トムプロジェクト

2025/09/01
【第2079回】

8月29日に幕を開けた「鬼灯町鬼灯通り三丁目」、昨日で3ステージ無事に終えることが出来ました。初日はさすがに役者さんは緊張しますね。稽古で積み上げたものを初めてお客様の前に晒し、どんな反応が返ってくるのか表現者としてはとても気になるところです。でも、演出家との丁々発止の時間は間違いではなかったことを証明してくれました。2日目は初日の感覚をものにした4人の息のあった演技で、初っぱなから笑いの連続、テンポ良く最後まで観客の集中力を切らすことなく見事な芝居を創りあげてくれました。昨日は、2日目の舞台を踏襲しながらも違う切り口で役者が楽しんで居る姿を観ることができました。

芝居は生きものです。毎日観ていると、新しい発見があり前日とは違う作品なのでは?なんてこともあります。そして観客によって育てられていることもよく分かります。お客さんが直に受け取った感情はそのまま演者にストレートに伝わり次のアクションのヒントになります。長い稽古時間で仕込んだ作品を、観客と共に熟成させより味わい深いものにしていく過程こそが演劇の醍醐味です。

とはいえ、そんな作品ばかりでないことも確かです。大枚はたいて時間を拘束され、芝居途中からお金と時間返してくれ!なんて芝居があるのも事実です。だからこそ命を掛けるぐらいの気概で現場を維持しないと長続きはしないと思っています。

今日から9月、というのにこの猛暑。そんななか劇場に足を運んで下さるお客様にせめてもの一服の清涼剤になって下さればと残りのステージ、キャスト、スタッフ共々精魂込めて務めさせていただきます。

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赤坂・高橋是清翁記念公園にて

2025/08/29
【第2078回】

京王井の頭線内でのある風景です。おいらの前の優先席には品の良い80歳くらいの叔母ちゃまが座っていました。足下には帽子が転がっていました。そのうち気づくだろうと黙って見てましたが、次の駅で帽子に目をくれることもなく降りてしまいました。そして矢継ぎ早に乗ってきたおっちゃんがその帽子を足で蹴飛ばしてドア近くに寄せました。そして次の駅、ドアが開き数人の人が邪魔になる帽子を無視して乗り降りしていました。誰にも相手にされることなく転がる帽子、おいらさすがに可哀想と思い網棚に置こうとしたところ、幼児を抱えた若いお母さんが素早く拾い上げ網棚に載せてくれました。ああ無情!いたいけな帽子になんの感情も感じない多くの人達に、この時代が形成してきた情の薄さを感じた次第。でも、若い母親の一瞬の行動を見るにつけまだまだ未来は捨てたもんじゃないとも思えました。

分かりますよ!この30年、一向に生活は改善されず、世界では目に余る惨事が日々報道され、気分は晴れず、他人に対する優しさまで手が廻りませんなんて悲鳴が聞こえてきます。でも、こうやってなんとか平和を保ち生活できているんですから...

今日から「鬼灯町鬼灯通り三丁目」が始まります。この芝居の中には人に対する熱いほどの情愛が脈々と綴られています。人を愛する気持ちが希薄になったときに戦争が始まります。

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薄暮

2025/08/27
【第2077回】

昨日は明後日初日を迎える「鬼灯町鬼灯通り三丁目」の最終稽古に立ち会いました。いやいや、キャストの皆さん、この猛暑の中、なかなか上質な作品に仕上げてくれたなと思いました。芝居の基本は何と言ってもチームワークです。相手があって成立する産物ですから阿吽の呼吸が合わないとなかなかうまくいきません。一人卓越した役者が居てもどうにもならないのが芝居の世界です。きちんとコミュニケーションができてこそ会話も成立し、そこからお互いの心理戦へとより密度の濃い世界へと進行していきます。

その様を日々観ながら演出する人によって作品も大きく左右されます。今回の作・演出の東憲司さんは、役者の良さを引き出す名手。おいらもいろんな演出家と一緒に仕事をしてきましたが、東さんは役者を上手く乗せながらもきっちりと自分の世界を構築して作品を創り上げるタイプだと思います。役者さんも一癖二癖あるのは当然ですが、そこをどう上手く調教していくかコンダクターとしての手腕を問われるところですね。

