トムプロジェクト

2024/01/31
【第1851回】

あの似合わない黒いハットを被ったおっさん、又しても物議をかもす発言をいたしました。ほんまに情けない、こんな人をいつまでも選ぶ福岡の選挙民もこれまた情けない。この国を代表する女性外務大臣の名前は間違えるし、あまり美しくないと容貌にいちゃもん付ける人間が副総理なんて世界に対しても恥ずかしい限りだ...こんなことを言われた外務大臣も「失礼な発言です!」とお灸をすえればいいのに、聞き流す対応。なんだか女性初の首相なんて声を気にしての忖度なのかとも思ってしまいます。

連日の裏金問題の当事者の言葉もすべて虚しく聞こえてきます。一番の正直者は、議員辞職を願い出た長崎選出のオッサンかもしれませんな...悪徳5人衆なんぞは国会開幕初日、皆そろってニコニコしておりました。せめてもの芝居でもいいから「申し訳ありません!」なんて神妙な顔でもすればいいのに、あの厚顔無恥なるツラを見せられると開いた口が塞がりません。

日本の国の政治家に申したい!あなたたちは言葉に対して失礼じゃないかと思います。要するに相手(国民)の差し迫った言葉を機能として聴いているだけ。己の腹の底に染みわたる覚悟で聴いていないということだ。そしてお金のこととなると欲の皮が突っ張り、これだけは正直になるという体たらく。政治屋稼業の言葉だけが利便的にはびこっている世紀末的状況でございます。

言葉は暴力には無力でもあっても、ひとりひとりの生きるうえでの杖であったり、飢えたときの代用品になったり、身を守るシェルターにも成りうる人間のみに与えられた宝物でございます。そんな言葉をないがしろにする人達に国を任せるわけにはいきません...

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善福寺川緑地公園

2024/01/29
【第1850回】

先週の土曜日、久しぶりに刺激的な映画を堪能しました。「女王陛下のお気に入り」のヨルゴス・ランティモス監督の最新作「哀れなるものたち」。観終わった率直な感想は、若い頃よく観たゴダール、フェリーニ作品を彷彿とさせるアバンギャルドの匂いがする問題作。何が問題かというと過激な性描写に目がいき、一見エログロに見せておきながら登場人物が語る言葉の背景には現代社会に潜む社会、化学、偏見、差別、政治、制度に辛辣なメッセージが込められていること。しかも説明的ではなくユーモアを交えてのやり取りにエンタメ性を感じさせてくれること。それにしても一番驚いたことは、2016年の傑作ミュージカル「ラ・ラ・ランド」で女優志望の主人公を演じ、ベネチア国際映画祭の最優秀女優賞や、アカデミー主演女優賞など数多くの賞を受賞したエマ・ストーンの体当たり演技。これがホンマの女優魂!日本の女優さんが観たら、なんでここまでやるの?と腰を抜かしそうな過激、過剰なシーンの連発。しかも、内面の演技もしっかりしてるんだから文句のつけようがない。アップで写し出される表情には一人の女性としての揺るぎない信念と持続する強い意志を感じる。

撮影、美術、衣装、ヘアメークどれをとっても新しいものを創る野心に満ち溢れた作品であることは紛れもない事実。エンドロールの流れる不思議な図柄と音楽、これにもまいりました。エンドロール賞をあげたいくらいの終わり方。映画にとって締めのエンドロールはとっても大切なシーンだと思います。すべてを終え、観客は余韻に浸っているなか如何に幕を閉じるか...終わりよければすべて良し!って言葉がありますよね。

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問題作

2024/01/26
【第1849回】

昨日は神保町のジャズ喫茶「オリンパス」と、明治大学図書館で一冊のノンフィクション小説を読破しました。美味しい赤いチキンカレーとコーヒー、そして4000枚のレコードの中から選曲されたレコードの心地良いノリで150ページを読み終え、残りの170ページは明治大学図書館の静寂な空間で...やはり、言葉の持つ滋味、深淵の魅力は心身を虜にしちゃいます。

それにしても、改めてノンフィクション作家の凄さを感じさせる読み応えでした。何年間もの間、対象となる土地、人物に密着し体当たりで本質に迫るには相当のエネルギーを必要とします。その人の過去、現在を含め洗いざらい聞き出すんですから、それなりの人間関係を構築しないと無理な話。

おいらも芝居を創るうえでいろんなジャンルのノンフィクション小説を読んできました。中でも、九州大分県中津で多くの書を書き続けた松下竜一さんには大いなる共感を覚え、「松下竜一 その仕事全30巻」を買い込み、中津に飛び、上演許可を頂いた思い出があります。そこはノンフィクション作家と同じくらいの情熱、エネルギーを有しないと、良質な芝居なんかは創れません。

