トムプロジェクト

2017/03/06
【第929回】

土曜日は世田谷パブリックシアターで開催された、グラシアス小林さんの『Swan Lake ~闇のロッドバルト~』を観劇...彼とは40年来の友人である。スペイン滞在中は家族ぐるみで付き合い、その当時3歳の息子、海来君はスペインで画家として活躍している。グラシアス小林さんは何度もの死線を乗り越え68歳になる現役ダンサーである。フラメンコダンサーは60歳を越えると現役ダンサーとしては、かなり厳しい職業である。にもかかわらず新しいジャンルにチャレンジする彼の表現者としての勇気に拍手を送りたい。今回の公演は白鳥の湖を彼なりに解釈し、スペインから踊り手、歌い手を招聘し企画、演出、振り付け、出演をこなさなければならない大仕事である。おいらも幕があると同時に、彼との長年の想い出が交錯し、作品の良し悪しと言うよりも、彼が繰り出す繊細な手足の動き、そして異国の地で生きてこそ味わった喜怒哀楽から滲み出る表情を見逃さず観ることに集中した。彼と過ごしたスペインでの濃密な時間が、まさしく彼の一挙手一投足に集約されていた気がした。それにしても休憩を挟んでの2時間、脳と心臓に病を抱えた満身創痍の肉体が鬼気迫る威力で観客を魅了したに違いない...終演後、楽屋を訪れるといつものような穏やかな顔でケッちゃんありがとう!この顔と踊るときの顔の落差こそ、彼の表現者として蓄積した独自の原動力なのである。

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グラシアス小林

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