する人達との交流は、制作する我々にとって励みになると同時に、芝居創りの初心に立ち返る貴重な時間でもありました。

1803.jpg

眼鏡の町

2023/09/19
【第1802回】

猛暑のなかでの3連休も終わり9月も後半戦に入りました...なのに今日も相変わらずのアッチッチ、週間天気予報によれば、「暑さ寒さも彼岸まで」という慣用句にあるように、辛いこともいずれ時期が来れば去っていくってことなんでもう少しの我慢でございます。

それにしても、この暑さの中でもたくさん人達が行楽地に足を運んだみたいですね。花火大会、避暑地、近場の遊園地、キャンプ場どこも賑わっておりました、それにしても道路の渋滞はなんとかならないものかと思います。おいらなんかは、あの渋滞見てるだけで逆にストレスを感じるので駄目ですね。やはり日本人は辛抱強い国民性に支えられているんですね。

9月27日に初日を迎える「沼の中の淑女たち」、出演者の一人である岡本麗さんが体調不良のため降板しました。彼女とは半世紀以上の付き合いなのだが、断腸の思いではなかったのでは...福岡飯塚で育った土地柄で、気っぷが良く裏表がない誰からも愛される可愛く色気のある女優さんです。トムの作品にも何度も出演してもらい、魅力を存分に発揮してもらいました。今はただ一日も早い回復を祈ってます。

その代役として、阿知波悟美さんに急遽出演していただくことになりました。帝劇での「レ・ミゼラブル」に長く出演し、2010年にミュージカル「キャンディード」で読売演劇賞優秀女優賞を受賞したバリバリの実力派の女優さんです。運よくタイミングが合ってのことで、ここも演劇の神様が手を差し伸べてくれたんだと感謝の気持ちで一杯です。

とにかく芝居の世界は何があるかわからない世界です...楽しみにしているお客様のためにも役者、スタッフ、稽古場で今日も汗を流しています。

1802.jpg

猛暑の9月と千日紅

2023/09/15
【第1801回】

昨日、トラッシュマスターズ第38回公演「チョークで描く夢」を観劇。

舞台は黒板に書くチョークを製造する小さな工場。1960年から知的障害者を雇用し始め現在でも川崎、美唄工場で多くの知的障害者が仕事に従事している稀有な会社。前半は戦後間もない昭和、後半は令和のリアルタイムなドラマが展開する。現代社会の矛盾を鋭く突きつけてきた作・演出家、中津留戯曲の真骨頂を観させていただいた一日であった。

2011年3月に起きた東日本大震災の年に、震災をテーマにした「背水の孤島」を上演し演劇界を震撼させた男が、更なる良質な芝居を創り上げた。今年2月に公演した「入管収容所」もタイムリーな作品だっただけに、今年の演劇界は中津留章仁の年と言ってもいいくらいの快進撃だ。

演劇は様々なジャンルで、多種多様な表現、演出で多くの作品を生み出している。世界的にも予測不能な昨今、日常を忘れさせてくれる楽しい演劇を上演している劇場に足を運ぶ人達が多数を占めるのは勿論理解できる。演劇も娯楽のひとつではあるのだが、演劇がより良き社会にするための役割を担っているのも紛れもない事実である。100人ほどの小劇場で採算を度外視してでも心身を駆使して諸悪の根源に向き合おうとする姿にはほとほと感心してしまう。なかには自己満足な舞台も少なくないのも確かなのだが...

いいい芝居を観た後の酒ほど心地よいものはございません。昨日もウキウキほろ酔い加減で無事帰宅することができました。

1801.jpg

よか芝居ですたい!

2023/09/13
【第1800回】

又々暑さがぶり返してはいますが、朝晩にはなんとなく秋の気配が感じられます。

それにしてもモロッコの地震、リビアの洪水、まさしく地球の崩壊を予感させる災害が世界各地で起きています。その最中、ロシアと北朝鮮の独裁者がなにやら不穏な会談をしております。災害に戦争、まともなニンゲンなら冷静に立ち止まって地球が存続する戦略を思考するところなんですが、いつの世も独裁者には通じないことが悲しいですね。

一方、日本ではジャニーズ問題。外国から報道されやっと動き出すこの国の闇を感じますね。そして忖度するだけしておいて、ちゃっかり金儲けに走ったマスメディアも罪深い。ようやく企業も腰を上げCM出演を考え直すとのこと。演劇の世界でもジャニーズ所属のタレント、俳優を出演させれば客席が埋まるということが分かっているので起用することが常識。おいらも幾度となくそれらの公演に出かけた経験があるのだが、演劇を鑑賞するということよりもお目当ての出演者を観たいという欲望が優先しての観劇。しかも公演中に何度も劇場に足を運ぶリピーター客がほとんどでございます。確かに、演劇を観る機会が増え芝居人口の底上げにつながる可能性もあることは否めませんが、何か違うような気もします。

