2023/10/06
【第1808回】
2023年第169回芥川賞受賞作、市川沙央さんの「ハンチバッグ」読了。43歳になる著者は筋疾患先天性ミオパチーによる症候性側弯症および人工呼吸器使用・電動車椅子当事者でもある。読みだした途端に、ミオパチー患者の主人公がハプニングバーのエロ記事を書いているところ始まるのだからおいらも度肝を抜かれる。舞台となっているグループホーム、医療器具などの描写が緻密であると同時に、主人公の肉体感覚の描き方が、彼女に繋がれている器具の一つ一つの感触や体温と機密に接続しており、文章の描写力に圧倒される。その中に、彼女が紙書籍を読むのに難儀しているために電子書籍を「あれは本ではない」と主張する人たちを揶揄する件は、なるほど説得力がある。
全編を貫くものは安易な共感を決して許さないという姿勢だ。綺麗ごとでもない倫理でもくくれない人間それ自体を丸ごと小説に表現していることに著者の強い意志を感じる。
このなんとも予測しがたい時代に、書き手も含めどんな作品が出てくるのか?これまでの常識と非常識の捉え方、価値観も真逆になるかもしれませんね...でも人の優しさ愛そして感謝の気持ちだけはいつの世も不変であることを信じたい。
「沼の中の淑女たち」昨日、長野県中川文化センターで旅公演初日を迎えることが出来ました。11月2日の千秋楽まで何事もなく無事の公演できることを祈るのみです!
秋の薄暮