稽古場がある錦糸町、稽古があるたびに随分と足を運んでいるのですが下町でありながら味わいのあるお店があちらこちらに点在しています。新鮮な羊肉を提供する店も予約しないと入れない盛況ぶり、粋なママが仕切る和食店、稽古場のすぐ前にある焼き鳥屋、その先には錦糸町らしくないイタリヤレストランなど、そして極めつけは飲みものとセット800円で提供している中華屋さん2軒、近くにすみだパークスタジオがあり、稽古帰りのスタッフ役者さんにとってもリーズナブルな価格なので稽古帰りにちょいと一杯!こんな場でまた一つ良いアイデアが生まれるかも知れませんね。

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下町のシンボル

2025/08/25
【第2076回】

この異常な暑さに耐えかねて、おいらは日傘を購入しました。これまではハットでなんとか凌いでいたのですが、いやはや命の危険さえ感じる地球になっちゃいました。いざ傘をさしてみると快適です。お歳を召した方には是非実行に移されてはと老婆心ながらご意見いたします。大の男が?なんて時代はもはや通用いたしません、予測不能な時代に突入しましたのでとにかく己を守ることに徹してくださいませ。

先週は「入国審査」鑑賞。これも予測不能な出来事を描いた映画。アレハンドロ・ロハス、フアン・セバスチャン・バスケスという二人が共同脚本・共同監督のスペイン映画。撮影14日間、制作費1000万弱、77分ワンシチュエーションという非常にコンパクトな作品だが、内縁関係の男女と入国審査官の息詰まるやりとりが最後までハラハラドキドキの連続。おいらもいろんな国に行った際、入国審査の現場に立ち会い様々な人種のやり取りを目にしましたが、この映画を観て改めてある種の恐さを感じた次第です。権力を笠にプライベートな事情まで詮索し、2人の信頼関係を引き裂いた入管のやり方は非人道的だ、という主張を読み取ることもできるし、人生の途上で政情不安なベネズエラ人に対し徹底的に追いつめる現トランプ政権の移民に対する嫌がらせともとれる取り調べ。観客の視点で言えば、話が進むにつれ各登場人物の見え方、信頼度のようなものが変わってゆくサスペンス的な流れが面白い。感傷的な音楽を流すこともなく、工事音、足音などのノイズが登場人物の心理と相まって効果抜群。この作品は演劇的な映画、審査官とカップルの会話が命、改めて台詞の大切さを感じさせてくれる作品でした。

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サンゴジュ

2025/08/22
【第2075回】

来週の8月29日(金)から始まる「鬼灯町鬼灯通り三丁目」の稽古場に顔を出してきました。連日の猛暑の中、役者さんたちも疲れが溜まっているのではと心配しつつ出かけたのですが、そんな心配も吹き飛ばすくらいの活気あふれる稽古場でした。この芝居の初演が2008年ですから、はや17年になります。東憲司さんに作、演出を依頼して2作目の作品でした。キャストも秋野暢子、川島なお美、六角精児、冨樫真という斬新な顔ぶれだったと思います。この演目は、戯曲がしっかりしているので役者さんが変わっても良い芝居になると思っていました。その後、キャストを変えて再演、そして今回が再々演となります。

戦争が生み出した悲喜劇の物語。今年戦後80年ということで、今まで門外不出の出来事が数々露出されました。戦争体験者も高齢化し、これまではあまりにもおぞましい事件であり口に出すのを憚れていたのですが、さすがに伝えていかねば死にきれないと戦争のない世界を希求しながらの発言だったと思います。

今日も戦禍で多くの命が失われています。先日、戦争犯罪者と会ったばかりのトランプは早速、「侵略国を攻撃せずに戦争に勝つのは非常に難しい」と投稿しました。この男の発言に一喜一憂されている世界の予測不能な状況にただただ呆れるばかりです。

こんな中、せめてもの演劇に携わるものとして芝居を通して反戦の姿勢を示したい。その思いが伝わったのか、今回の芝居、9月1日(月)14時の追加公演のチケットが若干残っているのみとなりました。

