2025/06/09
【第2045回】
今年も花園神社に紅テントが建っていました。唐組第75回公演「紙芝居の絵の町で」を観劇。この紅テントに足を運んだのが58年前、おどろおどろしい役者がテントの中でくり広げる世界はまさに血沸き肉躍る、世にも不思議な感覚に襲われしばらくは日常に戻れませんでした。既成の演劇を変え、この時代にマッチした唐十郎の戦略は見事としか言いようがない。その唐さんも昨年亡くなりました。
今回の芝居、長年唐組に在籍したメンバーも少なくなり、若手主体の公演でした。嘗ては根津甚八、小林薫が演じたであろう役を若手がのびのびと演じていました。主題である紙芝居の絵が、登場人物の時間と空間を縦横無尽に往来し迷宮の世界に誘う。唐ワールドの特徴であるロマンあふれる万華鏡のごとき台詞が、観客の予想外な個所に徹底して襲来してくる...それを理解しようとする間もなく次なる台詞が速射砲のごとく追い打ちをかけるもんだからテント内は異次元の世界、己の感覚を研ぎ澄ましていないと置き去りにされてしまう。
唐さんの言葉は論理で解明しても答えは出ない。己の身体を曝け出して演じないと役者自体が荒唐無稽なモノに転じてしまう危険性を秘めている。その肝心なところを、演出の久保井研さんが上手く指導しているに違いない。本人も重要な役をこなしながら大変だったと思う。唐組の表、裏を支える藤井由紀さん、唐さんの娘さんである大鶴美仁音さんも素敵でした。
若い観客も増え、新しい唐組の予感を感じた公演でした。
新宿花園神社にて