2025/04/30
【第2029回】
江戸時代には数々の料亭が立ち並び、昭和20年代から40年代には、この花柳界は「夜の首相官邸」と呼ばれるくらいの賑やかな柳町でした。その一角に、昭和の流行歌手市丸さんの屋敷跡を改装したルーサイトギャラリーがあります。時には美術品のギャラリー、隅田川を眺めながらのカフェ、そんな素敵な空間で俳優、鳥山昌克さんが数年前から芝居、朗読劇をやり始めました。昨日は泉鏡花原作の「天守物語」を6人の役者による語り芝居を鑑賞。つい先日、金沢で泉鏡花にまつわる場所を散策したばかりだったので興味深く拝見しました。数々の舞台を経験した役者の語り口は、すぐ近くを走る総武線の電車の音、隅田川を行き交う屋形船の姿と共に、現代といにしえを行ったり来たり...演劇の面白さは、場所の設定によって芝居そのものが大きく変貌することにあります。唐十郎さんが始めた野外にテントを張っての芝居、今やベテラン俳優になった石橋蓮司さんが主宰していた劇団第七病棟では芝居の中身に相応しい場所を探し、銭湯、工場跡地などなど劇場以外のところでの画期的な公演をしていました。
鳥山さんが場所に拘るのも分かる気がします。既成の劇場ではなく、人が長年生活した処には柱ひとつ、壁の隅々、天井の節目にいたるまでそこに集った人たちの息遣いが感じられます。そんな空間に立ち入った瞬間からすでに芝居は始まっている...勿論、その気配を自分のものに出来るか否かは役者の技量が問われる厳しさもあります。
終演後、この日来場していた大和田獏さんと軽く一杯。先日無事終えることが出来た「モンテンルパ」の旅公演の話、来月、劇団チョコレートケーキが上演する「ガマ」の話などなど...獏さんとの芝居に関するよもやま話とても楽しかったです。
ギャラリー2階のテラスから