トムプロジェクト

2024/05/02
【第1887回】

太宰治賞2022年受賞作・野々井透著「棕櫚を燃やす」読了。久しぶりに文学っていいなと素直に思いました。淡々と過ぎていく父と娘二人の会話が繰り返される小説なのだが、周りの風景と三人の心情が寂しさ、切なさ、孤独感を超越して他の何よりも温かく愛を感じさせていく言葉の選択がまさしく文学。
時折出てくる「むるむる」という擬音語。これだけ言葉を選びながら、尚表現できない言葉を身体感覚として表現したかったのだろうか...余命幾ばくもない父の姿を、まるごと自分のこととして語る主人公に深い悲しみと祈りを感じる。
小説を読みながら、バックにフランス室内楽作曲家フォーレ、ドビッシーの曲が流れてくるような不思議な読書体験でした。
「からだを洗う女のひとたちは、湯上がりのひとたちよりも、どこか寂し気で孤独に見えた。自分の髪やからだを洗う姿は、叶わないなにかを願うような姿に似ていて、湯気の中にその想いが浮いているようだった。」
日常の中に淡々と流れる命を感情に溺れることなく、慈しみながら遙か遠い宇宙から映し出しているかのようにも思えてくる文章だ。
明日から後半のGW。天気も良好、リフレッシュするには最適な時かも知れませんね。

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5月5日には泳ぎますからね...

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