トムプロジェクト

2026/10/09
【第2238回】

ONEOR8公演「台所の女たちへ」を観劇。今年トムで上演した「沼の中の淑女たち」を作、演出した田村孝裕主宰の作品です。なんと言っても田村作品にはあの向田邦子さんの匂いがプンプンします。相当、彼女の世界に惹かれるものがあると思います。今回の作品は、平成28年、地元の名家であるフタムラ製作所三代⽬・二村儀之助の通夜から開幕。戦前から軍需産業の下請けとして貢献した一族。集まった一族の会話から見えてくるこの家の人間模様と歴史、そして家族の間でさまざまな問題が噴出し押し問答が続く。向田作品には何ともいえない情念が哀しくも残酷な時間として行き交うのだが、田村作品は人間の持つ滑稽さを全面に押し出し笑いに変えるドラマツルギーで観客楽しませてくれていました。そして、トムでもお馴染みの音無美紀子さんの気品溢れる存在感はさすがでした。

それにしても、このところの田村作品にハズレがない。シャイな田村さん、結構な人間観察と相当な読書量の日々を過ごされているのではなかろうか...演出も女優陣に信頼があると聞いています。演出家もいろんなタイプがいます。頑なに己の主義主張を一貫して通す御仁、揉めることを良しとしない柔和で優しいアットホーム型、一人の役者をスケープゴートとして一点集中ダメ出しに拘り他の役者に見せつけるタイプ、有名な役者にはダメ出さず無名の役者にお説教するなんとも嫌なタイプなどなど。そりゃ、演出家だってニンゲンですから人それぞれでございます。

この日の下北沢スズナリには、トムにも出演して頂いた岡本麗、松金よね子、小野武彦さん、そして村井國夫さんもご来場。舞台も客席も華やかな一日でした。

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秋の空2

2026/10/07
【第2237回】

老舗の劇団民藝公演「証」を観劇。作・演出は中津留章仁、トムでも今年「チョークで描く夢」を上演しました。彼が俄然注目されたのが2011年に東日本大震災と原発事故を正面から取り組んだ「背水の孤島」。この事故から半年後に3時間を超える舞台を提出し、震災で生じた様々な問題点と原発の是非を観客に問いかけた衝撃的な作品であった。今の演劇界で常に現在に直面する諸問題をストレートに演劇に取り入れる希有なる作、演出家である。最近彼が拘っているいるのが過疎に直面する地方の生態、土砂崩れで公民館に孤立し右往左往する若者達を描いた「黄色い叫び」、豊かな都市と地方都市の格差を題材にした「分岐点」「対岸の絢爛」、中津留の故郷、大分県津久見市で建設業を営む一族の物語「堕ち潮」これは多分本人の家族縁者の話であるに違いない。作家もここまでたくさんの戯曲を書いてきたのだが、やはり己の生まれ育った土地への検証を兼ねて原点に立ち戻ったのではなかろうかと推測する。その後、安芸高田市をモデルに市長と市議会の対立を描いた「掟」この市長、のちに東京都知事にも立候補し落選、なんだかんだと話題になったんだが所詮キワモノだったんでしょうね。そんなすれすれの作品を創るのも中津留らしいかな。その後、高知県大川村をモデルにダムで水没した村民たちの和解を描いた「埋没」。そして今年は北海道浦幌町の地域活性化に奔走し再生に取り組む群像劇を描いた「わたしの町」。おいらも九州を舞台にした作品を数多くプロデューサーしてきましたが、同じ九州人である中津留章仁が地方の現実を見つめ創作する姿勢に大いにシンパシーを感じます。

今回も地元を舞台にした作品、民藝のベテランと若手を上手くいかしながら過疎化が進む町への問題提起にひるむことなく挑みました。

この困難な時代、真摯かつ己の信念を貫きながら演劇人としてトラッシュマスターズを主宰する彼に秋波を送りたい。

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秋の空

2026/10/05
【第2236回】

先週の土曜日は、新宿紀伊国屋ホールで今年28回目を迎える石橋幸「僕の叫ぶ声」に出かけてきました。石橋幸こと通称タンコさんは、新宿ゴールデン街で半世紀以上「ガルガンチュア」というお店のママさんでもあります。おいらも当然半世紀以上通い続けている常連の一人です。タンコさんもともとは舞台俳優であり、10人も座れば満杯になる店には作家の中上健次、暗黒舞踏の創始者土方巽、おいらが大好きな映画監督森崎東などなど一癖も二癖もあるアーチスト、そして右翼から左翼に至るまで幅広いジャーナリストが夜毎朝まで酒を酌み交わし喧々諤々の論争に明け暮れていました。酒を楽しんで飲むどころかしっかりとした理論武装と、あらゆるジャンルにわたる知識なくしては留まることが出来なかったお店でした。そんなゴールデン街も今や、世界各国の情報誌に東京のディープな場所として紹介され9割が外国観光客で占領される街に様変わりしました。

ところでこの日のコンサート、タンコさんも82才、さすがに肉体的な衰えはあるものの持ち前の凛とした精神性を堅持しながら2時間弱の舞台を無事相務めました。全22曲すべてロシア語で歌うところがなんとも彼女らしい...中上健次が「石橋幸は、ロシアの歌をロシア語で歌い、あまりにも深くロシアの人と土地に共振れする。」と言わしめた。

最近、身近な人の死に立ちあっているだけに、この日もタンコさんが来年もこの場で歌う現場に立ち会えることを願って劇場を後にしました。

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来年も歌ってね ♪

2026/10/01
【第2235回】

渋谷のイメージフォーラムで、今年4月に亡くなった金井勝さんの映像を観てきました。金井さんとは今は亡き同人誌「鷽」を発行していた中村信昭さんの紹介で縁を頂きました。金井さんは、劇映画やドキュメンタリーといったジャンルを自由自在に行き交いながら独創的かつ刺激溢れる作品を創りあげてこられました。カメラから覗く対象に対し彼独特の感性、信念基づいて円転滑脱に発想された作品群は、日本の実験映画、個人作家としての先駆け的な存在であり、その後の多くの映像作家に多大な影響を及ぼしています。今回観た「聖なる劇場+スーパードキュメンタリー前衛仙術」も十分楽しませて頂きました。自宅の庭に生息する生き物に対する深い愛情と感謝の気持ちが画面から溢れんばかりこぼれ落ちていました。そして、時折発する金井さんの臍下丹田から発する命の叫び声が、なんとも可愛く美しかった。89年の生涯、自分に嘘をつくこともなく己の生命の在り処をしっかりと見つめながら生き抜いた金井さんにお疲れ様でしたと言いたい。

帰りに、これまた昨年亡くなった児玉徹がやってたスペインレストラン「ラ・プラーヤ」があった店の前を通ることになった。おいらが住んでたスペインアンダルシア、サロブレーニャ村にひょっこり現れ、すっかり気に入ったこの村でアパートとバイト先を紹介し、その後帰国し店を構えて、それなりの人気店に仕上げた何とも憎めない男でした。表面的には強気を前面に出してはいたものの、実は照れ屋で心優しき九州男児でした。

嗚呼、この歳になると先輩、友人が次からへと黄泉の国に旅立ってしまう。おいらもそのうちだとは思うのだが、まだまだ勉強しなきゃならんことが多すぎますので、そちらの旅は予定しておりませんがな。

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金井勝の万華鏡