トムプロジェクト

2023/02/27
【第1722回】

先週の金曜日、読売演劇大賞の授賞式が帝国ホテルでありました。トム・プロジェクト関係では「風を打つ」に出演して頂いた音無美紀子さんが優秀女優賞。トムの作品にもお馴染みの劇団チョコレートケーキが最優秀作品賞、そして見事、読売演劇大賞を受賞しました。音無さんは「風を打つ」の初演時にも文化庁芸術祭賞優秀賞を受賞しており、再演して再度評価された今回の快挙です。

一方、劇団チョコレートケーキ大賞受賞作「生き残った子孫たちへ 戦争六篇」は演劇史上でも画期的な公演でした。昨年2022年8月、東京芸術劇場シアターイースト/シアターウエストにて上演。再演五編、新作一編、いずれも日本が関わった戦争の物語です。短期間での稽古スケジュール、そして所属している3人の男優の掛け持ち出演は大変だったと思います。ロシアのウクライナ侵攻、コロナの脅威という状況の中で戦争の本質を突きながら、平和を願った作品はどれも観客の心を揺り動かしたに違いありません。

「風を打つ」は水俣を題材にした作品。今年も5月~6月にかけて再々演を展開します。環境、戦争、家族、人間がこの地球上で生きていくために未来永劫忘れてはいけないテーマだと思っています。この大切なテーマを盛り込みながら生身で創り上げていく演劇は、このハイテクな時代では最も効率は悪いのですが、だからこそ観客に伝わるものはより密度が濃いものになり思考、行動を変えてしまうチカラに転換出来うるものと信じています。

今回の受賞も、この世界の難局を乗り越えるための過程、今日から又新しい作品に向けての戦いは始まっています!

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おめでとう!

2023/02/24
【第1721回】

新国立劇場中劇場で音楽劇「逃げろ!」の東京公演初日を観劇。いやはや若い女性で満杯、キャンセル待ちのお客様も並んでおりました。ジャニーズ事務所の男優さんと、2.5次元での人気者男優のそろい組ということでの盛況らしい。おいらは村井國夫さんの出演ということで観に来たのですが、まあこんな機会でなければこの手の芝居はなかなか足を運びませんな...内容はモーツァルト傑作台本3本を書いたイタリア詩人・作家とモーツァルトのやり取りを描いた2時間の芝居。歌と踊りを交えて若い俳優さんが所狭しと舞台上で熱演してました。その中で、やはり存在感を示したのが村井國夫さん。お孫さんのような演者に対して、負けずとも劣らないどころか演技たるものの見本を魅せてくれました。そして、トムの芝居にも出演したことのある篠井英介さんも、彼でしかできない魅惑的な表現で舞台を締めていました。主役がどんなに頑張っても、やはり脇に控える役者が居てこその芝居ということを実感した次第です。この芝居を2時間牽引した3人のミュージシャンの音楽力も見事でした。3人だけで、まるでオーケストラに匹敵する質量を発する音を展開してくれました。

今回の芝居というより、お目当ての俳優さんを観るために駆けつけた多くの観客が、これをきっかけに芝居が好きになり他の芝居も観に来てくれれば、こんな嬉しいことはありませんことよ。

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渋い!

2023/02/22
【第1720回】

昨日は、東京芸術劇場シアターイーストで劇団温泉ドラゴン「悼、灯、斉藤」(とう、とう、さいとう)を観劇。この作品は、作者である原田ゆうさんの家で起こった実話を元にした作品です。2020年6月に介護士だった実母が突然亡くなり、残された三兄弟が集まり、これまでの人生を振り返りながら、語り合い衝突しながら関係を修復していく物語。勿論、その輪の中にお父さんの存在があり、親子の微妙なやりとりも描かれていました。

今回の作品の演出・主宰者であるシライケイタ、次男役いわいのふ健、亡くなったお母さん役の大西多摩恵、長男の妻を演じた林田麻里さん。この4人はトムでも過去に一緒に仕事した人達です。時間を経過した中で、それぞれがそれぞれの形で表現の変化を観るのもプロデューサーとして楽しみの一つです。今回、母を演じる女優さんが体調不良で降板され、2週間で創りあげた多摩恵さんの奮闘振りに拍手。芝居屋さんは助けられたり、助けたり、長年芝居やってますと、その辺りの案件を阿吽の呼吸で危機を乗り越えたなんて事例は数多くあります。

