トムプロジェクト

2022/11/30
【第1690回】

こまつ座の「吾輩は漱石である」を観劇。この作品1982年にしゃぼん玉座で木村光一の演出、小沢昭一の出演で初演されたものである。この年は東京・永田町のホテルニュージャパンで火災、東北新幹線開業なんかの記憶他、演劇の世界では転位21を主宰していた山崎哲氏が「漂流家族」「うお伝説」で岸田國士戯曲賞を受賞したことが印象に残っています。そんな折、俳優小沢昭一さんも自分がやりたい芝居をやりたくてしゃぼん玉座を立ち上げ井上ひさしさんに台本を依頼したんだと思います。

そんな経緯で書かれた戯曲、井上さんには珍しく最後まで試行錯誤で頭を抱えながら書いたであろうという悪戦苦闘の跡が随所に見られました。おいらも最近、夏目漱石の作品を読み返しているんですが、やはり文豪に相応しい作品ばかりです。すっと読み進むにはもったいないくらいの語彙の選択、人間の心理に奥深く立ち入り暫し熟考せざるを得ない展開、それに加えエンターテインメント性もあるんですから永遠のベストセラーであることは間違いないと思います。

さて芝居なんですが、この難攻不落というよりも、あちらこちらにとっ散らかっている戯曲を何とかしようとする演出家、それに応えようとする役者の奮闘する様を観せられた感がしました。そのなかでも漱石の妻・鏡子さんと、「坊っちゃん」のマドンナなど複数の役を演じた賀来千香子さんの芝居は十分楽しめました。そうなんです、難しい芝居程あまり考えすぎず心身解放して楽しめばいいのでございます。

でも、こうやって過去の作品に新しい命を吹き込んで創造しようとする姿勢は大切なことだと改めて感じた観劇日でした。

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明日から師走

2022/11/28
【第1689回】

昨日は大変な一日でしたね...大相撲九州場所では、千秋楽は本割で幕内高安に土をつけ、ともえ戦となった優勝決定戦で高安、大関貴景勝を撃破した平幕の阿炎が優勝。この力士、一昨年7月場所でコロナ対策の規則違反が発覚。3場所出場停止などの処分を受けて、一時は幕下まで転落した経歴をもつやんちゃな人。相変わらず、モンゴル勢におされがちな相撲界、これぐらいやんちゃじゃないとダメでごわす。それにしても貴景勝の体型と汗みてるとちょいと心配だな、見てる方が息苦しくなっちゃいますがな。

夜のゴールデンタイムのサッカー...歓喜に溢れていた日本列島、一瞬にしてしゅんとなっちゃいました。コスタリカ戦勝って当たり前?とんでもございません、中南米の小さな国ですがサッカーに命を懸けてる国でございます。日本の先発メンバーみて、ちょいとナメてるんじゃないかと思いました。次のスペイン戦なんてこと考える余裕なんてあるわけじゃないと思うのだが、前半のちんたら攻撃も含めて良くて引き分けだなとおいらは思いました。

どんな勝負事でも下駄を履くまで分からない...このグループ、なんとコスタリカと日本が二次リーグに進出なんてこともありえます。特に得点するのがなかなか難しいこのゲーム、まだまだ日本にもチャンスはありますが、次のスペイン戦のめりこむことなく楽しみながら観ましょうね?なんて言っても日本時間12月2日(金)午前4時キックオフとなりますと、おいら寝てますがな。

ちなみに「果報は寝て待て」なんてことわざもあるじゃありませんか皆の衆。

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秋の日はつるべ落とし

2022/11/24
【第1688回】

今日はサッカーでしょう!おいらも試合開始からテレビ観戦してたのですが、前半ほとんどドイツの猛攻を見せられ、こりゃ予想通りドイツの勝利で決まりだと寝る体制に入ったのだが、おいらの感ピューターがなぜかピコピコしてきたので後半戦の最初だけ見ることになりました。芋焼酎のお湯割り片手にほぼ諦め状態で観てると、前半とは打って変わってジャパンの動きが良くなっているではないか...もしやと思いきや30分にMF堂安律が同点ゴール、38分にはFW浅野琢磨が決勝ゴール。アディショナルタイム7分の表示が出た瞬間、1993年10月28日にカタールの首都・ドーハで行われたワールドサッカーアジア最終予選、試合終了間際まで2-1でリードしていながら、ロスタイムにイラク代表に同点ゴールを入れられ、一転して予選敗退する結末となったことが頭をよぎりました。メンタル面で弱い日本選手のことだからまたしてもと最後までヒヤヒヤもんでしたが何とか守り切りました。ゴールを決めた二人の選手のインタビューが、昔の代表選手と違っていかしてる(もはや死語かな?)じゃありませんか「俺が絶対決めてやる...そのために出てきたんだから。」頼もしい若者です。これはやはり二人とも海外でプレーしていることが大きいと思います。異国の地で多種多様な人種と混じりながら生活することがいかに大切なことか...おいらがいまこうやって仕事出来てるのも30代に海外を見聞したことが大きな財産になっています。思考、行動の幅が果てしなく拡がっていくこと間違いなし。スマホピコピコで明け暮れてちゃおもろい人生送れませんがな...今からでも遅くはありません、何でも見てやろう精神で海外ふらりと出かけてみませんか?

