トムプロジェクト

2025/06/13
【第2047回】

梅雨の季節には家に居ながら、ビル・エバンスの曲を聴くのがベストですね。おいらも断捨離の世代なのに最近やたらとビル・エバンスのCDを買ってしまう。以前あるやつも含めると30枚くらいあるのかな。1926年生まれの彼は、当時ニューヨークを拠点としたジャズ演奏家としては少数派の白人ピアニストであり、従来のブラックルーツとは一線を引いたヨーロッパとクラッシックの伝統を重視した存在であった。クラシック印象派に通じる部分に加え、彼の中には日本の禅や墨彩画に影響を受けたであろう曲、演奏が多々見られる。彼が墨彩画のなかにある墨一色の絵の手法に、ジャズの純粋な即興演奏の精神と相通じるものを感じたに違いない。彼の書棚には心理学、哲学、宗教、文学などなど多岐にわたる本が並んでいたらしい。確かに彼の曲を聴くと繊細で内省的、そしてインテリジェンスなものを含んでいる。

最初のトリオを結成したときのベーシスト、スコット・ラファロの存在も大きい。ベースという楽器がどちらかと言えば縁の下の力持ち的役割なのだが、彼の繊細かつ大胆な演奏は大黒柱的な存在へと押し上げた。「ポートレイト・イン・ジャズ」のアルバムに収録されている「枯葉」は何度聴いてもたまらんです...その彼も25歳にして交通事故で亡くなり、その後ビル・エバンスも何とか立ち直り音楽活動30年、51歳までにリーダーとして50枚以上のアルバムをリリースしました。

この時代、スポティファイ、アマゾンプライム、ユーチューブなどなどCDなんぞは不要になりつつありますが、CD、レコード(最近やたらと値上げしてコレクター相手の商売に辟易)を手にして音楽に向き合う姿勢こそミュージシャンの対する最大のリスペクトだと思っとります。

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神田川にて

2025/06/11
【第2046回】

関東もいよいよ梅雨入りしました。ジメジメしているんですがなんかしらホッコリします。なんと言っても紫陽花が喜んでいますね。一年間、この日を目標にしてきた晴れ舞台です。いろんな衣装を纏いながら、道行く人達にアピールしています。神さんの贈り物はたいしたもんです、季節に合わせてどんぴしゃりのプレゼントを魅せてくれるんですから...

プロ野球交流戦も始まりましたね。2005年から20年が経ちました。パリーグが声掛けしたのですが、多額のテレビ放映権収入を見込めていた巨人戦の試合数が減少するとしてセ・リーグがそれを拒否するという状況が続いていました。その巨人も昔ほどの人気も無くなり、交流戦は新たな野球ファンを獲得したと思います。

我がライオンズは交流戦に関しては2年連続最下位。今年こそ最下位脱出と思いきや先週広島カープに3連敗、今年も怪しくなったと思いきや、昨日、現在首位を走る阪神タイガースに逆転勝ちしました。8回表まで2対0で今日もあかんかな?とテレビを暗い気持ちというより諦めていたところ、ライオンズの小兵、滝澤夏央の大活躍で逆転勝ちをしました。

2021年のドラフト会議育成2位で入団して4年目、身長164cmと、2025年現在のNPB現役選手の中では最も身長が低いが、50メートル5秒8の俊足を活かして今年ようやく開花した感じです。今は大リーグも含めて大柄な選手の活躍が目立ちますが、滝澤選手みたいな人が出てくることによって、ちびっ子野球小僧へのおおいなる励みになることは間違いないでしょう。この交流戦、なんとライオンズだけがホームランなし...でも、小技を活かしながらプレーするスタイルもなかなか味わい深いものがありますよ。

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井の頭線

2025/06/09
【第2045回】

今年も花園神社に紅テントが建っていました。唐組第75回公演「紙芝居の絵の町で」を観劇。この紅テントに足を運んだのが58年前、おどろおどろしい役者がテントの中でくり広げる世界はまさに血沸き肉躍る、世にも不思議な感覚に襲われしばらくは日常に戻れませんでした。既成の演劇を変え、この時代にマッチした唐十郎の戦略は見事としか言いようがない。その唐さんも昨年亡くなりました。

