トムプロジェクト

2024/06/24
【第1908回】

2023年、カンヌ国際映画祭コンペティション部門でグランプリ、アカデミー賞では国際長編映画賞を受賞した「関心領域」を鑑賞。冒頭から不穏な音楽が流れ黒い画面から一転し、緑に囲まれた川で水浴を楽しみ帰宅するアウシュビッツの所長ルドルフ・ヘス一家の幸せそうな様子が瀟洒な邸宅ともに映し出される。手入れが行き届いた見事な庭園に沿った壁の向こうには、灰色に覆い尽くされた建物が並び、高く聳える煙突から煙が立ち上っている。そして絶えず流れる不気味な音(収容所で日常的に行われているであろう看守の怒声、ユダヤ人の呻きなどなど)このノイズが、この映画の中で一切映し出されない収容者内部の悲惨な有様を想像させる展開になっている。

これまでにも、いくつものホロコーストに関する映画が描かれてきたが、今回の手法はなかなか手が込んでいる。この混迷する世界においても、いくつかの壁が取り除かれると共にあらゆる情報が飛び交い、それに飛びつき関心を示しているようには見えるが果たしてそうだろうか?情報過多の中で、ほとんどの人が見えない壁を作って自分に都合の悪いことに目を向けることなくシャットアウトしているのではなかろうか...

でも、新宿の映画館には意外と若い観客が詰めかけていた。ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルによるガザへの攻撃、これらの現実に若者が自身の暮らしの外側で勃発している出来事に関心を向けている機運だと信じたい。

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まだまだ愛でてくださいね!

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