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今日のメタセコイア

2022/11/21
【第1687回】

米澤 穂信の作品「黒牢城」を読了。結論から言えば面白かった...というよりなかなか仕組まれた読み物、話の展開がミステリアスでついつい読まずにはいられない欲求をかきたてられる。歴史小説でありながらミステリ小説なんて贅沢な設定はなかなか成功しづらいなか、これは作家の才能以外なにものでもない。牢に拉致される黒田官兵衛の使いかたが絶妙である。この本の主役である村重と官兵衛の戦国時代を生き抜く武士としての人生観や世界観が丁寧に描き込まれていると同時に、ふたりの心理戦を交えたやりとりが、まるでその場に立ち会っているかのような緊張感がたまらない。

いい小説を読むと、おいらの頭のなかにあった言語化されていないなにかが、いまここに文章として再現されていることにとても感銘を受ける。それは、映像や音楽などと違って読んでいるおいらと分かちがたく結びついている。「美しい樹木」とあれば、それはおいらが見たもっとも「美しい樹木」と響き合い、「やわらかな肌」とあれば、それはおいらが知っている、もっとも「やわらかな肌」とほとんど同じなのである。それはリアリティというのとは違い、言葉という回路を通して、いつでもおいらに引き寄せてくれるより強い知覚力を感じる次第である。又、これまで経験したことや思考したことを、新しい言葉によってふたたび明りを灯され、未だ見ぬ新たな道標を示してくれるワクワク感がたまらない。

読書の秋である。色鮮やかな紅葉を見た後は心穏やかに本を開く...自然が織りなす色とは違う彩を味わうに違いない。

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燃える秋

2022/11/15
【第1686回】

トメちゃんのアニメと歌声がYouTubeで流れ始めました。タイトルは「らりるれロンドン」本名は留守晃(とめもりあきら)、シンガーソングライターであり俳優でもあります。初期のミュージカル「レ・ミゼラブル」では主要な役で出演しておりました。トメちゃんなかなかシャイで人付き合いも上手くなく、しかも自分の世界には拘りがあるっていうんですからおいらもとても心配していました。これだけの才能が溢れているのにじつにもったいないと常日頃思ってもおりました。そのうえここ3年コロナでライブはできないとなりゃ死活問題でございます。トメちゃんの歌がNHKの「みんなのうた」に日々流れて当然と思ってたおいらにとってはまさしく朗報。早速、拝見しましたがトメちゃんのセンスが画面いっぱいに拡がっておりました。テーマとしてもこの時代にぴったり、そしてトメちゃんの優しさがテンコ盛り...嬉しくなって何回も聴いちゃいました。

過去のライブで聴いた曲の中で、まだまだ珠玉の名曲が沢山あります。今回ほど完成度の高い画像を創るのには大変な労力だとは思いますが、第二弾、第三弾、待ちわびてる人は沢山いるはずです。そして、いつの日か全国ライブツアーなんかをやれるといいですね!

先ずは皆さん聴いて見てくださいな...きっと癖になりますよ。そしてお気に召したら両親、兄弟、友人、親戚、職場の仲間などなどに拡散してくれたら嬉しゅうございます。

トメちゃんのバラッド

2022/11/14
【第1685回】

先週の週末は村井國夫さんの歌を堪能してきました。場所は渋谷にあるセルリアンタワー東急ホテル2F( JZBrat SOUND OF TOKYO)なんともお洒落な空間です。

ダンディーな村井さんにぴったりでした。登場するやいなや愛の歌を連発、本人曰く暗い唄ばかりで...なんておっしゃっていましたが、あの渋くて甘い声で歌われると一瞬にしてロマンティックな世界に誘ってくれました。

近年、心筋梗塞、コロナで舞台を降板されるアクシデントがありましたが、紀伊國屋演劇賞個人賞、読売演劇賞優秀男優賞などを受賞され村井さんの役者としての魅力、実力をいかんなく発揮された3年間でもありました。勿論、トムの芝居にも立て続けに出演していただき芝居の質そのものをアップすることに大いに貢献、そして共演した若い俳優さんにも計り知れない刺激を与えてくれました。

