トムプロジェクト

2015/09/30
【第737回】

今年も風間杜夫ひとり芝居「正義の味方」が始まりました。初っ端は横浜にて公開舞台稽古。

どんな名優でも初日は心臓パクパクするそうです...風間さんは舞台の袖で、手のひらに○を書き、それを飲み込んで舞台に上がるそうです。そうです!お客を飲み込んでから一気呵成に舞台で暴れちゃおうというお祈りみたいなもんですね。この日も、まるでお客を手玉に取ってる感じで、笑いをとり、お客の心を舞台に引き付けていました。こりゃ名人芸ですな!と唯々感心するのみ。お疲れさんです...楽屋に行くと杜夫ちゃん、びっしり汗を掻きもぬけの殻状態でございます。あんなに軽やかに楽しそうに見えたのですが、そこが名優の所以たるところでございます。一生懸命を見せないのがプロ、しかも一人で一時間半演じ切るんですから、たいしたたまげた俳優さんです。

この日は、横浜桜木町のジャズ喫茶「ダウンビート」にもお邪魔しました。創業1956年の老舗の店。壁に飾られたオスカーピータソン、ソニーロリンズ、マイルスデイビスなどの油絵や、切り抜きの記事が59年間の紫煙、ジャズを愛する人の思いで、茶褐色に変色していました。場所柄、開店当時は米軍基地から米兵が来店し、夜明けまで賑わっていたそうだ...時は移り変わり、ジャズ喫茶はなかなか経営が難しくなってきたのだが、こうやって頑張っているお店にはエールを送りたくなるのでございます。

公演が終わり、みなとみらいの夜空を眺めると、スーパームーンがキラキラと輝いていました。

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ダウンビート

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スーパームーン

2015/09/28
【第736回】

川島なお美さんが亡くなった...トム・プロジェクトの芝居にも4本出て頂いた。正直言って、おいら、川島さんのこと女優と言うより、テレビのタレントさんだとばかり思っていた。ところが、8年前の中津留章仁作・演出「とんでもない女」で下條アトムさん、吉田羊さん(今、とっても露出してます)相手に、女優意識むき出しの闘志を見て、こりゃ本気だなと、川島さんの見方を変えた次第です。あの美意識に支えられた意地は半端なもんじゃありません。何度も何度も、台本を読み返し、どんな些細なことも作、演出者にしつこく質問する姿を見るにつけ、この人、芯から芝居が好きなんだなと思いました。マスコミの世界で生きてきた人達にとって、あまりお金にもならない舞台に、全エネルギーを注ぎ込んでくれる人には、当然おいらにとっても強い味方であり同士です。なお美さんの天性の美しさと明るさは、とかく暗くなりがちな舞台を輝かせてくれました。大好きなワインを飲みながら食事しているときのなお美さんも、芝居の稽古で疲れている仲間を元気にさせてくれる活性剤の役割をしてました。素敵な旦那様、鎧塚さんと結婚して、これからまだまだ公私ともやりたかったことはたくさんあったはずです。

でも、なお美さん、貴女が残してくれた映像、舞台は我々の記憶にしっかりと刻まれてますよ...

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「とんでもない女」

2015/09/24
【第735回】

散歩は心のオアシスだと思っています。いつもの通りを歩いていると、いつものお店がなかったり、違う店に変わっていたり、おいらの気持ちも微かに動揺したり、何かしらの想像が頭を巡ります。昨日も、吉祥寺の人気飲み屋の看板が変わっていたので、なんでやろ?予約しないと入れないくらいの店が潰れるわけがないし、心境の変化でもあったんかしら...日本酒と魚の美味しいお店が、お好み焼き屋さんになったんですから、こちとらも色々と想像してしまいます...自分の店でもないのに考えたって仕様がないとは思いますが、ここが散歩の達人の楽しみなんです。その土地その土地には、人の歴史があり多くの人達の思いがびっちりと詰まっているのでございます。その思いが幻となってしまうんですから、そりゃ愛おしさと感傷が千々に乱れ、しばし、その場所から離れることが出来ません。その思い入れこそが己の感性を養ってきたのかも知れません。それぞれの思いの連鎖が、又、新しい歴史を創ってるといってもいいんじゃございません。そんななか、時代がどんなに変化しようとも、建物が古くなろうとも、頑なに木造の築50年以上は経ているだろう家屋も存在します。これも、ついつい歩みを止め繁々と感慨深く見てしまいますな。昔の時代を彷彿とさせると同時に、人の営みを必死に守ってきた家の存在に深く敬意を抱かざるを得ません。そり曲がった板塀、剥げ落ちた玄関の門、色褪せた瓦、よくぞ生き延びた!思わず手を合わせたくなります...まさしく温故知新でございます。