それで昨日読了した小説は?こればかりはまだまだ今の段階では秘密でございます。すべてが明らかになった時までのお楽しみ...こうやって又、新たなことにチャレンジしていくことで己を奮い立たせる日々でございます。

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冬のメタセコイア

2024/01/24
【第1848回】

今日はこの冬一番の冷え込み。故郷博多もどうやら雪が舞うらしい。それにしても能登半島の人たちにとっては厳しい日々が続いている。そんな中、新宿の街かどで若い有志が被災者に向けての募金活動を行っていた。こんな風景を目にすると、この国もまだまだ希望が持てますばい。その傍では、路上シンガーからのスターを目指す若者も居る。一度きりの人生なんだから信じたものに賭け、悔い無き人生を送れば良いのだが、この国のつまらんシステムに未だ拘り一流大学、大企業なんてコースを選択しちゃうのがほとんどかな?大好きなことに夢中になり手に職を付けて、もの創りに励む人達の目はいつもキラキラしています。おいらはこんな人種が大好きです。

永井荷風の全集を読んでいます。この作家の定まることのない生き方とマッチした文章が実に面白い。それも学問に裏付けされた書物だから説得力がある。銀座のカフェ、遊郭、ストリップ劇場をこよなく愛し、その視線はいつも弱者に注がれていた。

1952年には「温雅な詩情と高邁な文明批評と透徹した現実観照の三面が備わる多くの優れた創作を出した他江戸文学の研究、外国文学の移植に業績を上げ、わが国近代文学史上に独自の巨歩を印した」との理由で文化勲章を受章する。最後は孤独死、そして彼の遺言として遺骨は吉原の遊女の投込み寺に葬られたいと記していたらしい。

裏金疑惑の安倍派の議員たちの神経にはほとほと呆れてしまう。「安倍さんに申し訳ない...」

あほんだら!謝る相手が違うやろ...こんなセリフをいとも簡単に吐いちゃうこの人たちに政治を任した選挙民も大いに反省せにゃいかんですばい。

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冬の暮

2024/01/22
【第1847回】

黒澤明監督の傑作「生きる」を、ノーベル賞作家カズオ・イシグロの脚本によりイギリスでリメイクしたヒューマンドラマ「生きる LIVINNG」鑑賞。率直な感想、やはり黒澤作品の方が圧倒的な中身の濃さで軍配が上がるかな。やはり主人公が公園を作るためにいかに命懸けで奔走したかを回想する葬式の場面が、この映画の核心のような気がします。この時代に居た役人を含めた人間像が見事な演出、演技によって主人公を際立させる手法が永遠の名作にしています。中村伸郎、藤原鎌足、千秋実などなど名脇役の丁々発止のやり取りが実に人間的だ。とりわけ印象に残るのが左卜全の面白おかしい存在感。「七人の侍」の時もピカ一だったのだが、こんな役者が居なくなったのも日本映画が今一つパッとしない一因かもしれない。

リメイクした英国映画も健闘しているというか、やはり西欧の洒脱な物語である。日本人の持つ泥臭さと対照的にイギリス紳士の佇まいを前面に押し出している。Mr.ウィリアムズを演じるビル・ナイの端正で押し付けがましくない存在感が、日本版と違うテイストを生み出している。そして、なんといっても印象に残るシーンであるブランコに乗って口ずさむ歌。日本版は志村喬の、♪いのち短し 恋せよ乙女 あかき唇 褪せぬ間に 熱き血潮の 冷えぬ間に 明日の月日は ないものを♪「ゴンドラの歌」これが絶品でした。

英国版は、スコットランド民謡の「The Rowan Tree」=「ナナカマドの木」、この歌には、今際を覚悟することで、自身の故郷や親族などに想いを馳せているという意味があるそうだ。歌詞、メロディともに乾いた感がしました。

最後に、主人公が場末の歓楽街で嬉々として遊び解放するシーンがあるのだが、日本版ではあの怪優、伊藤雄之助がアクの強い演技の連続でスクリーンを釘付けにする面白さがあったのだが、英国版はなんともあっさりした俳優さんのお陰で無味無臭のシーンになったのが残念でございました。

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昨日、見かけた早咲き梅

2024/01/19
【第1846回】

能登半島地震の今後の行方が混沌としています...二次避難を呼びかけても避難者の一割の希望者だったとか。故郷への強い拘り、ひどいのは大学生が被災した家に入り込み高級蜜柑を盗んだのを知り、我が家を守らないとの思いで劣悪な環境でありながらも留まるケース。それにしても、こんな状況でもあっても悪い奴は居るんですね。こんな奴らは普通の窃盗罪の3倍、4倍の刑を科してもらいたいもんですね。最高学府で何を学んでいることやら...