村井さんの愛の歌を聴きながら思ったことは、このステージ本人の78年間に体験し感じた愛のメモリーだと思いました。様々な歌に思いを託し人前で歌うなんてなんと幸せなこと。そしてこの日集まったお客さんも、村井さんの歌を通してそれぞれの愛の思い出を今一度甦らせる一日となったことでしょう。

この日も奥様である音無美紀子さん、娘さんの村井麻友美さんが一生懸命にお手伝いなさっていました。國夫さんがこうやって元気でいられるのも家族の愛があってのことですね。

こんな愛に包まれ守られてる國夫さん、貴男が一番の幸せもんですたい。

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愛を歌う

2022/11/11
【第1684回】

今日も穏やかな一日になりそうです。都内の木々も秋色に染まりつつありますが本番はまだ先になりそうです。しかし、この時期の楽しみは日々変化していく木々の移ろいに、自然と目を奪われる時間を持てる喜びです。なんだかんだ言っても、今日も朝ご飯を頂き、清々しい音をバックに珈琲を味わい平穏な日常を持ち得ることに唯々感謝です。今この時にもウクライナでは、ロシアによる無法な侵略によって多くの命が失われています。世界の各地では自然災害も含め飢饉、飢餓の情報が流れない日がないくらいの危機的状態。

なのに、日本ではなんとも能天気な政治状況が続いています。瀬戸際大臣の更迭がなんとか済んだと思いきや、今度は法務大臣のアホとか言いようのない発言「朝、死刑のはんこを押して、昼のニュースのトップになるのはそういう時だけという地味な役職だ」おいおい葉梨じゃなくノウナシだろうといいたい。東大卒の元警察官僚、こんなのばっかりが大臣やってるんだから日本が良くなるわけがありませんがな...瀬戸際大臣辞めたと思ったら今度はコロナ担当大臣に就任なんてニュースも流れこれまた開いた口が塞がりませんがな。これからコロナの第8波が予想され危ぶまれてるのにこんな人に任せてたらまたもや瀬戸際に追い込まれそうな気がしませんか皆の衆?

先日の皆既日食ショー、多くの人が空を見上げる光景がなんと美しいのだろう...なんだかこのご時世、なんとなく気持ちも落ち込みうつむき加減な人を多く見かけていただけに嬉しくなっちゃいました。次の皆既日食は2035年の9月、おいらもなんとか生き延びて椅子に腰かけてじっくり鑑賞したいもんでございます。

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染まりゆく木々

2022/11/09
【第1683回】

これもちょいといい話かな...先日、京王線新宿駅改札口から出ると数人の人が通路に散らばった硬貨を拾い集めていました。誰ぞやの財布から硬貨が散らばったのであろう...それにしてもあんなに多くの人が必死に集めてる姿を見るにつけこの社会も捨てたもんじゃないとほっこりいたしました。と、おいらの足元にもなんと1円玉が転がっているではないか。早速拾って傍の女性に渡すと「私ではありません。落とした方...あれ、もう行っちゃいましたね。」あちゃ!手に取った1円玉どうすりゃいいんだと思案くれてたすぐ隣には、いつものホームレスのおっちゃんが投げ銭の器を置いて座っているではないか。その日はなんと立派なヘッドホンを耳にして身体を揺らしながらの待ち受け体制。おいらが手にした1円を器にチャリンと入れたいところだが、このおっちゃんなかなか威厳のある顔立ちしてるのでチャリンと同時に「こら、俺のこと馬鹿にしてるんか...1円で何買えるん?」と言わないまでも、そんな顔されそうなので止めました。仕方なく行き場を失った1円玉はとりあえずおいらのポッケに入れました。こんなことも考えました...交番に届けたらおまわりさんどんな対処をしてくれるんだろう?対面では失礼な言葉は返ってこないにしても内心「この人、少し頭変ちゃう...」と思われること間違いないでしょうね。

一番ちっちゃい1円玉からもいろんなドラマが生まれるんですね。まさしく街は激情、いつどこで何が起きるか分かりませんがな。ちなみにこの1円玉はコンビニで買い物した時、寄付金箱にチャリンと言いたいところだが、軽いので「お邪魔します」なんて感じで落ちていきました。1円玉のちょいとした旅日記でございました。

