2025/04/23
【第2026回】
先週、新国立劇場小劇場で三好十郎作「夜の道づれ」を観劇。この作品は三好十郎によって1950年に文芸誌「群像」に発表された作品です。敗戦後の夜更けの甲州街道をとぼとぼと歩いている、男二人の一種のロードムービーのような戯曲。実際に作家が夜の甲州街道で見聞きしたエピソードを織り交ぜながら、ドキュメンタリータッチで描いた演劇的実験性の高い作品。最近、若い演劇人が三好十郎の戯曲を取り上げる風潮があります。
九州の佐賀の出身で、戦前は築地小劇場などで戯曲を提供し、戦後は近代の既成文学全般への批判を貫き進歩的文化人を徹底的に痛罵した気骨のある作家。おいらが初めて観たのがゴッホを描いた「炎の人」、ゴッホを演じた滝沢修の演技に酔いしれた記憶があります。
さて、今回の公演、いろいろと試行錯誤の様は見て取れるのだが、肝心の戦後の日本の姿が見えてこない。演劇は時代とともにあるので、当時書かれた戯曲をそのまま踏襲すればいいというものではないと思うのだが、やはりこの戯曲の本質は敗戦後の日本の姿、匂いだと思う。あの当時の日本人の寂寥感、それに伴う鬱屈したエネルーギーを如何様にすればという苦悩、片やあの混乱期に逞しく生きた女性たちの生き様...これらが残念ながら表現されなかった気がします。そんななか、唯一この世界を表現していたのが滝沢花野。まさしく体当たりの演技で役になりきっていました。昨年も彼女が出演する芝居何本か拝見しましたが、どの作品もアグレッシブ、その思い切りの良さに惚れ惚れしました。今後、注目している女優さんのひとりです。
雨ニモマケズ