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お待ちしてました

2015/09/18
【第734回】

参院特別委員会での、安全保障関連法案の強行採決の8分間をテレビで見たのだが、なんですかあれは!といっても、日本の政治のこれまでの歴史の再現ビデオを見せられてる感じがしたのですが...この国の政治に対する意識の低さが、あのどうしようもない政治屋を生み出しているとか言いようがない。あんな人達をよくぞ投票しましたね?よくぞ投票にも行かず棄権しましたね?そのツケが昨日の茶番劇。与党も野党もだらしないのは勿論なんだが、国民の殆どが議論を尽くしていないと言ってるのに、政府はアメリカとの約束優先、そして何よりも「今は反対意見が多く、デモも見かけるけれど、時間が経てば忘れてしまうでしょう...」なんて、確かに忘れっぽい国民を見透かしたような発言を、いけしゃあしゃあと述べる政治屋を野放しにしていることに怒りを感じないと、ますます政治不感症になっちまいますぞ...

徴兵制度なんてあり得ないなんて言ってるけど、いつの世も戦争なんてものは、実に巧妙に一部の人間の功名心から準備され、いつの間にか国全体が引き返せない状況に陥るなんて構図でございます。歴史に学ばない国は必ず滅びます!子を持つ母親、若い人たちが声を上げているのに微かな光明を感じます。

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共生

2015/09/16
【第733回】

昨日、風間杜夫ひとり芝居「正義の味方」の稽古が始まりました。思い起こせば風間さんと、ひとり芝居を創り出して18年。いやいや長いですな...最初は、ひとり芝居は邪道だと頑なに断り続けていたのだが、こんな年数になっちゃいました。作品としては6本、海外公演もスペイン、韓国、中国、ハンガリー、ルーマニア、アメリカの6カ国。いろんなことがあった18年でした。この間、風間さんは日本芸術大賞、読売演劇大賞最優秀男優賞、紫綬褒章などを受賞し、名実共に、ひとり芝居なら風間杜夫、風間杜夫ならひとり芝居なんて言葉が定着してきました。このひとり芸、彼の持ち味が存分に発揮されてると思います。やんちゃで、愛嬌があり、色気があり、哀愁もたっぷり。そして生まれ持った役者としての技量。今年66歳になるのだが、全くの衰え知らず、連日の酒飲みもお休み無し、驚異の肉体の持ち主でもあります。昨日の稽古初日も、最初から立ち稽古、大声を張り上げ、たっぷり汗を掻き、その後は陽気に飲み会。

でも、しみじみと言うてはりました...昨日、昨年やったビデオ観たのだが、全然あかんかった、恥ずかしい限りだ...この謙虚というか、貪欲な表現に対する拘りがあるからこそ今でもトップランナーで居られるのでございます。

今年の「正義の味方」は見逃せませんな!
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錦糸町の稽古場から

2015/09/14
【第732回】

先週の週末は、いつものながら2本の芝居を観劇。1本目は劇団チョコレートケーキの名コンビ、古川健作・日澤雄介演出の芝居。新劇の7人の女優さんが昨年結成したOn7という集団に書き下ろした「その頬、熱戦に焼かれ」。原爆に被害にあった乙女が原爆投下国アメリカに治療に行った実話をもとに展開していく話...作の古川さんの丁寧な作劇と、日澤さんの斬新な演出で、7人の若き女優さんキラキラしてました。あらためて、役者を生かすも殺すも作・演出の手腕にかかっていることを実証してくれた芝居でした。

