トムプロジェクト

2017/07/12
【第975回】

こまつ座「イヌの仇討」を観劇...井上ひさしさんが29年前に書いた戯曲である。演出は劇団桟敷童子の東憲司さん。あの松の廊下の刀傷事件以来300年間、悪者にされた吉良上野介にスポットを当てた作品である。作者はこの人物の行く末に、何とも言えない憐憫の情を抱き赤穂浪士が討ち入りしてからの二時間、逃げ隠れた物置で過ごす上野介の側に立った立場でこの時代背景に生きる心情を吐露させる。戯作者井上ひさしの独壇場である...彼の描く登場人物は名もない庶民、歴史の闇に蠢く脇役などなど、決して語られなかった人物に命を吹き込み権力者を痛烈に批判する。彼が亡くなった今尚、何度も再演を繰り返すことが出来るのも、いつの時代も権力を監視してる視点を持っているからである。今回の都知事選然り、名も無き庶民は時の為政者の驕りに対してはとても敏感なんです...考えてみれば、日本人好みの忠臣蔵の話にしたって、時代と共に時の権力者が少しずつ話を捏造し美談にしたに違いありません。だって仇討ちしたあげく全員切腹なんて悲劇じゃございません。映画にしろTVにしろ討ち入り後の晴れやかな行進に拍手喝采...主君(会社)のために命を賭けることがどんなに美しいことか!忠誠心を煽るにはもってこいの素材です。
この点、今回の芝居は既成事実にメスをいれ人間ドラマにしてる点が、さすが井上ひさしさん。芝居は歴史さえ書き換えることが出来る代物なんですね!

975.jpg

7月の夕焼け

<<次の記事 前の記事>>