トムプロジェクト

2026/04/03
【第2163回】

奇才のマンガ家・つげ義春さんが3月3日に88歳で亡くなった。若い頃に貪るように読みまくった「ねじ式」「「紅い花」「ゲンセンカン主人」「李さん一家」などなど、おそらく日本初のシュルレアリズム的マンガであった。つげ作品が選ぶ場所は、どこも裏通りか場末といったような小さな町や村の外れである。そこには得体の知れない人物が必ず登場し世にも不思議な物語が展開される。そして日本の土俗的な深層に読者を引きずり込んでいく超現実的な絵のスタイルがこれまた強烈、読み終わった後数日間脳裏から離れることがない。

温泉場のシーンがしばしば登場するのだが、観光地とか名だたる温泉はまず登場しない。ひなびた温泉、あるいは鉱泉宿とか、廃れた温泉ばかりだ。おいらが若い頃に頻繁に通っていた北温泉も登場する。那須温泉の奥深くにある北温泉の開湯は古く170年前、中でも元禄奈良時代の宝亀年間(770年頃)に大天狗が発見したと伝わる「天狗温泉」は幽玄の世界。

薄暗い浴室はそれだけでも鄙びた雰囲気ではあるが、壁に掲げられた天狗の面が何かを語りかけてくる不思議な世界観を醸し出している。もっと言えば畏れすらを感じさせる。室内外に子宝祈願の絵馬が数多く奉納されているのを見ていると、まさしくつげ義春の世界に踏み入れた感覚に陥ってしまう。この湯は混浴で、いつだったかおいらがひとり桃源郷の思いに酔いしれた時、湯けむりのなか女性と思しき姿がこちらに向かってきて天狗の面の下にゆるりと湯の中に...ジロジロと見たわけではないが50前後艶っぽい容姿、思わず、つげ義春の世界に迷い込んだ瞬間でもあった。

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善福寺川緑地公園

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