トムプロジェクト

2016/10/03
【第873回】

借景でこの芝居は観客の心待ちを鷲づかみしている...そんな芝居「楽屋」を観てきました。台東区柳橋に、嘗てある芸者さんが住んでいた自宅をギャラリーにした古い一軒家の二階。階段を上がると芝居を上演する一室があった。日本家屋の窓の引き戸が開けられ、向こうに見えるのが隅田川、この川を行き交う遊覧船、その上には高速道路を走る車、上手の方には総武線を上下交互に駆け抜けるJRの黄色の車両。そして、この季節強烈な匂いを漂わせる金木犀の花がこちらに語りかけてきそうな存在感...芝居が始まる前からこの風景を魅せられちゃお手上げでございます。窓際にしつらえられた長い化粧台が、眼前に広がるリアルな風景との、彼岸と此岸という対をなしている設定から芝居は始まるのである。嘗て、この楽屋に出入りしていた亡霊女優が現実の風景を前にして(観客には背を向けている)メークをしている冒頭は、この見事な借景があって心待ちした観客のボルテージは一気に上がるって訳なのさ...時空間の魔術師、唐十郎を師とする鳥山昌克演出の見事な仕掛けを堪能させて頂き、浅草橋駅付近で引っ掛けた一本百円の焼き鳥と、ハイボールが何故か愛おしく感じました。

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会場入口

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