【第470回】
富士山が世界文化遺産に登録されるそうだ…富士山と言えば、想い出すのが博多末広町の銭湯の浴槽上部の壁に描かれた富士山だ。日本一高い富士山を仰ぎ見ながら、湯船に浸かる気分は子供ながら贅沢なものだった。湯煙に霞む富士山もロマンチックで、いつの日かホンモノの富士山を目にしたいと手を合わせた。そのゆったり気分に水を差したのが入れ墨のおっちゃん…背中の般若の顔が怖かった。子分みたいなアンちゃんが背中を流し、広沢虎三の浪曲をブルドッグみたいな顔と声で唸られたら、子供のおいらもシュンとしてしまう。子供同士で騒いでいようものなら、「やかましかぞ!」と叱られたものだ。そんな時は、富士山もなんだか萎縮して小さく見えた…でも、銭湯は町の人達の安らぎの場であり、情報交換の場でもあった。金持ちも貧乏人も、この場では裸の付き合い五分と五分、本音の会話が出来る憩いの場であったはずだ。そんな雰囲気作りを演出したのは、やはり書き割りの富士山であった。
スペインで長期間暮らし、帰国する際、機上から富士山の姿を見たときの感動は格別のものがあった。「日本人で良かった!」やはり富士山は日本人の原風景である。
|