2024/12/13
【第1975回】
いよいよ冬将軍到来の季節がやってまいりました。
春日太一著「鬼の華~戦後最大の脚本家・橋本忍の栄光と挫折」読了。黒澤明監督作品の常連であった脚本家。その黒澤明が「お前は原稿用紙のマス目を使ってサイコロ振っている映画の賭博者だ」と語ったそうだ。1918年に生を受け、兵役に就いた20歳の頃、結核と診断され余命2年と診断される。その後、伊丹万作に師事してシナリオを書き始める。デビュー作が、海外で賞を受賞しそれまで国際的にほとんど知られていなかった日本映画の存在を、世界に知らしめることになった「羅生門」。その後、「砂の器」「八甲田山」などなど数多くの話題作を執筆。彼が何に拘り何を描きたかったか...人間が時間をかけて積み重ねてきたものを、自分たちではどうにもならない圧倒的な力が無慈悲に打ち崩していく...そんな鬼の所業に理不尽に踏みつけられる人間の物語を書きたかったのかもしれない。
今回の著者、春日太一。以前「天才 勝新太郎」を拝読し、彼の日本映画に対するとてつもない愛情を強く感じていました。今回の作品も12年の歳月をかけ、波乱に満ちた生涯を膨大な取材、調査により橋本忍の才能と俗なるものを巧みに交錯させ、映画史上に燦然と輝く巨人を描き切った作者の思いが480ページに叩き込まれている。
すべてが消費、消耗と化した現世では、こんな脚本家が現れるのは難しいのかもしれませんね...もう一度、日本映画全盛時代の作品を検証することから始めねばと思います。
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