2本目は骨太な作品を創り続けるトラッシュマスターズの「そぞろの民」。作・演出の中津留章仁さん、これでもかというくらい、この国の諸問題をてんこもり、これをこなしていく役者さんも大変でございます。喋り言葉で無い台詞をなんとか身体に落としていく役者の七転八倒振りをひやひやもんで観ながらも、最後は腕力でお客を引っ張り込んでいく才気はさすがでございます。

芝居は見せ物でもありますが、お客への挑発、覚醒でもありんすよ...安全パイにこしたことはないのだが、たまにはキラリとドスを突きつけられると鈍った心身がシャキッとしますばい!
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久し振りの晴れ間

2015/09/11
【第731回】

新宿は眠ることを知らない魔界の街...最近歌舞伎町では、ぼったくりバーが沢山摘発され、歌舞伎町の交番も多忙極まりないとか。アルコール2、3杯で2人、20万円請求されたり、アルコールの中に睡眠剤を混ぜ、現金、カードを盗まれたり...欲望の果てだから、しょうがないと言えばそうなんだが、まあよくそんなところにのこのこと出かけますな...でも、こうやって騙されながら大人の階段を上っていくんでしょうね。そして大人になったらなったで、夢も希望も失って焼き鳥屋でぼやいてる姿も想像できますな...方や、うら若き女性はホストクラブにはまり、身を持ち崩してしまうなんて構図が多いとかききますな。おいらなんか、なんであんな野郎に引っかかるのか、今もって不思議でなりません。キムタクみたいなヘアースタイルにすりゃいいってもんじゃございません。どの面下げて真似してんのや!品性も知性も感じられない面して格好つけてんじゃないよ!でもでも、お嬢様方、ついつい最初の¥3000ぽっきりの値段にホイホイ乗っちゃうんだよね。そんなお金と暇あるんだったら、被災地にボランティアとして汗を流すとか、国会に行って戦争反対のデモに参加するとか、少しは世の中人のためになることせんかいな...
この新宿という街、おいらも、ほぼ半世紀にわたりブラブラしとりますが、人間が本来持つ欲望を巧みに引き寄せる装置を備えておりますな...ゴールデン街、思い出横町、を残しなが家電店、デパートなどなど、このゴチャゴチャ感がいいんですね。最近は、中国語、ハングル、スペイン語が飛び交って、ますます怪しくなっとりますがな...

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さあ...買ってちょうだいな!

2015/09/09
【第730回】

友人の個展で久しぶりに本郷に行ってきました。本郷と言えば、夏目漱石、二葉亭四迷、石川啄木、川端康成など多くの文人が居を構えていた場所です。中でも、樋口一葉が住んでた菊坂では、母と妹と3人で針仕事や洗い張りをするなど、苦難の日々を過ごした場所でもあります。この地に、今も威厳ある佇まいで、東京帝国大学がオッ建っている...おいらは残念ながら入学できなかったが(あたりまえやんか)、この国の中枢を担っている人達が学んだ学舎であることに間違いはない...政治家、官僚などなど、確かに国を牽引したには違いないが、おいらが思うに国家を思うに等しく庶民、人民、尚言わせて貰えば棄民にいたるまで人間なる者に思いを馳せ、そこから国家なるものの設計をして欲しかった。ならばもう少し心豊かなニッポンになったに違いない。おいらは雨降る中、赤門を眺めながら思ったさ...この重要文化財は加賀藩13代藩主前田斉泰が文政10年(1827)に11代将軍徳川家斉の娘溶姫を正室に迎えた際に建立された御守殿門...お上が庶民から吸い上げた銭っこで建てたもんでございます。だからして、今度は、お上が庶民に尽くすのが当然でしょう...この当たり前のことが未だ、この国ではなされておりません。

ところで、個展はどうだった?A・Hさんのお母さんが亡くなった時に画いた油絵≪地≫がとても印象的でした。アートは特別、特殊なことではなく、その素材は、いつもの日常の中に潜んでいます。そうなんです、生きてること自体がアートなんです。