今回の芝居、長年唐組に在籍したメンバーも少なくなり、若手主体の公演でした。嘗ては根津甚八、小林薫が演じたであろう役を若手がのびのびと演じていました。主題である紙芝居の絵が、登場人物の時間と空間を縦横無尽に往来し迷宮の世界に誘う。唐ワールドの特徴であるロマンあふれる万華鏡のごとき台詞が、観客の予想外な個所に徹底して襲来してくる...それを理解しようとする間もなく次なる台詞が速射砲のごとく追い打ちをかけるもんだからテント内は異次元の世界、己の感覚を研ぎ澄ましていないと置き去りにされてしまう。

唐さんの言葉は論理で解明しても答えは出ない。己の身体を曝け出して演じないと役者自体が荒唐無稽なモノに転じてしまう危険性を秘めている。その肝心なところを、演出の久保井研さんが上手く指導しているに違いない。本人も重要な役をこなしながら大変だったと思う。唐組の表、裏を支える藤井由紀さん、唐さんの娘さんである大鶴美仁音さんも素敵でした。

若い観客も増え、新しい唐組の予感を感じた公演でした。

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新宿花園神社にて

2025/06/06
【第2044回】

劇団桟敷童子「蝉追い」観てきました。1960年代、九州の炭鉱地帯を舞台にした家族の物語。すみだパークシアター倉に入った途端、鬱蒼とした森林に囲まれたセットに目を奪われました。このセットも劇団員が総力をあげて作り上げたものだ。外注に頼めば何百万もかかる規模だ。葉っぱひとつひとつに劇団員の魂が宿っている気がしてならない。

今回の芝居にゲストで山本亘さんが出演している。御年82歳になる亘さん、さすがの存在感である。亘さんとはおいらも2005年に共演したことがあります。ふたくちつよし作・演出「夕空晴れて」、風間杜夫、綾田俊樹、冨樫真さんたちと一緒にプロデューサーを兼ねて本多劇場、地方公演と旅した思い出があります。おいらは出演する気なんかなかったのですが杜夫ちゃんが是非一緒にやりたいというもんですから断ることが出来ず...。その時の亘さんは病を経て久々の舞台で悪戦苦闘の日々でした。稽古中の台本には数多くの付箋と書き込みがなされておりこの芝居に賭ける気持ちが十分に伝わってきました。長年のキャリアを積みながらも、まるで演劇青年に戻ったような姿に、この方本当に芝居が好きで好きでたまらないのだなと...だって、山本學、山本圭さん共々俳優三兄弟、おじさんは名監督山本薩夫。まさに芸能一家。芝居に対する姿勢は半端じゃありません。

今回、藤吉久美子さんもゲストで参加していました。まるで劇団員の一員であるかの如く立ち振る舞う藤吉さんの立ち姿も、彼女の人柄を感じました。

いつ観ても、この劇団の芝居創りには心打たれるものがあります。芝居の基本形は手作り、そして芝居をこよなく愛するハートでございます。

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今日の紫陽花

2025/06/04
【第2043回】

ミスタープロ野球の長嶋茂雄さんが亡くなりました。昨日から今日にかけてメディアで過去のシーンを含めていろいろ取り上げられていますが、おいらの長嶋選手は際昭和33年、野武士軍団西鉄ライオンズが日本選手権奇跡の3連覇した年にデビューした長嶋茂雄である。この年のライオンズはオールスター前までに宿敵南海ホークスに10ゲーム以上離されシーズンの優勝は絶望的だった。にもかかわらず優勝、そして日本シリーズでは3年連続、読売ジャイアンツと対戦することになりました。初っ端から3連敗、こりゃ駄目だとキヨシ少年もほぼ諦めましたが、なんと一日雨天中止を挟み、4連勝し優勝したのです。

その時に颯爽と登場したのが立教大学から入団した長嶋茂雄。新人でありながら水原茂監督は4番に抜擢。おいらも新人ながら華やかにプレーする姿に敵ながら清々しい感じがしました。でも、こちらは神様、仏様、稲尾様が必ずや奇跡を起こしてくれるもんだと固く信じていました。サイちゃんこと稲尾和久投手は、とにかくすごかった。1年で42勝したり、日本シリーズでホームラン打ったり、文句も言わず連日登板したりとかまさしく鉄腕稲尾。引退後も、博多から球団が無くなった後、博多に球団が出来るように誘致運動に一生懸命でした。そのおかげで今のホークスがあることを博多のホークスファンは忘れちゃなりませんぞ。

スポーツの世界、やはりどの時代もスーパースターが居なきゃ発展はありません。大谷選手、大の里...そのあとに続く人はどなたかな?

