トムプロジェクト

2023/11/22
【第1825回】

作家、堀田善衛さんが1997年7月、60歳になった日からスペインに住み始めて430日に渡る日々を記した「スペイン430日~オリーブの樹の陰~」を読み始める。読んでいるうちに、おいらがアンダルシアの小村サロブレーニャに住み始めたことを懐かしく想い出しました。 

最初にスペインに行き、次に来る機会があれば必ず住もうと決めた村がサロブレーニャでした。グラナダ県サロブレーニャ村。グラナダからコスタ・デ・ソル(太陽の海岸)に山越えバスで一時間半南下すると海を眺めるような白い鯨の形をした巨大な塊が見える。この塊がサロブレーニャだ。砂糖きび畑と海を持つこの村は、ほぼ自給自足で生活している。

この村に着き先ずは家探し。最初に借りたマンションは家財道具付の2DK、もちろん目の前は地中海を前にしたベランダ付。家賃は日本円にして1万5千円で言うことなし。喜び勇んで住み始めたが、日本人にとって生活の一部である浴槽に問題が発生。電気でタンクの水を温めるため、大きな浴槽の三分の一溜まれば、タンクが空になってしまう始末。浴槽に身を沈めても精々身体の半分しか浸かれない。そりゃそうだ、スペイン人には湯船にゆったりと身を横たえる習慣がない。ここはスペイン流に妥協も考えたが、長く住むことを考えると、ここはどうしても譲れないところだ。管理人に契約解除を申し出る。すると、善良そうな管理人ぺぺおじさん「何とかしてみる!」この善意を無碍にも出来ず、様子を見ることになった。次の日から修理道具一式を持ち込み必死の修理を試み、シャワーのお湯を出し「ほら、こんなに熱いお湯が出るでしょう」と自慢げにのたまう。僕もしっかりと言い返す。「熱いお湯はいい。問題はこの浴槽にたっぷりお湯が溜まらんといかんのよ...」と日本人の習慣を話すのだが、ぺぺおじさん不思議そうな顔をして納得がいかず、みずから上半身裸になり、石鹸をつけてシャワーを浴び「こんなに綺麗になるのに、なんの問題があるの?」洗えば綺麗になるのは当たり前、問題はねえ...僕もすかさず反撃を取るべく浴槽の中に入り横になり身振り手振りで説明するのだが、ぺぺおじさん「なんで浴槽の中でこんな格好しなきゃならんのよ...」まるで埒が明かない様子。自分が納得いかない以上、前家賃を返すわけにはいかないと渋い答え。そりゃそうだ!ここはスペイン。異質の文化の違いを目の当たりにしてサロブレーニャの生活が始まった。

今日みたいな青空と、紅葉を眺めていると第二の故郷スペインで生活していた日々が眼前に果てしなく拡がってくる。

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今日の紅葉

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