トムプロジェクト

2024/06/05
【第1900回】

劇団東京乾電池アトリエ公演、柴田鷹雄出演による「風のセールスマン」観劇。この芝居はトム・プロジェクトで2009年に柄本明ひとり芝居で上演した作品です。柄本さんとは若い頃からの知り合いで、2002年には山崎哲作・演出「また、あした」で大久保鷹さんとの二人芝居に出演していただきました。2003年にはひとり芝居「煙草の害について」でロシア公演も実現させました。

柄本さんと酒を酌み交わすたびに、「別役実さんの戯曲でひとり芝居やれたらな...」なんて話から、おいらが別役さんに頼み込み実現したのが「風のセールスマン」でした。日本の不条理演劇の第一人者である別役さんは、怪優柄本明の個性を上手くとらえ見事な作品に仕上げてくれました。紀伊國屋ホールでの公演は連日満員の客で、柄本明という俳優の魅力を十分に堪能していました。可笑しさ、哀しさ、狂気、しがないサラリーマンの哀歓を柄本流演劇スタイルで、舞台上を所狭しと躍動していました。

今回の東京乾電池の若手俳優である柴田さんも大健闘していました。この戯曲を自分のものにするなんてことは至難の業だと思います。今回は柄本さんが演出を担当し、とことん追い込みながら創り込んだのではなかろうか...終演後の座長柄本明は?「俺、もう一回やってみようかな...」改めて戯曲が持つ圧倒的な魅力に、再チャレンジの気持ちが沸々と込み上げて来たのではなかろうか?

役者にとって生涯を通して「この戯曲は誰にも渡したくない!」なんてことは、そうそうあるものではございません。この「風のセールスマン」こそ舞台役者としての柄本明の唯一無二の作品に違いない。

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水無月の道

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