長い目で見ても、結局は質の高い作品を創り上演することをしないと演劇の未来はないと思っています。

質の悪い文化を生み出す国からは、質の悪い政治家、役人、企業しか生み出せないのは自明の理でございます。

1800.jpg

新宿西口甲州街道

2023/09/11
【第1799回】

昨日、神楽坂にあるライブハウスTHEGLEEで山崎薫コンサート「海へ。」に行って来ました。女優でもある薫さんの歌声は素敵でした。童謡でもある「われは海の子」をこれほど力強く拡がりを感じさてくれたことは新鮮でした。童謡と言えば、何となく可愛らしく叙情的に歌いがちなのだが、薫さんの歌は従来の海の概念を覆すほどのスケールでした。こんな表現が出来るのも役者として培ったものが役に立っているのでは...第二部で歌った「時には母のない子のように」、おいらも浅川マキほか数々の歌手で聴いてきたのだが、今回は山崎薫風の歌になっていました。今回のピアニスト田口真理子さんのチカラも大きいと思います。歌い手の良さを上手く活かしながらのタッチがとても心地よかった。時にはジャズ風に、時にはブルースの味付け、そして基本のクラシックと千変万化の演奏は実に聴き応えがありました。どんなジャンルにしても、表現者として自分の色を持てれば観客には確実になにものかを伝えることが出来ると思います。でも、その色を獲得することが実は非常に難しいんです。

バスケットに続き、U―18ベースボールワールドカップでの優勝、そして昨日のワールドラグビーカップの勝利、スポーツ界の躍進が続いています。演劇界も負けておられんですばい!何といっても芸術の秋ですからね。

1799.jpg

秋祭り

2023/09/08
【第1798回】

社長業を退任して少しは時間の余裕が出てきたので、念願の勉強に時間を費やしています。ふらっと街中に出て、その日の自然を含めて街の空気を感じながらお気に入りのジャズ喫茶に向かいます。最近では神保町にある「オリンパス」、中野の「ロンパーチッチ」、西荻窪の「ユハ」、ジャズと美味しいコーヒを飲みながら、まだ芝居のプロデューサーは続行中なのであれやこれやと次の芝居の企画に思いを巡らせています。そしてどの店もレコードに針を落としているので、まだ見ぬレコードのジャケットに目を凝らしスマホで検索し各プレーヤーの名前を確認するのも楽しみの一つです。舞台でも映画でも然り、主役がすべてではありません。名バイプレーヤーが居てこその作品です。昨日も「オリンパス」で「レッドガーランド ピアノ」が流れていたのですが、ベースのポールチェンバース、ドラムのアートテイラーが絶品でした。喫茶店のあとは明治大学の図書館へ直行。卒業生であれば駿河台、中野、和泉、生田の図書館がすべて利用できるんですから便利です。若い現役の学生さんたちに混じりながらの読書はホンマにはかどります。今日は武井照子さんの「あの日を刻むマイク」を読了。戦中戦後アナウンサーとして仕事にかかわってきた中で、やはり人の出会いがあってこそやれた仕事。その中でそれなりの業績を残した人に共通することは、精神の明晰さに尽きるとのこと。精神の明晰さ!素敵な表現ですね。

又々、台風の襲来。世の中少子化が進んでいるってのに、台風一家は子だくさんみたいですな。

1798.jpg

神保町の黄昏

2023/09/06
【第1797回】

砂原浩太郎「『高瀬庄左衛門御留書』読了。時代小説はいいですね...山本周五郎、藤沢周平などの作品を貪るように読んだ青春時代に比べると、ここ最近の作品で気に入っていた葉室麟さんも5年前に66歳で亡くなり寂しい気がしていました。2011年に出版した『蜩ノ記』なんかは絶品でした。武士の矜持という言葉が現代人にビシビシと伝わってきました。前藩主の側室の密通の罪を問われ十年後の切腹を言い渡された男。しかし、彼の生き様はあくまで強く美しく清廉であり、武士の生き様と家族と恋愛も含め涙がちょちょぎれた記憶があります。