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赤門

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2015/09/07
【第729回】

墨の世界は深いです...おいらも毛筆大好きです。人間の身体、もちろん心が一番伝わりやすいのが筆ではないでしょうか。墨を擦り、程よい濃さを作り出し、筆に乗せ、今ある気持ちを毛筆の繊細な動きに託し表現する様は躍動感に溢れています。30代の頃、世界を放浪していたときに、言語も判らないおいらを助けてくれたのも墨です。相手とのコミニュケーンをとる手段としては最良のものでした。相手の名前がわかると、漢字の当て字を使って書いてやると大喜び。例えばルイスであれば留伊須とか...これに味をしめて商いもしましたぞ。スペインの浜に白い石が沢山拾えたので、こりゃよかですばい!と、しこたま袋の詰め込んで真っ白な白に漢字の名前を画いてやると飛ぶように売れたのでございます。このお金でスペイン滞在も延長できました。
今でも、毛筆を手にすると、血湧き肉躍る感じがします。おいらの遊び心を大いに刺激し文字が絵になり、なんとも言えない書体になるのです。亡くなった映画監督・貞永方久さんがおいらの自己流に徹した墨絵、絵文字を見て「まったく、自分勝手で、わがままで、感謝知らずの気分屋で、いささかうろんなタッチなのだが、なぜかふしぎに、どこかしら魅かれる風が吹いている」これは、けなされ誉められ感想なんでしょうかね?
「字は体なり」って言葉があるじゃないですか、その顕著な表現が毛筆書体だと思ってるんですが...いずれにしても、このハイテク時代、たまには鉛筆、ペンでもよござんす、これらを駆使して己を表現してはいががですかな...


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幽玄の世界

2015/09/04
【第728回】

卒塔婆の向こうに見えるのが新宿の高層ビル群でございます。卒塔婆と現代建築の白眉である建物が、妙に重なって見えます・・・新宿の高層ビルに何度か行った経験から、どうも居心地が良くありません。だって40階、50階に座っていても何だか落ち着きませんもの。要するに、地に足がついていない宙ぶらりん状態で飲んだり食べたりしているんでございます。現代っ子にとっては見事な夜景と、見渡すぐらいの風景に、この世と思えぬ快感を感じているんでしょうが、アナログ人間であるおいらにとっては、足下を脅かされてる怪しい気配が押し寄せてくる感覚。でも、この不安定な状況を忘れさせてくれるところが一カ所だけあります。JAZZが流れる中、美味なるお酒と真珠のような夜景、どこだって?ふふふ、秘密でございます・・・
今日も、卒塔婆の下から無数の亡者がぶつぶつ言っとります。「あんたら、調子に乗って浮かれていると、ろくな死に方しませんぜ・・・」
オリンピック エンブレム問題、新国立競技場のドタバタ劇、お上のトップが責任とらない国が良くなるわけがありません。最近、新宿の卒塔婆群も頭に来てグラグラこいとりますわ・・・

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新宿の墓場

2015/09/02
【第727回】

昨日より、ホームページが10数年ぶりにリニューアルいたしました。いががですか?そんな記念すべき夢吐き通信なのに、なんてこった!新宿奇人変人列伝が登場しました。このオッさん前にも見かけたのだが、こちらもリニューアルしてこんな姿で現れました。この姿で新宿のど真ん中歩いていりゃ誰でも振り返りますな...それを見越してのオッさんのパフォーマンスでございます。「誰か声かけてくれないかな...写真撮ってくれないかな...」なんて物欲しそうな仕草を感じたおいら、「写真いいかな?」と問いかけると、「よろしゅうございますよ...」とお姉言葉でポーズをとってくれました。通りすがりの人達も、物珍しさのあまりパチリとやりたいところだが、変に絡まれるのが怖いのか唯々チラリと見ながら通り過ぎていくだけ。
こんなヘンテコな人達が、うじゃうじゃ居る新宿は、やっぱりおもしろ劇場です。

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変なおじさん