母ものはやはり涙なしでは見られないですね、会場のあちこちですすり泣きが聞こえてきました。これも役者の表現力、そして演出力があっての話。10年から20年、芝居をやり続け力を蓄えていく劇団の過程も大変ドラマチックでございます。

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Welcom to Japan

2023/02/20
【第1719回】

先週の週末は、劇団トラッシュマスターズの「入管収容所」を観てきました。2021年3月6日、スリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)が名古屋出入国在留管理局で死亡したウィシュマさん死亡事件をモチーフに、日本の入管庁(出入国在留管理庁)の問題に斬り込んだ舞台。未だにこの国の為政者は、不法滞在の外国人はほとんどが悪い奴らと決めつけて対応している。移民、亡命者にたいする接し方も後進国並みだ。確かにこの資源に乏しい島国が、異国の人たちに制圧される光景を想像するとあまりいい顔しないのは分かる気がする。しかしながら、先にも触れたのだがこの国の働き手が少なくなっていく将来、異国の人たちと手を携えて生きていかなければならないことも想定しなければと思う。

トラッシュマスターズの芝居は、いつも今あるこの国の問題点をいち早く取り上げ舞台に仕上げていく。ある意味、演劇は今を描いてこそのアートかもしれない。今回の舞台もメディアで報道される上っ面のことではなく、劇作家、中津留章仁が綿密に取材したことを基本に自らの想像力を駆使して2時間40分の芝居に仕上げた。出入国在留管理局の非人道的な数々が目の前で繰り広げられ戦慄さえ覚えた次第だ。これも演劇が放つチカラに違いない。演劇とは己が信じた思考を行動に移す極めてシンプルな表現でございます。

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サギは後ろ向き

2023/02/17
【第1718回】

今、第168回直木賞、第13回山田風太郎賞と併せてダブル受賞に輝いた小川哲作「地図と拳」を読んでいます。なにせ全640ページという大作、半分あたりまで来ました。登場人物が複雑で多岐にわたり、あっちゃこっちゃと引きずり回されますが満洲を舞台にどこまでが真実かどこまでが架空の話か、読み応えのある小説であることは間違いありません。

先日、作家がこの受賞に対するエッセイを書いていました。

その中で興味深かったのが祖父に対する気持ちです。祖父が亡くなる10年ほど前に自伝を出版した時に、周囲の人たちは冷ややかな反応をしたそうだ。戦時中に共産党員だった祖父は党の活動のせいで逮捕され大学も退学。学徒動員で召集された時も負の感情を抱き、天国や神の存在を信じていなかったそうだ...そんな祖父に今回の受賞をどう報告されますか?と質問してきた記者は天国の祖父に感謝の気持ちを述べるだろうという予測に対し、彼はきっぱりと「祖父の人生を尊重する限り、もう死んで骨となった伝える言葉など、僕にはない」。記者会見の短い時間で、祖父の過去を説明できるはずもなく無理だと思ったそうだ。自分がどれだけ上手に説明しても、記事では切り取られてしまうかもしれない。だから、伝えることはないと答えた。祖父はすでに死んでしまったが、その存在はきっと自分の本の中で生きている。そして、本と言う形で自分の人生を残そうと考えた祖父のことを今でも尊敬していると記している。

久しぶりに作家としての矜持を強く感じた言葉でございました。

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如月の夜空

2023/02/15
【第1717回】

昨日は日生劇場でホリプロ制作のミュージカル「バンズ・ヴィジェット」を観劇。ミュージカルになんと風間杜夫ちゃんが出演しているので、どんな歌をご披露するのか楽しみにしていました。この作品はトニー賞で10部門を独占したのだが、従来のミュージカルと違い大規模で派手な趣向のある作品というわけでもない。しかし、イスラエルに演奏旅行に来たエジプトの音楽隊が道に迷い、地元のイスラエル人と一晩交流をするというシンプルな物語の中に、国境を越えた人の交流を丁寧な描きながら、心情溢れる空気とエキゾチックかつ独創的な音楽は過去のミュージカル作品にはないものを感じました。杜夫ちゃんは誇り高い楽隊長の役、抑制の効いた演技で地味ながらも存在感を示しておりました。期待していた歌は一曲だけでしたが相手役の濱田めぐみさんと上手くハモっておりました。

