トムプロジェクト

2022/11/21
【第1687回】

米澤 穂信の作品「黒牢城」を読了。結論から言えば面白かった...というよりなかなか仕組まれた読み物、話の展開がミステリアスでついつい読まずにはいられない欲求をかきたてられる。歴史小説でありながらミステリ小説なんて贅沢な設定はなかなか成功しづらいなか、これは作家の才能以外なにものでもない。牢に拉致される黒田官兵衛の使いかたが絶妙である。この本の主役である村重と官兵衛の戦国時代を生き抜く武士としての人生観や世界観が丁寧に描き込まれていると同時に、ふたりの心理戦を交えたやりとりが、まるでその場に立ち会っているかのような緊張感がたまらない。

いい小説を読むと、おいらの頭のなかにあった言語化されていないなにかが、いまここに文章として再現されていることにとても感銘を受ける。それは、映像や音楽などと違って読んでいるおいらと分かちがたく結びついている。「美しい樹木」とあれば、それはおいらが見たもっとも「美しい樹木」と響き合い、「やわらかな肌」とあれば、それはおいらが知っている、もっとも「やわらかな肌」とほとんど同じなのである。それはリアリティというのとは違い、言葉という回路を通して、いつでもおいらに引き寄せてくれるより強い知覚力を感じる次第である。又、これまで経験したことや思考したことを、新しい言葉によってふたたび明りを灯され、未だ見ぬ新たな道標を示してくれるワクワク感がたまらない。

読書の秋である。色鮮やかな紅葉を見た後は心穏やかに本を開く...自然が織りなす色とは違う彩を味わうに違いない。

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燃える秋

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