トムプロジェクト

2022/07/29
【第1645回】

戦前の日本映画の名作「無法松の一生」を鑑賞。1943年制作、稲垣浩監督、伊丹万作脚色、宮川一夫撮影という最高のスタッフに恵まれ、主人公無法松を坂東妻三郎(バンツマ)が見事に演じている。戦後に三國連太郎、三船敏郎、勝新太郎なども演じているがバンツマの富島松五郎がぴったりだ。純粋無垢でありながら直情径行という役柄なんだが、他の三人の役者は何か一癖二癖ありそうでこの役にしっくりこない気がする。特にこの映画の軸になっている陸軍大尉吉岡家の未亡人よし子に淡い恋を抱く心情をバンツマは繊細に演じている。他の役者さんではなんだか不自然な気がしてならない...未亡人に本気になっちゃうんじゃないかしら?

この映画で目を引くのは、宮川カメラマンが人力車の車輪を何度もオーバーラップさせ主人公の切ない思いを重ね合わせている点である。この時代にしては、かなりシュールな手法ではなかろうか。戦後、『羅生門』『雨月物語』などの傑作を手掛けるのも十分うなづける。

この映画のヒロイン吉岡よし子未亡人を演じる園井恵子が清楚な美しさを魅せてくれる。1930年に宝塚少女歌劇に入団。1942年、宝塚退団後は新劇女優に転向。本作への出演は、候補になっていた女優が妊娠したためのピンチヒッターだったが、映画の大ヒットによりその名は一躍全国に知れ渡った。1945年8月6日、当時所属していた移動劇団「桜隊」の活動拠点だった広島市で原子爆弾投下に遭い、同月21日に32才で死去した。

ここにも戦争による才能豊かなアーチストの喪失を知ることが出来る。

おいらの映画少年時代の悪役スターだった月形龍之介、日活で活躍していた長門裕之なんかも出演しており、映画全盛時代を思い起こさせてくれる。

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神田川に全員集合

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