2023/04/14
【第1741回】
星野博美著「世界は五反田から始まった」読了。著者の実家の町工場を舞台に、祖父、父を中心とした家族の歴史が描かれる。戦時中の東京大空襲、当時の国家の誤った指示で悲惨を極め人災でほぼ全滅したような満蒙開拓団の話。いつの世も、戦争は一部の権力者の手によって始められ、最終的には無辜の民が犠牲者になるというお決まりのコースに対し、星野さんは、浅はかな有力者や権力者と距離を置き、孤立しながらも生き延びる方法。重大な局面に立たされた時の、判断力。頼る人も組織もない場所にたった一人取り残された時、しなければならない交渉術。豊かさとも感動とも程遠い、ずる賢さ。この点を強調しながら話を進めていく。考えてみれば、誰しもが己の日常の基盤からこそ戦争を問い直すことが必要かもしれない。そうしないと、突然悲劇が訪れ対処の仕様が無いなんてことになっちゃいますぞ!と示唆してくれてる本でもありました。
この作家の本、何冊か読み、文体の軽妙さ大胆さには面白さを感じていました。でも今回の著作が第49回大佛次郎賞を受賞するとはちょいと意外でした。
この本を手にしたのも芝居にできる素材になるのではとの思いからでした。勿論、芝居とは関係なく読書の楽しみから本を手にはするんですが、仕事柄どうしてもついつい芝居にならんかな?と考えちゃうのも一種の職業病ですかね...
そんなこんなしているうちに明日から「風を打つ」の稽古が始まります。いやいや、月日が流れるのがこんなに早いとは...歳のせいかな?
野に咲くシャクヤク