大阪万博を中止して、これから掛かる費用をそっくり被災地の復旧に充ててもらいたいもんでございます。人口の島での万博終了後、はっきりとした設計図もないまま当初の予算をはるかにオーバーした予算で強行しようとする国、大阪府のやり方に半分の人が反対してるんですから。過去の例をみても、オリンピック然り、政治屋と企業の闇の談合でこれらの催事が実施され数々の不祥事が後日談として暴露されてます。この低空飛行が続く日本、先ずは被災地に投資するのが筋だと思いますが...

「モンテンルパ」の稽古場に行ってきました。出演者5人と演出家の息もぴったり。実に活気あふれる稽古場風景でした。世の中がなんとも不穏である今こそ、芝居で元気にできればと思っています。あと二週間、体調には十分気を付けて無事初日をむかえてもらいたい!

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詐欺ではありませんよ...

2024/01/17
【第1845回】

昨日、「初春大歌舞伎」を歌舞伎座で観てきました。久しぶりの歌舞伎十分に堪能してきました。「當辰年歌舞伎賑」の賑やかしい踊りと、変化にとんだ長唄、三味線、鼓、笛の響きで幕開け。25分の休憩を挟んで「荒川十太夫」。赤穂義士四十七士のひとり堀部安兵衛が切腹する際に介添え役を務めた荒川十太夫を主役に据え、義を通そうとしたがゆえに苦悩を抱え葛藤する十太夫の役を尾上松緑が見事に演じていました。決して二枚目と言えないのですがハートがビシバシと伝わる歌舞伎役者。松平隠岐守定直役の坂東亀蔵の透き通る台詞と歯切れの良い演技もこれからの成長が楽しみです。

最後は35分の休憩(商業演劇はこの間、食事してもらったり、買い物を勧めたりでの時間でもあります。)後、「狐狸狐狸ばなし」この作品は2004年にトムでも上演しました。ケラリーノサンドロヴィッチ演出で板尾創路、篠井英介、六角精児、ラサール石井の出演での異色の芝居に仕上げた記憶があります。この芝居は通算220編余りの戯曲を書き上げた北條秀司氏の喜劇での最高傑作だと言われてきました。タイトルが示すように登場人物が織りなす狐と狸の化かし合いが目まぐるしく展開されます。その中に人間の欲、哀感がおかしみを取り混ぜながらの抱腹絶倒喜劇。松本幸四郎、尾上右近が安定した演技をする中、幸四郎の息子である市川染五郎が目を見張る芝居をしていました。将来の歌舞伎界を背負って立つ逸材であることは間違いありません。

終演は15時、歌舞伎のゆったりした時間がとても心地よかった。確かに¥18000の入場は高いと思いますが、まあこの規模で、この内容であれば納得できるかな...

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新春の歌舞伎座

2024/01/15
【第1844回】

能登半島地震の連日の報道の中、自民党のパーティ裏金疑惑、検察が一議員の逮捕で幕引きをしようという情報が流れてきました...本当にふざけるなと言いたい!まじめに働いている庶民には徹底的に厳しく税の要求をしておきながら、脱税に匹敵する犯罪行為を犯しながら国会議員というだけでこの甘い処置。この国は本当に腐りきっている...国の権力が一つの機関に集中すると濫用されるおそれがあるため、三つの権力が互いに抑制し、均衡を保つことによって権力の濫用を防ぎ、国民の権利と自由を保障しようとする考え方で立法・行政・司法の三権主義があるのにこの有様。お互いが監視するどころか忖度するばかり...今からでも遅くありません。昨日の台湾での選挙での投票率71%、日本の投票率はいつも50%前後、半数の有権者が棄権している状態に危機感を持ちましょう!と言っても腰をあげようとしない体たらく状態。勿論、原因は政治不信であることははっきりしているわけだが、諦めちゃ悪徳政治屋の思う壺でございます。

そして、辺野古新基地での埋め立て強行。沖縄の人が何度も嫌だと意思表示してるのに何ら応えようとしない政府。おいら前から言ってるのだが、沖縄にある基地、日本の各地が負担するのが平等だと思います。先の大戦であれだけ沖縄に犠牲を強いながら、またしても台湾有事の際の盾にしようとするこの国の狡さに呆れてしまいます。この国がアメリカの属国であるのは理解できますが、いまだ沖縄だけにアメリカ軍基地の押しつけは勘弁してくださいな。昨日も、TV新日本風土記での沖縄のきれいな海と空に囲まれながらゆったりと時を楽しんでいる人たちを見るにつけ、この安穏な日々が永遠に続きますようにと思いました。

