2025/02/21
【第2001回】
久しぶりに読後感がよい本に出逢った。第172回直木賞受賞作、伊与原新著「藍を継ぐ海」。地球惑星科学を専門とする研究者から作家に転身した異色の作家である。一話独立五つの短編シリーズなのだが、地方を舞台に科学とは縁がないと思っていた人が、科学を嗜好する人と出会い対話することで、それまでとは全く違う視点から人生を見つめ直し新たな一歩を踏み出していく展開。現代人が科学知識や科学的思考を駆使しながら、地方の歴史や伝統を未来に繋げようとする試みも読み物として秀逸である。
科学知識と地方に住むごくごく普通の人たちとで紡がれる人間ドラマのなかに、今現在、町、村、限界集落などなど、この国の未来像のヒントが隠されている。
この五編、皆読みどころがあるのだが、おいらは最後の「藍を継ぐ海」に感銘を受けた。徳島県の南東部に位置する架空の阿須町にやって来るウミガメを巡る話。年毎減少しながらも浜に帰って来るウミガメに対し
「どの浜に帰るかは、カメさんたちが決めること。気に入った浜には帰るし、気にいらん浜には帰らん。保護したいとか、増やしたいとかいうても、人間はまだそこまでウミガメのことを知らんと思うよ。人間の考えるとおりには、なかなかならん」
「もし浜が見捨てられても、何百年後かには浜も自然ときれいになっとるやろ。そしたらカメさんのほうで、勝手にこの浜を見つけてくれる」
どんなに科学が進歩したとしても、この世に無垢なる魂を持った人がどれほどいるかによってこの地球の寿命が決まる予感を感じさせてくれる小説である。
2001回目の夢吐き通信です。よっしゃ!3000回を目指しまっせ。
春を待つヒヨドリ