トムプロジェクト

2023/02/17
【第1718回】

今、第168回直木賞、第13回山田風太郎賞と併せてダブル受賞に輝いた小川哲作「地図と拳」を読んでいます。なにせ全640ページという大作、半分あたりまで来ました。登場人物が複雑で多岐にわたり、あっちゃこっちゃと引きずり回されますが満洲を舞台にどこまでが真実かどこまでが架空の話か、読み応えのある小説であることは間違いありません。

先日、作家がこの受賞に対するエッセイを書いていました。

その中で興味深かったのが祖父に対する気持ちです。祖父が亡くなる10年ほど前に自伝を出版した時に、周囲の人たちは冷ややかな反応をしたそうだ。戦時中に共産党員だった祖父は党の活動のせいで逮捕され大学も退学。学徒動員で召集された時も負の感情を抱き、天国や神の存在を信じていなかったそうだ...そんな祖父に今回の受賞をどう報告されますか?と質問してきた記者は天国の祖父に感謝の気持ちを述べるだろうという予測に対し、彼はきっぱりと「祖父の人生を尊重する限り、もう死んで骨となった伝える言葉など、僕にはない」。記者会見の短い時間で、祖父の過去を説明できるはずもなく無理だと思ったそうだ。自分がどれだけ上手に説明しても、記事では切り取られてしまうかもしれない。だから、伝えることはないと答えた。祖父はすでに死んでしまったが、その存在はきっと自分の本の中で生きている。そして、本と言う形で自分の人生を残そうと考えた祖父のことを今でも尊敬していると記している。

久しぶりに作家としての矜持を強く感じた言葉でございました。

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如月の夜空

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