無事初日を迎え、来年、再来年に繋がる芝居にしたいと思っています。

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この先が平和でありますように

2025/08/20
【第2074回】

なんとも切ない嫌な世界になりましたね...独立国を独裁者の欲望丸出し感情で侵略し、方や気分に応じて世界の有り様を気ままに弄ぶお方。その二人だけでウクライナのことを話し合うなんておかしな話じゃありませんか?大国のチカラを誇示して俺たちの意向でしか解決できないなんて傲慢な態度がとっても醜いと思います。戦争犯罪者である人物を赤絨毯で迎入れる映像を見た途端、反吐が出てしまいそうです。そしてヨーロッパの首脳が寄り添って陳情する姿も、あの歴史と文化を築いてきた国々すらチカラの前にはいかんともしがたい無力感を感じてしまいます。これからの世界は間違いなくアメリカ、中国、ロシアのご意向を伺いながらの動きになっていくことは間違いない事実ですね。

そこで日本、これまた不安定な政治状況。にっちもさっちもいかない糞詰まり状態のなか、これまた自己保身の政党ばかりで困ったもんでございます。その隙間を虎視眈々と狙ってるのが日本ファーストを掲げる不気味極まりない集団。ストレス発散とばかり刺激的な言動に熱狂する輩の地に足がついてない動きもとても心配になります。

それにしても暑い!後期高齢者の心身は、もはや思考停止に陥る危険性すら感じてしまいます。せめてもの陽が沈む時間帯に、散歩をしながら己の身体の働きをチェックしながらこの日の空の表情、暑さにもめげずしっかりと花を咲かせてる野花に声を掛けながら、今日も無事に活かさせて頂きましたと感謝する日々でございます。

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杉並柏の宮公園

2025/08/18
【第2073回】

お盆休みも終わり今日から又いつもの日常が始まるのかな...子どもたちの夏休みも残すところ2週間ばかり。最近はようやく夏休みの宿題を出さない学校も増えたとか、そうだよね、夏休みぐらいは勉強を忘れ存分に遊んで欲しいね。最近の若者は遊び心が無くなっちゃって可哀想、少々羽目を外してアウトーローな気分で社会を転げ回って欲しいもんでございます。今の世の中の常識なんて大したもんじゃございません、いやあまりにも規制が厳しくアップアップ状態。今日も人気者の俳優さんがエッチな発言したとかで話題になっています。言葉なんてものは個体で判断するのではなく、その前後の文脈のなかでイメージされるのだと思いますよ。個別の言葉をピックアップして攻撃する短絡化する社会が逆に恐いですね。周囲を気にしながらの言葉選び、ますます心身強張ってしなやかさがなくなって行く危険性を愁えます。

先週の週末は、座・高円寺で東京芸術座108回公演「名探偵シートン!!」を観劇。「シートン動物記」で有名なアーネスト・トンプソンシートンの物語です。動物は登場しないのですが、動物たちの目でこの世界を見るというテーマで話が進んで行きます。最近もこの国で熊の出没で話題になっていますが、動物たちに言わせればニンゲンどもが彼らの住み処を開発という名のもとで奪い、挙げ句の果ては殺戮されるという悪魔の所業に見えるのではないか...立場によって世界の味方が変わる。声高に叫んでいる多数のいかにも正義の顔をしているひとたちが必ずとも正解ではなく、もしかすると少数の意見、そして動物たちが見ている世界が本当は世の中を幸せに導いていくかも知れない。なんてことを考えさせてくれる芝居でした。

誠実に演じている役者さんの姿が印象的でした。なかでもトムにも参加して頂いたことのある梁瀬龍洋さんの味わいある芝居にホッコリいたしました。

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8月終盤の空

2025/08/15
【第2072回】

今日は終戦から節目の80年。いつものようにメディアは一斉に戦前戦後の記録映像を流し、平和の尊さを訴えています。その中でも、戦争体験者が少なくなりこの事実をいかに次世代にバトンタッチしていくことへの難しさを訴えています。方や、非常識極まりない世界指導者による核戦争の危機、これは安穏としてはいられない案件だと思います。夏祭り、野球観戦、旅行、家族友人との楽しい団らん...それらが一瞬にして消失してしまう危うさのなかで生きていることをもっと自覚する必要があると思います。一発の原子爆弾で広島、長崎が地獄絵図を呈した惨状を考えれば当然です...なのに日本でも核を持つ必要があると主張する政党の支持者が増えてることに、これまた驚きです。それにしても20代~50代のこれからの日本を担う人たちがSNSを通じて熱狂してる姿に、あのナチスの悪夢が重なってきます。