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皆既月食2022

2022/11/07
【第1682回】

先週は2本の芝居を観劇。1本目は文学座の「欲望という名の電車」、随分と昔に杉村春子、北村和夫、出演の芝居を観た記憶があります。この作品は文学座の財産ともいうべき芝居です。今回は出演者もがらりと変え今の劇団を支える人たちが奮闘していました。主人公のブランチが登場と共に口にする台詞「欲望と言う名の電車に乗って、墓場と言う名の電車に乗り換えて、六つ目の角で降りるように言われたのだけど...極楽というところで!」ニューオリンズの多人種が暮らす街の匂いがこの芝居の大きなポイントだと思います。1951年にエリア・カザン監督、ヴィヴィアン・リー、マーロンブランド主演で観た映画の印象があまりにも強力すぎて...なんともいえない色気と暴力性、そして滅び行く美学、こんな空気をどこまで出せるか?日本人が手がけるときの大きな課題だと思います。

2本目は小松台東という劇団が上演した「左手と右手」、主宰者が宮崎の出身ということもあり宮崎のある町を舞台にした物語です。どこにでもある物静かな日常が描かれる中に、言葉にならない感情が渦巻いて終末に暴発してしまう...何気ない日常を描くことほど難しいものはありません。普通に感じさせる表現ができた時が役者の芸としての到達点と言えるかもしれません。この劇団が目指しているところはそのあたりなのかな...

この息苦しい、なかなか出口が見えない世界、演劇の世界もこれに同調してる気配も感じます。そんな気分変えさせてくれるのがお祭りですね。今年も新宿恒例の花園神社の酉の市、商売繁盛、家内安全の熊手が飛ぶように売れてました。「福をかっこむ」といわれる縁起熊手の商いが成立すると、威勢の良い手締めの掛け声と拍手が境内に響き、なんだかおいらもおすそ分けしてもらった気分になっちゃいました。

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御手を拝借

2022/11/04
【第1681回】

昨日、文化の日はグラシアス小林の作品を池袋東京芸術劇場シアターウエストで観てきました。タイトルは「CARONTE」カロンテとは、ギリシャ神話に登場する冥界の渡し守のこと。作品の冒頭から千手観音らしき手の表現でたっぷりと見せながらフラメンコの踊りに持っていく前半。後半は地獄の亡者を登場させトスカ、女神ペルセポーナの舞を中心にバッハの受難曲の生演奏と共に、人間の持つ悲しみや痛み、欲望、希望そして愛を展開。

彼と会って45年、事あるたびにいろんな話をしたつもりであったのだが、こんなことを思考し表現したかったとは、ちょいとふいをつかれた感じがしました。しかし考えてみれば30年ものスペインに滞在し、自分のアイデンティティは日本人であり東北山形で育ったことから発する表現に拘ってたことは確かです。彼にとってフラメンコとは表現することのひとつの手段であって、彼が74年間生きて感じたことをアートにしたかったのでは...

それにしても74歳でフラメンコを踊るってことは大変なことでございます。いくつもの大病を乗り越え、こうやって舞台の立ち姿を観てるだけで感慨深いものがありました。

昨年はトム・プロジェクトの作品に俳優として出演してなかなかの評判でした。45年前スペインの地で二人して日々シナリオ創りに四苦八苦して「今日はこれでおしまい!」と投げ出しワインを浴びるほど飲んだあの日が懐かしい...夢であった映画は実現しなかったけど、こうやってともに舞台を創ってるんですから幸せもんですばい。

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都内も色づいてきました

2022/11/02
【第1680回】

ちょいといい話...先日無事公演を終えた「風を打つ」の出演者の一人いわいのふ健君から丁寧でお洒落な封筒で手紙が届きました。長い旅公演の感想とお礼の手紙でした。最後に追伸として、実は2日前に手紙を書いておりポケットに入れて郵便局へと向かう途中に落としてしまいこの手紙は2回目に書いた手紙であるとのこと。もし心優しい方が拾って下さり送ってくれたら手紙が重複してしまうかも...と記されていました。

なんとなんと心優しい方からその手紙が届きました。封筒の裏にこんなことが書いてありました。

 

こんにちは。通りがかりの者です。10月24日品川区後地に通りがかったときにかなり離れた私の前の自転車に乗った方のポケットから、この封筒が落ちました。懸命に追いかけたのですが、猛スピードについて行けず見失ってしまいました。切手は貼られていませんが多分、岡田様に届けられるはずのお手紙じゃないかと思いますので投函します。

 

なんと、この方が自腹で切手を貼っておいらのところに無事届きました。封筒だったので21円不足の通知の葉書も添付されてました。(勿論、この方の善意のバトンタッチを受け継ぎ21円切手を貼って投函しました)鉛筆で丁寧に書かれた文字と、62円と1円の切手を貼ったこの方がどんな方か?おいらいろいろと想像しちゃいました...男性?女性?年齢は?そんな思いを抱きながらおいらの心はポッカポッカになってきました。いやいや、久しぶりに人が人を思いやる温かい交流を手にした一日でございました。

こんな思いを誰しもが持って抱いていれば世界で争いなんか起こらないのにね...

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秋の薄暮