トムプロジェクト

2019/11/11
【第1277回】

「風を打つ」昨日で4ステージを終えました。終演後、何人かの人が今年のベストワンとか言ってくれてます。芝居が観客にきちんと届いてることが一番嬉しいです。先日水俣に長年関わってきた水俣フォーラムの方が観に来て、こんなメールが送られてきました。

 

水俣病患者・杉本栄子さん一家をモデルにした舞台「風を打つ」の初日公演を昨晩見てきました。正直、予想外に素晴らしかった。みんな泣きました。一緒に行った4人以外に見覚えのある人に会いませんでしたから、客席は水俣病についてよく知らない人がほとんどだったと思われますが、あちこちからすすり泣きが、時には笑い声が聞こえていたのは、この舞台のメッセージがそんな人にも届いていた証拠でしょう。

杉本さんのお宅を模した舞台には、栄子さん、雄さん、肇さん夫妻、実さんを演じる5人以外は登場しませんし、時代も1990年初頭のある2ヶ月ですから大変シンプルです。悪役もいなければ、思わせぶりな映像も使いません。もちろん、栄子さん役の音無美紀子や雄さん役の太川陽介が水俣病の患者さんに見えたわけではありません。こんなに早くしゃべり動くことは、患者さんにはできないことですから。それでも、あの人たちが言いたかったことを甦らせている。そしてそれは、私たちの日々の喜怒哀楽と同水面でつながっている。だから終演後、拍手が鳴り止まなかったのでしょう。

 水俣病を題材にした近代演劇は10本以上作らていますし、そのほとんどを私は見ました。例えば砂田明の1人芝居「天の魚」があります。それは確かに多くの人の胸を打つものでした。しかし、この作品から原作「苦海浄土」の力と支援者としての砂田さんの存在感を引いてしまえば、オリジナルな舞台表現としての力はどれほどあったかと考えてしまうのです。しかし、今回の舞台は劇作家ふたくちつよしの書き下ろしで自身による演出です。しかもこの脚本のほぼ9割は事実で、構成上付加されたフィクションはまことに僅かなのです。でありながら、これほど私たちの心を揺さぶるのは、見事です。もしかしたら、私がこれまでに見た「水俣病を描いた近代演劇」としてはベストと言い得るかもしれないのです。

しかし大変残念なことに、この舞台は今月17日(日曜日)で終演ですし、今後の公演予定もありません。水俣病の患者たちの訴えに耳を傾けたいと思っていらっしゃる方はもとより、一般の方もこの舞台なら仕事を休んでも六本木・俳優座に駆け付ける価値はあります。そうして特別な地位や学歴、権力金力から遠いところにあって、己が肉体を用いて自然に働きかけ暮らしを紡いできた人びとの悲しみと勇気に触れてもらいたいと願わずにはいられませんでした。

​騙された思って見に行って下さい。よろしくお願いいたします。​


​おいらが語るより、この方の思いがそのものズバリです。本当に騙されたと思って劇場に来てくださいな。家族の、そして日本、世界の、もちろん人間一人一人の再生の物語です。

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ホトトギス
(秘めた意思)

 

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