トムプロジェクト

2024/06/03
【第1899回】

先週の金曜日は隅田川沿いにある柳橋のルーサイトシアターで、鳥山昌克さんのひとり語り芝居「高野聖」を観劇。幻想文学の巨匠泉鏡花27歳時の代表作です。旅する修行僧が、飛騨の奥深い山中で出会った艶めかしい婦人との、奇妙な怖い体験を語った幻想小説。山中の情景描写が美しく、まるでその場にタイムスリップしたような感覚になり、日常から非日常に誘われる感覚が心地よい。しかしその一方、患部に触れると人の病が軽くなる、息を吹きかけた人を動物にしてしまう等の特殊能力をもつ婦人の不思議な力に魔性を感じる恐ろしさを感じてしまいます。

この作品を選択した鳥山さん、師匠である唐十郎さんの影響が大いに影響していると思います。理性では決して解決できない感覚、官能の世界に生き物の本質を見出さそうとする作家に魅入られてしまう役者が己の肉体で具現化しようとするさまがとてもスリリングでした。

このルーサイトシアタは昭和初期に活躍した芸者歌手、市丸さんが住んでいた場所でもありました。芝居の最中に隅田川を行き来する屋形船、その上を走る総武線の車両と音、それを取り込んで進行するドラマは、まさしく幻想と現実世界が交差するなかなか味わえない時空間でございました。鳥山さんが隅田川を眺める横顔がとっても素敵でした。

この貴重な場での次回公演、楽しみにしています。

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ルーサイトシアターからの眺望

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