トムプロジェクト

2024/01/12
【第1843回】

この季節、すっかり葉を落とし毅然とした姿で屹立している樹木を眺めているとシベリアの収容所に8年間を過ごし、日本への帰国を果たせず病死した山本幡男さんの詩をいつも思いだします。


アムール遠く濁るところ
黑雲 空をとざして險惡
朔風は枯野をかけめぐり
萬鳥 巣にかへつて肅然

雄々しくも孤獨なるかな 裸木
堅忍の大志 瘦軀にあふれ
梢は勇ましくも 千手を伸ばし
いと遙かなる虚空を撫する


夕映 雲を破つて朱く
黄昏 將に曠野を覆はんとする
風も 寂寥に脅えて 吠ゆるを
雄々しきかな 裸木 沈默に聳え立つ

 

極まるところ 空の茜 緑と化し
日輪はいま連脈の頂きに沒したり
萬象すべて 闇に沈む韃靼の野に
あゝ 裸木ひとり 大空を撫する

 

理不尽な境遇のなか、極寒のシベリアの収容所で故郷、家族に思いを馳せながら書き綴った言葉に山本幡男さんの強靭な意思を感じる。
年頭の能登半島地震、羽田の航空事故然り、この時代、何が起こっても不思議ではない。そんな時には逆境の中で生を信じ、改めて命の尊さを感じながら過ごした人たちのことを忘れずに日々を過ごしたいと思っています。

1843.jpg

裸木

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