おいらにとっても葉室麟さんに次ぐ時代小説の作家が出現した思いで砂原さんの小説を読み終えました。五十を前にして妻と息子を失い、息子の嫁・志穂とともに手慰みに絵を描きながら寂寥と悔恨の中に生きていた高瀬庄左衛門。そんな彼に藩の政争の嵐が静かに襲いかかろうとしている...いや、優れた時代小説に共通することは、文体の格調と美しさ。そして家屋、生活用具、登場人物の佇まい、景色、そのすべてが丁寧に緻密に記されていること。そんな文章を読んでいるうちの己の身体に一陣の清らかな風が通り過ぎる感じがし、背筋がしゃきっとしてくる感覚がたまりません。

価値観の多様化は時代の流れとして仕方ないにしても、あまりにもすべてが乱れまくっている現世、人が人として生きる上で大切な、己を抑制しながらつつましく生きることを教えてくれる時代小説は現代社会に欠かせないものだと思います。

1797.jpg

今日の空

2023/09/04
【第1796回】

昨日から「沼の中の淑女たち」の稽古が始まりました。女優5人による丁々発止の芝居です。

ベテランの岡本麗、円熟の柴田理恵、映像でおなじみの羽田美智子、リズム感溢れる長尾純子、トム・プロジェクのホープ森川由樹。この出演者を並べただけでもワクワクいたします。個性あふれる女優たちによるバトルがいよいよ始まったという稽古初日でございました。

プロデューサー稼業の面白いところは、キャスティングが上手くはまった時ですね。持ち味が似た者同士じゃ面白みに欠けるし、かといってあまりにも芝居の質がかけ離れていてもバランスが悪いし、そこのところの味付けがなかなか微妙なんでござんすよ。

今回は、おいらの勘といたしましては、かなり成功率が高いと思います。あとは作・演出家の腕の見せ所と言ったところかな?

お客様も、今回の芝居は期待してるんでしょうね。東京公演は完売の日もありますし、ほかの日も近々完売しそうです。観劇予定の方はお急ぎくださいませ。今回は地方公演もあり、芝居を楽しみにしている方々にも楽しんでいただける作品になると思っています。

先週の週末から日本バスケットの話題で持ち切り。野球、バスケット、そして今月にはワールドラクビー。何となくパッとしない世の中ですから、スポーツ界から勇気と希望をもらってる感じがしますね。本来ならば、この国を司る方々からの発信力と行動力で国民を鼓舞させなきゃならんのに...望み薄ですから、アスリートの溌溂としたプレーを観ながら前に進むしかありませんな。勿論、こちらもいい芝居創ってお役に立ちたいと思ってます。

1796.jpg

稽古場がある錦糸町

2023/09/01
【第1795回】

今日から長月というのにこの暑さ。そして今日は100年前に関東大震災が起きた日でもあります。「天災は忘れた頃にやって来る」東日本大震災然り、いや、この時代忘れた頃ではなく明日にでも来たっておかしくない世の中になってしまいました。防災のための備蓄を怠ることなく、常日頃の心がけに今一つチェックいたしましょう。

昨日は杉並区の敬老会に顔を出してきました。敬老会?おいらにとっては縁のない催しだとは思っていましたが、いよいよ向こうから勝手に押し寄せてきました。どんなもんだかと杉並公会堂に行ってみました。75歳以上のおっちゃんおばちゃんがぞろぞろと会場に向かっていました。なかには自分は老人の仲間入りはしたくない!なんて意地を張り出席しない人達も居るんでしょう...確かに生きていく上で大切なことは若さを失わないことだと思います。年老いた人達の過去の自慢話を聞くよりも、フレッシュな集まりのなか未来に向けた発信をしている場に居たほうがどれほど有益なことか、自明の理でございます。

ところで敬老会どうだった?いや、区の関係の人達の挨拶はさておいて、日本フィルハーモニー交響楽団・弦楽アンサンブルの演奏が素晴らしかった。ヴィヴァルディ「四季」より秋、ボロディン「ノクターン」などなど、映画音楽・「虹の彼方に」「慕情」も懐かしかったな。

お年寄りの青春時代を想い出させてくれるような選曲でした。そして極めつけは「津軽海峡・冬景色」弦の音色を巧みに使い分け、まるで津軽海峡が目の前に現れてきました。

以前にも杉並公会堂でジャズを聴きに行ったことがあるのですが、このホールの音響システムは抜群、身体に心地よく染み込んでいきます。

トリはソプラノ歌手・七澤結さんによる歌のステージ。歌曲「わが夢の街」「旅愁」日本の代表的な童謡「ふるさと」。何故か「ふるさと」を聴いてる途中に涙が出てきました...おいらは確実に年とってるんだなと実感した次第です...いや、この涙はもっと違う意味での涙ではないか...なんとも不思議な気持にさせられた一日でございました。

1795.jpg

スーパームーン