昨日は、よみうり大手町ホールで「WAR BRIDE~アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン」を観劇。戦争花嫁として渡米した女性の実話をもとにしたストーリー、当時占領者であるアメリカ兵との結婚がいかに勇気を要し、渡米後も幾多の困難を乗り越え人を愛することの大切さを若い役者さんがピュアな演技で伝えていました。

トム・プロジェクトも今年は戦争・平和に関する芝居に徹しました。2月に上演した「おばぁとラッパのサンマ裁判」、今月末から公演する「鬼灯町鬼灯通り三丁目」、11月公演「五十億の中でただ一人」、これからも演劇を通じてしつこく戦争の不条理を伝承していきたいと考える80年目の8月15日でした。

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戦後80年目の空

2025/08/13
【第2071回】

「アイム・スティル・ヒア」を鑑賞。1970年代、ブラジル、リオデジャネイロの軍政権下。ある一家を襲った実話を「セントラル・ステーション」のウォルター・サレスが16年ぶりに祖国で監督した作品である。軍政下のもと拘束される元国会議員の妻を演じるフェルナンダ・トーレスが実に良い。夫を捜し続け、子供を育て、自分自身も勉強しながら、抵抗しながら働いた一生を淡々とひとつの顔で演じている。老年期の役を実母フェルナンダ・モンテネグロが演じているのもなかなか粋な計らいだ。25年後に政権は夫の死を認めはしたがいまだ遺体は戻ってきていない。

この種の事件は世界各地で今でも頻繁に起きている。独裁政権が抵抗者を弾圧するのは常套手段である。この映画にもたびたび出てくる家族写真、過去の記憶、記録の忌まわしい事実を継承し伝えることの大切さを改めて考えさせてくれる。

そして、この日本において過去に起きた様々な権力による弾圧事件を映画化する例があまりにも少ない気がしてならない。臭いものにはフタをしろじゃないけれど、どうもこの国のうやむや体質を感じてならない。勿論、これらの映画を創っても興行成績に繋がらないという映画会社の姿勢にも問題がある。映画を手段として世に問う志を持ってほしいと願うばかりだ。

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落日

2025/08/12
【第2070回】

久しぶりにインド映画を観てきました。バヤル・カバーリヤ監督「私たちが光と想うすべて」昨年インド映画として30年ぶりに、カンヌ国際映画祭のコンペ部門に選ばれ、初のグランプリ(2席)に輝いた話題作ということで足を運んだのが、正直イマイチかな。商業都市ムンバイの街を流れるような手持ちカメラで追いかけ、「都会は人から時間を奪う。それが人生...」なんてフレーズで話は進んでいくのだが、この程度の作品は今やどこにも見受けられるので目新しい気がしない。おいらが初めてインド映画を観たのがサタジット・レイ監督の「大地のうた」。20代の頃、当時数々の佳作を提供していたATG(日本アート・シアター・ギルド)の作品の一つでした。インドに住む貧しい家族の話なのだが、生死の尊厳、輪廻の精神を感じさせる壮大な叙事詩に仕立て上げた傑作。同じアジアの人間として魅かれるものがあり、その後インドを旅した経験があります。その道中はおいらの人生のなかでも大きなエポックになっています。よく耳にする言葉のカルチャーショックそのものです。目にするもの、耳に届く音、五感に感じるものすべてがおいらの価値観が崩れ落ちる感覚に襲われる気がしました。

そんなインドは今や映画大国。年間700~800本の映画が製作されている。その中でも特異なのがミュージカル映画、歌手でもないヒーロー、ヒロインが歌い出し、おまけにその歌に振りを付けて踊りまで踊ってしまうという脈絡に度肝を抜かれる構成に思わず笑ってしまう。

今回観た社会問題をテーマにインドの現実をシリアスに描き出し、国内外で高い評価を受けているのだが、これらの歌も踊りも入らない芸術映画は、製作本数も年間20本程度に過ぎず、一般観客の支持は得られないまま今日に至っているのが現実である。

未だ貧富の差が激しいうえ、大多数が生活に四苦八苦してる庶民がせめてもの映画に夢を馳せ楽しい時間を過ごしたいというのも分かる気がいたします。

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猛暑にめげず涼しげに

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