それにしても御年もうすぐ74歳になるというのに、若い俳優さんと一緒に演技している姿は元気をもらえます。ここが俳優業のいいところですな...なんといっても死ぬまで現役で居られんですから。と言っても舞台は台詞を覚えなきゃ成立しないので、覚えられなくなっちゃえば舞台俳優としては引退宣言。事実、この一件で引退した俳優も居ましたね。加齢とともに日常生活でも「あれ?あれ?」を連発することも度々。本当に出てこないんだよねこれが...ましてや舞台では高い入場料金頂いて足を運んで来てるお客さんの前で台詞が出てこないとなると失笑を買うと同時に、それまで築いてきた芸歴に傷が付き仕事が激減してしまうという最悪の未来が待ってます。だからこそ舞台は価値があるんですな。生身の身体を晒しながら己自身に鞭打つ姿をハラハラドキドキ見応え十分でございます。

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寒い一日

2023/02/13
【第1716回】

週明けの東京は雨が降り寒い一日です...連日報道されているトルコ、シリアの地震による甚大な被害。厳寒の中、焚火にあたる被災者の映像を見るたびに心痛みます。シリアでは内線が続いており政権側がしかるべき救済に当たってないこともあり、ここにも理不尽な状態が続いています。天災は人の手では何とかならないにしても、せめてもの戦争は人間の思考でなんとかなるはずなのに止めることが出来ない情けない世界、いや人類。天災は今後予想もつかない出来事が起こりそうなので、せめて戦争だけは止めて欲しいと誰しもが思っているのに止まらない。今はメディアもトルコの地震報道で一色だけれど、ウクライナもロシアの無差別攻撃で危機的状況。焼けただれた我が家の前で、呆然と立ち尽くす老婆の表情は怒りを通り越し諦観の境地。確かにウクライナがロシアに占領されれば民主主義、自由主義の敗北に繋がり世界の状況は一気に変貌するに違いない。それを阻止するため西側諸国は武器を提供しウクライナの勝利につなげるための援助はしているのだが、この状況が長引けば長引くほど死傷者が増え続ける...一人の独裁者の欲望、誰かストップかける奴おらんかいな!

2月生まれのおいら、よくぞこんな寒いときに生まれここまで活かしてくれたもんだと感謝いたしております。いつもながらの通り道にいつものように梅が咲いております。いつもの風景を今年も拝観し、あらためて平和の有難さを痛感した次第でございます。

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梅は咲いたか桜はまだかいな~

2023/02/10
【第1715回】

今日はしんしんと雪が降っています...いつも雪の日に感じることはなんだか心落ち着き、そして不思議な気分にさせてくれます。あの落ちてくる速度の緩やかさに思いを寄せ、いつもの日常を銀世界へと変貌をさせることによって、それまでのすべてをリセットさせてくれそうなマジック。その雪を眺めていると、おいらが好きな詩人の一人、吉野弘さんの「雪の日に」を想い出します。

 

雪がはげしく ふりつづける
雪の白さを こらえながら

欺き(あざむき)やすい 雪の白さ
誰もが信じる 雪の白さ
信じられている雪は せつない

どこに 純白な心など あろう
どこに 汚れぬ雪など あろう
               
雪がはげしく ふりつづける
うわべの白さで 輝きながら
うわべの白さを こらえながら
雪は 汚れぬものとして
いつまでも白いものとして
空の高みに生まれたのだ
その悲しみを どうふらそう

雪はひとたび ふりはじめると
あとからあとから ふりつづく
雪の汚れを かくすため

純白を 花びらのように かさねていって
あとからあとから かさねていって
雪の汚れを かくすのだ

雪がはげしく ふりつづける
雪はおのれを どうしたら
欺かないで 生きられるだろう
それが もはや
みずからの手に負えなくなってしまったかのように
雪ははげしく ふりつづける

雪の上に 雪が
その上から 雪が
たとえようのない 重さで
音もなく かさなってゆく
かさねられてゆく
かさなってゆく かさねられてゆく

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ユキツバキ

2023/02/08
【第1714回】

新宿西口広場に80歳前後のおばあちゃんが一人、俳人の金子兜太さんが書いた「アベ政治を許さない」のプラカードを掲げて立っていました。安倍政権時代には作家・九条の会呼びかけ人の澤地久枝さんが、毎月3日午後1時に掲げようと提案をし、あちらこちらで見かけたもんですが、ここ最近では久しぶりに見かけました。その横には菅元首相の名前も連記されてました。柔和な顔でありながら、刻まれた皺と同じく彼女の強い信念を感じた次第です。おいらもその凛とした立ち姿に思わず「お疲れさまです。」と声を掛けました。

