トムプロジェクト

2021/08/18
【第1517回】

久しぶりに青空を見させていただきました。雲の間に拡がる青空を見るだけで、何だかほっとし今日も生きられるなんて思う気がしてしまいます。人間なんて身近にある幸せを当たり前のように享受してるのだが、自然が織りなす気候の微妙な変化でその有難みを改めて気づかさせてくれてるんですね...

小池真理子さんの新作「神よ憐れみたまえ」570ページの長編一気に読んじゃいました。10年かけて書き上げたこの作品、作者の人生観が見事に織り込まれている。主人公は決して普通の人ではないのだが、主人公を取り巻くひとたちとの出会い、別れを通して普遍的な人生の形が浮かび上がってくる展開が見事だ。ミステリー小説と思わせながら登場人物ひとりひとりのキャラクターに魅了されていく人間ドラマ。

2020年1月に最愛の夫であり同じ直木賞作家である藤田宜永さんを亡くし、その悲しみの中で書き上げたこの作品は夫へのレクイエムともいえる作品。生と死、そして老い、夫婦で長年住んでいた軽井沢での二人で過ごした日々も含めて作者渾身の作ではなかろうか。

この作品、多分映像化されるのは間違いないと思うのだが正直言って勘弁してほしいな。未だに小説を凌駕する映像作品は「砂の器」(原作・松本清張、監督・野村芳太郎)以外、おいらのなかでは見当たりません。言葉が持つチカラを改めて考えさせてくれる文学に出会ったときの喜びはそりゃ天にも昇る心地でございます。

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久し振りの青空

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