トムプロジェクト

2023/11/08
【第1819回】

山本顕一著「寒い国のラーゲリーで父は死んだ」読了。この本は、2005年にトム・プロジェクトで公演した「ダモイ~収容所から来た遺書~」に登場する亡き父山本幡男さんの長男が、お父さんの遺した言葉を抱きしめて書かれた本です。山本幡男さんは第二次世界大戦後、旧満州で降伏した日本人兵士等約60万人がソ連シベリア領内に連行され、極度の寒さや飢えの中で過酷な強制労働をさせられた一人です。多くの人が帰国する中、9年間もの長い収容所生活の末、帰国の願いも空しくハバロフスクの収容所で病死しました。

収容所仲間に信頼が篤かった山本幡男さんの遺書を仲間が口移しで覚え、帰国した際に遺族に伝える感動的な話を、是非舞台化したいと思ったときに逢いに行ったのが顕一さんでした。大学教授を退職されていた時期で、大変穏やかな方で即上演の許可を頂きました。上演中にも何度も観に来てくださって感謝の言葉を述べられていました。そんな顕一さんの両親への思い、兄弟に対する責任感、この本を読んで改めて顕一さんの苦悩と強い信念を思い知らされた次第です。

4人の子供たちへの遺書には万感の思いが込められています。

 

君たちに会えずに死ぬることが一番悲しい。さて、君たちは、之から人生の荒波と闘って生きてゆくのだが、君たちはどんな辛い日があろうとも光輝ある日本民族の一人として生まれたことに感謝することを忘れてはならぬ、日本民族こそは将来、東洋、西洋の文化を融合する唯一の媒介者、東洋のすぐれたる道義の文化、人道主義を以て世界文化再建設に寄与し得る唯一の民族である。この歴史的な使命を片時も忘れてはならぬ。また君たちはどんなに辛い日があろうとも、人類の文化創造に参加し、人類の幸福を増進するといふ進歩的な理想を忘れてはならぬ。偏狭で驕慢な思想に迷ってはならぬ。どこまでも真面目な、人道に基く自由、博愛、幸福、正義の道を進んで呉れ。最後に勝つものは道義であり、誠であり、まごころである。

 

未だ戦争が止まない今、この遺書の言葉の持つ意味は重い。

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獲物は見つかったのかな?

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