新宿西口広場と言えば、一日の通行人数は相当の数だと思います。衆目の面前でこれだけの意思表示をすることはかなりの覚悟がいるはずです。おそらく家族、親戚には「みっともないから止めなさい!」「いい歳していい加減にしなさい...」なんて言われたに違いない。でも、彼女にしてみれば今のこの国の政治、国際情勢の大きな危機感から矢も楯もたまらず今回の行動に踏み切ったに違いない。諦めちゃダメなんです...この島国ニッポン、たしかに素晴らしい自然に恵まれ、繊細な気配りを持ち合わせてはいるんですが、こと政治になるとほぼ諦めの境地の人が多いんじゃありませんかね。

何が正解か分かりませんが、己の意見を持ち、間違いだと思ったらはっきりと異見する人間でありたい...そのためには、自分磨きを日々ゴシゴシしなきゃなりませんね。

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生きてます!

2023/02/06
【第1713回】

先週末は「モリコーネ~映画を愛した音楽家~」を鑑賞。稀代の映画音楽家エンニオ・モリコーネ、この伝説のマエストロに、弟子であり親友でもある「ニュー・シネマ・パラダイス」を監督したジュゼッペ・トルナトーレ監督が5年の歳月を掛け密着取材し完成させたドキュメンタリー映画である。おいらが大好きな映画のシーンとともに流れるモリコーネの曲がなんと心地良かったことか。「荒野の用心棒」「夕陽のガンマン」「アルジェの戦い」「ウエスタン」「ケマダの戦い」「1990年」「天国の日々」「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」「ミッション」「ニュー・シネマ・パラダイス」「アンタッチャブル」「海の上のピアニスト」などなど上演時間2時間37分、あっという間の時間でございました。考えてみれば、いつまでも心揺さぶられる映画には琴線に触れる音楽が伴走していました。自分の音楽を客観的に見られなくなった時、エンニオは音楽をまず妻に聞いてもらうことを選択すると喋っていました。謙虚で才能溢れたアーチストにも妻という良き伴走者がいたんですね。インタビューを受けるモリコーネ実にいい表情していました。貴方だったら唯一無二の旋律で映画に愛と命を吹き込むことができるはずだと納得した次第です。

唯単なる叙情に溺れることなく、渇いたアバンギャルド的音を交えながら構成していく手法は、彼自身が常に前衛の気持ちを忘れずに曲創りに邁進したからだと思います。いつ聞いても新鮮で最後には泣いちゃいます...2020年7月に91歳で亡くなったモリコーネに乾杯!

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永遠なれモリコーネ

2023/02/01
【第1712回】

ぼったくり男爵の発言がまたまた話題になっている。現在、国際大会から除外されているロシア選手らの復帰を検討すると発表。このオッサン、オリンピックを自分の利益のための道具にしてるんとちゃうかいな。この極寒のなか、ロシアの無差別攻撃でインフラが破壊されたなかで生活しているウクライナの現状を視察してからものを言わなあかんやろ。まともなオリンピック運営者であれば、ロシアのウクライナ侵攻が止まない限りオリンピックは開催しません!と宣言するべきだろう。それにしても狂犬プーチンひとりのわがままで世界がひっくり返ってるなんて恐るべき世界である。

軍事評論家が、メディアで今後の戦況をまるで予想屋みたいに語るシーンを見るたびに虚しさを覚える。こんな非常時に、颯爽と現れ事を収めるスーパーマンみたいな人物はおらんのかい...戦争してる暇なんてないぐらい、地球は温暖化により悲鳴をあげ世界各地地で災害が発生し、この先さらなる危機に瀕しているというのに、ほんまにニンゲンアホですばい。

今日から如月、あっと言う間にひと月経ってしまいました。寒さと同時に各家庭の生活も冷え込んできています。物価の更なる値上がりに続き、電気代の値上がりが又しても火計を圧迫。原発稼働している関西、九州はそのほかの地区に比べて安いという皮肉な現状。又しても原発見直しの議論もなされているという。2011年3月11日以来、この国のエネルギー政策なにか進展はあったんだろうか?外国行って大臣のためにお土産買ってふらちんしてる息子を抱えたリーダーではこの先真っ暗闇でございます。

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如月初日