トムプロジェクト

2019/06/03
【第1224回】

3度目の「海辺のカフカ」観てきました...いや、改めて、蜷川幸雄さんの演劇的才能を再確認できました。演劇でしかできないことを実現するだけでも、大変な労力とお金がかかるのは自明の理。やりたいけどやれないのも事実...美術、音楽、小道具、衣裳、どれをとっても絵描きになりたかった蜷川さんのセンスが光る。おいらが知ってる昔の蜷川さんはアングラ演劇を裏切り資本に魂を売った演劇人というイメージがあった。がしかし、理想の演劇を実現するために資本家を巻き込み次々と斬新な舞台を創っていった彼はまさしくアーチスト。売れっ子タレントにも徹底的にダメをだし、一人前の舞台役者に仕立て上げる手腕もたいしたものだ。これなら少々、お金出しても納得。だって高いお金出してガッカリなんて芝居が多いのにうんざりしているなかで救われる思いだ。ヒロイン役の寺島しのぶさんは健闘してますな。初演は田中裕子、再演は宮沢りえ、今回の寺島さんが一番あってるかな。歌舞伎の血を受け継ぎながらも、映像の世界でも大胆な表現力で観る者を巻き込んでいく女優魂がキラリと光る。様式美を持ちながらも、自分をさらけだしていく表現者の葛藤がこの芝居の資質にも合ってる気がしました。昔からの友人、木場克己も今年古希を迎える年齢ながら若々しくも的確な演技を魅せてくれました。狂気を演じる新川将人も一段とヒートアップ。そしてトム所属の鳥山昌克はカーネル・サンダースを愛嬌たっぷりに演じておりました。蜷川さん描く万華鏡の世界を心地よく遊べる役者と、窮屈に見える役者、舞台に立つ役者は皆横一線。アップなんてありません。役者の演技一つ一つを観客がフォーカスしていくのでございます。舞台の上は、まさしく役者にとって残酷な場所でもあり、脚光を浴びることが出来る絶好のチャンスでもあるのです。

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さてどうしよう...

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