2026/06/24
【第2197回】
酒井忠康著「舟越桂―森の声を聴く」読了。2024年3月に72歳で亡くなった彫刻家・舟越桂さんのことを記された本である。彼が樹木を削った彫刻には、いつも遠くを見つめるまなざしを持った静かな人物像が多い。生涯を通じて人間に対する飽くなき探求心が創作意欲をかきたてたのではなかろうか...おいらが舟越さんの存在を知ったのは1999年に出版された天童荒太著「永遠の仔」のブックカバーを飾った木彫刻である。正直言って本の中身より強烈な印象であったのを記憶している。その後、舟越さんの作品を観るたびに彼は彫刻家というジャンルを飛び越え文学者、詩人としての顔を持つ真のアーチストだと確信した。
彼の作品は、いずれもどこかに置き忘れた人間に対する、ある種の感応的なまなざしを感じさせる。いろんなかたちで、記憶の中の人間的な出会いを彷彿とさせる魅力がある。彫刻という既成の概念にとらわれることなく、己のフィーリングを大切にしながらも細かいところも気にせずけろっとした遊び心があるところもなかなか面白い。
彼の四畳半程度の狭いアトリエの壁にはこんな張り紙があったそうだ。
「アトリエは迷いの場であり、迷うから道を探す」「鐘を鳴らせ!俺は生きてるんだ」「芸術は作られるのではなく生まれるものだろう。私たちのやれることなどそう大きなわけがない」「思いよ世界の涯てまで飛んでいけ」
どのことばも深遠で暗示に満ちていて、自らの戒めとして貼っていたに違いない。今日も世界のあちこちで、いろんなアーチストが日々様々な葛藤を抱えながら創作活動に邁進してるんでしょうね。

舟越桂の作品「書庫の中を飛ぶ」