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昨日見つけたカルガモ親子

2025/06/03
【第2042回】

先週の金曜日には、新宿中落合にあるシアター風姿花伝でシェイクスピア戯曲による「悪い仲間」を観劇、戦争をとことん嫌っていたシェイクスピアが喜劇的な登場人物を通じて今尚止むことのない不条理極まりない戦争の時空間に身を委ねたらどうなるか?8人の役者が複数にわたる役を演じ、狭い空間で様々な趣向を凝らしながら演じていました。表現の幅は無限でありながらもどこを上手く抽出するかによって観る側の評価も大きく分かれます。今回の芝居が刺激的な舞台に映った人、しっくりこなかった人、いずれにしてもそこが演劇の面白いところかもしれませんね。この芝居で大学時代の同級生でもある小田豊が出演していました。学生時代から演劇を志し、全盛時代の早稲田小劇場に所属し現在まで81歳とは思えない役者ぶり、大変なことも沢山あったとは思うのだが今尚好きな芝居やってるんだから幸せもんですたい。

日曜日には吉祥寺シアターで劇団チョコレートケーキ「ガマ」を観劇。この作品は劇団が2022年に初演した芝居です。この年、日本の戦争に焦点を当てた5作品と新作「ガマ」を加えた6作品の連作[生き残った子孫たちへ 戦争六篇]を東京芸術劇場シアターイーストウエストにて上演し第30回読売演劇大賞を受賞しました。この劇団は一貫して日本が戦争に傾いていった要因を徹底的に追求し芝居にしてきました。戦争を知らない世代がここまで拘ることに対して先ずは敬意を表したい。確かに今回の芝居にしても、沖縄戦真っただ中、洞穴の中での息詰まるシーンの連続に違いないのだが、この場から目を逸らした瞬間から権力者の罠に嵌り戦禍は拡大していくに違いない。この芝居に出演していた大和田獏さんの演技が秀逸でした...獏さん役者として、今一番脂が乗っているんじゃないかしら。

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子ガモ生まれるといいなぁ

2025/05/30
【第2041回】

昨日はトム・プロジェクトで多くの作品を提供して頂いているふたくちつよしご夫婦と食事しました。誠実な人柄そのままが作品に反映されトムのヒットメーカーでもあります。日常の何気ない営みをさりげなく描く世界は、数々の心染みいる映画を世に送り出した小津安二郎の世界に通じるものがあります。彼の好きなNHKテレビ「ドキュメンタリー72時間」おいらもよく見ています。特定の場所に72時間密着して、そこに行き来する人達にインタビューするのですが各人の生き様、哀感が滲みでてそんじょそこらの安っぽいドラマより劇的なのである。人は皆、必死に生きているのである。いろんな修羅場をくぐり抜け愛する人達のために時には我慢を強いられ踏ん張っている。

そんな姿を、ふたくちさんは人生の応援歌として芝居にしたいのかも知れない。彼の人間に対する愛情は半端ではありません。そういえば悪人はあまり登場しませんね、憎悪の感情からはその先の希望が見えないことを前提に作品を考えているに違いありません。

30年間芝居を創ってきて、ふたくちさんとはいつも最後まで気持ちよく千秋楽を迎えることが出来ました。今年も新作を依頼していますし、これからもなんだか冷え冷えした時代だからこそ心揺さぶる作品を期待しています。

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今日の雨にお似合いですね

2025/05/28
【第2040回】

のぼせもんという言葉がある。つい夢中になって対象物にのめり込んでしまう状態を指す。作家、宇野千代さんが生前こんなことを言っていた。

「世間の人は生活するのに、のぼせたりしているのではなく、何事にも冷静に考えた上で、始めてゆっくりと生活するのが好い、と考えているのであろうか。しかし私の思っているのは、それとはほんの少し違うのである。いや、ほんの少しではなく、とても違うのである。人生は凡てのことに、のぼせなければならない、と思っているのである」

昔から、風呂に長く浸かっていると「のぼせるぞ」なんて声をかけられたもんだが、実はのぼせるまで湯に浸かっていることは実に気持ちの良いことである。のぼせちゃいけないなんて冷静に考えながら湯に浸かっている人なんて居るんだろうか?

