トムプロジェクト

2024/02/02
【第1852回】

戦後すぐ東京都台東区柳橋の隅田川沿いに建てられた、旧市丸邸を2001年にルーサイトギャラリーとしてオープンした古民家での朗読会を観てきました。個性的な俳優、鳥山昌克さんが数年前から企画している出し物です。今回は唐十郎「雨のふくらはぎ」泉鏡花「絵本の春」の朗読劇。二人の女優さんに囲まれて楽しそうに演じていました。唐さんの作品になるとまさしく水を得た魚、そりゃそうでしょう、20年間、唐組で唐ワールド漬けの日々だったんですから...唐作品に度々登場する鶯谷周辺の夕焼け、下谷万年町のいかがわしくも耽美な世界。これだけは身近に体験した人と心中する覚悟がないと身につけることができません。

役者にとっての存在感は大切な要因です。それをどこで獲得できるのか?勿論、まず第一は日々の生き方、何を視、何を感じ、己の中でいかように発酵させていくか。そして次に誰と出会い共同作業していくか。優れた作家、演出家と出会い、共に芝居を創ることが出来ることは千載一隅のチャンスだと思います。あとは己の努力あるのみ。

鳥山昌克さんと唐さんとの出会いも偶然ではなく必然ではなかったかと思います。これからも唐十郎の魅力を伝えていってほしい役者さんだと思いました。

それにしても、朗読中に目にする背景が素晴らしい。隅田川を行きかう屋形船、総武線を走る電車の音、高速道路の車の列、リアルタイムのなかで粛々と進行する幻想の世界は、とても贅沢なひとときでした。

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如月

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