■スペイン＆フラメンコの本『パセオ』（1991年4月号）書評

パセオ読者にとって、スペインに魅了されるということは、目新しいことでも何でもない。でも、今この時期に「変わるな！スペイン」という大胆なほどにストレートな、この本のタイトルを見てピーンときてしまった人は、もう、これは性だと思ってあきらめよう。すぐにこの本を注文してください。
と、いきなり強引な展開をしてしまいましたが、こういう強引さ、結構好みなんだよね、と不本意にも感じてしまった方、あなたをこの本の読者として認定します。
はっきりいって、この本は読者を選んでいる。著者の個性が行間から溢れていて、読んでるうちに活字までが踊りだし、自己主張しはじめる。
個性なんて今時、なんのインパクトも持たないが、この本に溢れている個性は、久々にスキャンダラスな匂いプンプンの毒気の強いヤツ。読む方も、半端な感性じゃあ毒気に当てられるだけ。
「ポーカーフェイスは通用しない国」スペインの、「普段着のままの素顔」を愛する著者が、思いっきりの喜怒哀楽スペイン道中を、何の飾り気もてらいもなく、まくしたてるように語っている。その語り口は、ほとばしるばかりにパッショネイト。なのに、どこか飄々としていて奥深い。エッセイというには、あまりに型破りで、それでいて限りなく優しい。そう、毒気の裏側には、たいていとびきりの優しさがあったもんなんだ。そんなあたり前のことを、なぜか懐かしい心持で感じてしまった。
正直云って、私はウブで純な、この著者の感受性が好きだ。でも安易な美辞麗句で誉めたくなんかないんだ。その気持ち何となくわかるなあと、素直に感じてしまったあなた、やっぱり読むしかありませんねぇ。

― 　キリコ