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【第363回】


昨日、老舗劇団の芝居を観てきた。信濃町にある文学座アトリエ公演「ナシャ・クラサ」舞台はポーランド北東部の小さな町。この町で実際に起こったユダヤ人大量虐殺事件に関わった町の人達の人生を、1920年代から2003年に至る長い年月にかけて語る芝居である。まさしく「演劇で歴史は語れるか」という命題に挑む意欲的な試みであった。休憩を入れての2時間40分。副題に、私たちは共に学んだ−歴史の授業・全14課―と謳うに相応しく古い簡素な教室(板の床と古びた小さな椅子と机のみ)で10人の登場人物が見聞きした事実を、時には強梁に、時には悲哀に満ちた口調で語り続ける。ホロコースト演劇でもなく、ユダヤ演劇でもなく、この芝居から浮かび上がってくるのは、生きることは時として加害者にもなり被害者にもなるという厳然たる歴史の厳しさである。歴史に翻弄され生きると言うことの残酷さを強く感じさせてくれる。
それにしても、この重いテーマに取り組む文学座の姿勢(この演出をした高瀬久男さんの意向だと思うのだが)に拍手を送りたい。正直、この手の演劇は採算からして難しい試みである。そこにあえてチャレンジしていく老舗劇団の底力、演劇が果たす役割を熟知したメンバーの厚さに改めて感心した次第である。
様々な芝居が日々上演される東京は、一体全体なんて街なんだ…


 





ナシャ・クラサ


 

2012/5/23  岡田潔