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睦月の空

2024/01/12
【第1843回】

この季節、すっかり葉を落とし毅然とした姿で屹立している樹木を眺めているとシベリアの収容所に8年間を過ごし、日本への帰国を果たせず病死した山本幡男さんの詩をいつも思いだします。


アムール遠く濁るところ
黑雲 空をとざして險惡
朔風は枯野をかけめぐり
萬鳥 巣にかへつて肅然

雄々しくも孤獨なるかな 裸木
堅忍の大志 瘦軀にあふれ
梢は勇ましくも 千手を伸ばし
いと遙かなる虚空を撫する


夕映 雲を破つて朱く
黄昏 將に曠野を覆はんとする
風も 寂寥に脅えて 吠ゆるを
雄々しきかな 裸木 沈默に聳え立つ

 

極まるところ 空の茜 緑と化し
日輪はいま連脈の頂きに沒したり
萬象すべて 闇に沈む韃靼の野に
あゝ 裸木ひとり 大空を撫する

 

理不尽な境遇のなか、極寒のシベリアの収容所で故郷、家族に思いを馳せながら書き綴った言葉に山本幡男さんの強靭な意思を感じる。
年頭の能登半島地震、羽田の航空事故然り、この時代、何が起こっても不思議ではない。そんな時には逆境の中で生を信じ、改めて命の尊さを感じながら過ごした人たちのことを忘れずに日々を過ごしたいと思っています。

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裸木

2024/01/09
【第1842回】

連日の能登半島地震の現地の生々しい報告を見るたびに心痛みます。コロナも落ち着き、久しぶりの一家での正月で10人の家族を亡くした男性の「何も悪いことしてないのに...なんでこんな目に合わなきゃならないのか!」涙して語る慟哭言葉が胸に迫ってきます。

13年前に輪島の朝市でふらり覗いた市中屋本店。格子窓の素敵な外観で、代々100年以上続く老舗店です。輪島塗というとなかなか敷居が高いと言われていますが、一歩店内に足を踏み入れるとなんとも懐かしい匂いと家庭的な雰囲気に魅せられついつい話し込んでしまいました。店内に展示されていたお重が気に入り半年掛かりで創っていただきました。塗っては乾かしの繰り返しでとても手間暇がかかる作業だとのことでした。

正月のおせち料理は、このお重に詰め込み新年を迎えるのが我が家の習いでした。

そんな思い出を持つ市中屋さんのご家族、親類と思われる名前が今回の地震での安否不明者のなかにありました。毎年、年賀状が来ているのですが焼失した朝市通りのお店には連絡しようがありません。今はただ無事であって欲しいと願うのみです。

焼けただれた家並みを前にして若き漆器職人が「命は助けてもらったので、残されたものがなんとか伝統を引き継ぐしかありません...」この言葉を信じるしかありません。東日本大地震然り、命ある限り残された人々がマイナスからプラスへと歩を進めてきました。

昨日、黒澤明監督「生きる」久しぶりに観ました。生きることの根源をシンプルに描いた傑作です。志村喬の鬼気迫る演技、他の共演者のキャラクターの活かし方、さすが黒澤明監督。

命ある限り、生きてさえいればなんとかなります...被災地の皆さんが一日も早く日常を取り戻し、必ずや自然の魅力に溢れた能登半島を再生してくれると思っています。

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市中屋さんのお重箱

2024/01/04
【第1841回】

明けましておめでとうございます。

 

いよいよ今年も始まり、今年こそは平穏な年であれという願いを元旦から、能登半島地震で砕かれた思いです。2日には羽田での航空事故。何とも波乱の幕開けとなりました。

ウクライナの侵攻、ガザ地区での戦闘も止むことがありません。

何としても、この不穏な流れを食い止めなきゃ未来はないと...今年も又、ひとりひとりがこの危機感をしっかりと意識して生きていかなければと強く感じています。

トム・プロジェクトも今日から「モンテンルパ」の稽古が始まります。2021年のコロナの恐怖に晒されながら、なんとか千秋楽を迎えることが出来た日のことを鮮明に覚えています。

再演である今回も、平和な日常がいかに大切であるかをこの作品を通じて伝えることが出来ればと思っています。

今年も、トムは芝居を通じて世界のいかなる人も皆平等に平穏な日々が訪れることを信じてやり抜いていきますので、皆さま何卒よろしくお願いいたします。

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謹賀新年