トムプロジェクト

2024/04/03
【第1875回】

おいらが芝居の世界に入るきっかけになった俳優さんが先月亡くなった。坂本長利さん、94歳の人生でした。おいらが20歳の時、大学に入学したものの例の学生運動が激しく大学も閉鎖状態。何か面白いものないかな?なんて気持ちでふらりと覗いたのが、代々木にあった代々木小劇場。山本安英さんを中心に活動していた「ぶどうの会」解散後に結成した小劇場運動の先駆け集団でした。ここで観た宮本研作「ザ・パイロット」観劇後、こんな面白い世界があったのかと大いに刺激を受けました。その後、この集団に所属していた坂本さんが演じたひとり芝居「土佐源氏」にもビックリ。民俗学者宮本常一の「忘れられた日本人」に登場する元馬喰(牛馬売買人)の一代記をロウソクの灯りだけで演じる坂本さんの姿に役者魂を感じた。最後の台詞「男という男は、わしにもようわからん。けんど男が皆、おなごを粗末にするからじゃろ。わしはな、人は随分だましはしたが、牛だけはウソつけんかった。おなごも同じで、かまいはしたが、だましはしなかった。」盲目の乞食が語る純粋な心の風景を見事に演じる俳優とはいったい何者か...しかも2,3メートルの至近距離で。

その後、坂本さんと同郷(島根県出雲市)の友達と同席し語り合ったことがある。坂本さんのゆったりした語り口と、おいらの酔いも加わって居眠りしてしまう失態を犯してしまう。

目が覚めた時に、にっこりと笑顔で返した坂本さんの佇まいが今でも忘れられない。

1967年~2023年まで海外も含めて1223ステージを重ねた「土佐源氏」。まさしく芸能の原点を感じさせる見事なひとり芝居でございました。        

                                     合掌

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七分咲き

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