トムプロジェクト

2018/06/27
【第1107回】

米本浩二著「評伝 石牟礼道子 渚に立つひと」読了...いやいや、石牟礼さんが若い頃3度の自殺未遂をやってたなんて初めて知りました。幼少の頃、水俣の娼婦のおねえさんと遊び可愛がられたこと、社会的に地位の低い労働者と身近に接したことが、その後の彼女の生き方を決めたのかもしれません。この本のタイトルにもなっているように少女時代から海辺の渚に立ち、波の波動に宇宙のすべてを感じ見ていたに違いありません。近くの子供たちと一緒に磯篭で貝を採り、潮の満ち引きで地球が生きてることを実感する。『かすかな渚の音、わきいづるトロイメライ。天草の島めぐりめぐり遂の果は不知火の火にならむとおもふ』14歳の時に記した「不知火」の書き出しである。不知火のほとりに住む14歳の乙女の少年へ寄せる思い思春期の心の揺れが、寄せては返す波を思わせる自然なリズムで描かれている。そしてこう続く「ああ人間はこの世で一体幾辺、望みを絶つのを繰り返すのでございましょう。限りない絶望の果て、一つを捨てる為に人間は美しくなると申します。その度に悲しみが何とはなしに絹糸の様に、その細い故に切れることなく続き、その絹糸が何時しかに一つの調べを持ち、その調べを孤独の底で奏でる時に、人間は、美しいものへ近づくかもしれません」穏やかな言葉の裏に、彼女の中に激しく渦巻く情愛を読み取ることもできます。

今年亡くなった石牟礼道子さんの著作から、これから人が人として生きるヒントがたくさん散りばめられている気がしてなりません。文学を超え、生きとし生けるものが共生できる地球にならなければという遺言の数々...おいらが敬愛する松下竜一さんと等しく、時折ページをめくりたくなるバイブル書です。

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本日事務所ベランダからの景色

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