トムプロジェクト

2019/06/12
【第1228回】

6月10日、錦糸町すみだパークスタジオで今年の2月27日に73歳で亡くなったベニサン・ピットの支配人であった瀬戸雅壽さんのお別れ会があった。ベニサン・ピットは戦前染色工場を営んでいた株式会社紅三が、1985年に染色工場のボイラー室を改装し江東区にオープンした下町の劇場である。紅三の経理部長であった瀬戸さんが蜷川幸雄さん演出の「タンゴ・冬の終わりに」を観劇し芝居の世界にのめりこむことになる。採算を度外視して自分が気に入った劇団、集団に場所を提供する男気で生きた人であった。蜷川スタジオ、二兎社、TPT、そして亡くなるまでとことん面倒をみた劇団桟敷童子。桟敷童子の人たち全員が、衣装、大道具、小道具をすべて手作りし、役者として演じる姿に瀬戸さんが思いを注ぎ込むのも良くわかる。ひたむきに生きる演劇人に、これだけ愛情を注いだ人は居ないのではないか。トム・プロジェクトも2本の作品を上演。2009年にはベニサン・ピット最後の公演「かもめ来るころ」でフィナーレを飾らせていただいた。公演中に豪華な鮨を何気なく差し入れしてくれた瀬戸さんの笑顔が今でも印象に残っている。

この日に集まった人たちの言葉の端々に、怖い中にも一本筋が通った優しさと気っぷの良さで演劇人を虜にしたことが良く分かった。一人暮らしであることから、死後の始末もすべて指示し迷惑が掛からないようにしていたそうだ...瀬戸さんの人生はあっぱれ!

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京王あじさい電車

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