恋にしたって同じである、自分の身のまわりのことを気にしながら冷静沈着な思いで恋愛ごっこしている姿なんてなんとも寂しいもんでございます。

この世の中、なんとも元気がない、覇気がない佇まいを度々目にします。老若男女すべからく、のぼせるくらい何事にもチャレンジする気概を持って欲しいと思います。

今日も大谷選手ホームランをかっ飛ばしました。3試合連続20号、5年連続で20本以上のホームランを打てるなんて、きっと野球にのぼせているんでしょうね。

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一足お先に

2025/05/26
【第2039回】

先週の週末、シンガー・ソングライターの山崎ハコ「50周年記念&バースデーLIVE」有楽町ヒューリックホール東京に行ってきました。1975年にデビューし、フォークブーム後半をリードしたハコさんは今年がデビュー50周年で、今月18日に68歳の誕生日を迎えました。小柄で華奢な身体から発する歌には、彼女の人生で味わった思いが込められていました。生ギター一本で女の情念や怨念といった心情を土俗的なイメージとともに哀しく切々と歌い上げる姿に共感する根強いファンが、今でも数多くいます。

彼女がステージ上で語っていた言葉が印象的でした。50年間歌いながら、常に上手くなりたいという欲望が沸き上がるのだが、彼女はその声を跳ね返すように気持ちで歌わねばとテクニックを拒否したそうです。彼女の歌を聴きながら納得できました...表現の仕方は様々だと思いますが、ハコさんにとっては上手く歌うことは己に正直でないという取り繕いの表現を止めたんだと思います。山崎ハコでしかできない歌の世界を展開したかったんでしょう。

「呪い」という曲は本当に怖かった。呪いを込めて藁人形にくぎを刺すコーンコーンという擬音を交えながら、「そういう悲しい自分に釘を刺せ」との思いを歌にするハコさんの心情は彼女の真骨頂ではないだろうか。確かに暗い歌なのだが、身体からほとばしる強く伸びのある声はどこか未来の希望にも繋がっているように感じさせてしまう魅力。

この日は懇意にしている風間杜夫、竹中直人、原田喧太さんがゲストで駆けつけトークと歌で盛り上げていました。

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新宿東口広場より

2025/05/23
【第2038回】

昨日はOn7(オンナナ)の第6回公演「マライア・マーティンの物語」を観劇。1827年、イギリス東部の田舎町で若い女性が惨殺された実際にあった話を基にした翻訳劇です。

この集団にとっても初めての海外作品です。それにしても意欲的、果敢に挑戦し続けている7人の女優さんたち。いずれも老舗新劇の劇団に所属しながら、そこに安住することなく自分たちが真にやりたい芝居を上演することを目的に立ち上げた集団です。

その心意気にほだされ、トムの作品にも過去に尾身美詞さん、吉田久美さんに出演していただきました。芝居に対する真摯な姿を稽古場、本番でも発揮してくれました。

過去には、女優の松金よね子、岡本麗、田岡美也子による「グループる・ばる」という女優集団がありましたが数年前に解散しました。

これからは女性が活躍し世界をリードする時代だと思います。男社会の弊害があちこちで露見しています。なかでも未だ無くならない戦争、これは男による権力欲の象徴的な出来事だと思います。子を宿し出産し育てる、この過程を知らぬ男のチカラによる支配の構造はもはや限界にきています。特にこの日本での女性進出の割合は世界でも低ランクの有様。

演劇の世界も然り、On7の地道な活動が将来の演劇地図を変えていくかもしれません。一本の芝居を創り上げることは経済的、勿論、精神的、肉体的にも本当に大変なことだと思いますがめげずに継続してくれることを願っていますよ。

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ランタナ
(和名は七変化)

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